21 / 28
第五 最果ての村『バレイロ』
行く手を阻む岩山
しおりを挟む
列車を降りて鉱山駅の外に出ると、そこは周囲を高い岩山に囲まれた円形状の広場だった。地面には所々に雑草が生えていたが、その中に桃色のタンポポはなかった。
岩山は線路がある西側以外の三方向に高々とそびえ立ち、その高さは、見上げてもてっぺんが見えないほど。
駅を出た男達は、きれいに二手に分かれ、南と北の方向に歩いて行く。男達の歩く先を見ると、それぞれの行き先に、採掘で掘られたと思われる大きな穴があいていた。男達はまるでアリの行列が巣に帰る時のように、その大きな穴に次々と入って行く。
僕がその様子に見入っていると、横からビダンが説明を加えた。
「あの南北にある二つの穴は、もう五十年近くも掘り続けられているんだ。穴の入口付近にはヘルメットと採掘道具が置いてあって、みんなそれらを持って奥に進む。どちらの穴もかなり深い所まで掘ってあるから、中はトロッコで移動してるんだぜ」
「へえ、それはすごいね」
僕はそう言いながら、東に視線を向けた。なんと、大きなベニヤ板が岩山に打ち付けられている場所がある。そして、そのすぐ前には『立入禁止』の看板が立てられている。
「もしかして、南北の岩山を掘る前は、あそこを掘ってたの?」
僕は指差しながら尋ねた。
すると、ビダンは頷きながら、
「ああ、その通りだ。南と北を掘る前は、東側を掘っていた。今、お前が指差している『立入禁止』の看板がある場所さ。あの大きなベニヤ板は、その当時に掘った穴を塞いでいるんだ。誰も入らないようにな」と言った。
「どうして、東の穴は立入禁止なのさ」
僕が聞くと、
「さあな、俺も詳しくは知らねえ」
ビダンは首を横に振った。「東の穴があんな風に塞がれたのは、まだ俺が生まれる前のことだからな。俺のじいちゃんが鉱山で働いていた頃の話らしい」
「そんなに昔から?」
「ああ、なんでも村の言い伝えでは、東に向かって穴を掘ると、不思議なことに地震やら台風やらの天災が起こるっていうんだ。それだけじゃねえ。東の穴は掘っている最中に何度も崩れて、当時の鉱山労働者がたくさん生き埋めになったと聞いてる。気味が悪いだろ。『バレイロ』の村人達はみんな、東の穴は呪われてると思っているよ」
「もしかして、それが『バレイロ』より東に人が住んでいない理由?」
ビダンはゆっくり頷いた。
「ここは鉱山だが、なにも採掘のためだけに穴を掘っているわけじゃねえ。あわよくば、岩山の向こう側にトンネルを開通させ、人々の住む場所を拡大させたり、新たな資源を発見したりする狙いもある。俺達のご先祖様はレイリアの西海岸に上陸して以来ずっと、東へ東へと開拓を進めていった。しかし、さっき話したように、この鉱山では東に穴を掘ると地震やら台風やら事故やらの不思議な現象が起こる。おかげで、人々はこの鉱山より東に進むのを諦めるしかなかったんだ。この村の住人、いや、レイリアの住人にとって、東の方角は鬼門ってことさ」
不思議な現象って、そんな迷信めいたことが本当に起こるのだろうか。にわかには信じられないが、実際に東への開拓を断念したということは、この話は事実か。
僕は東の穴に向けていた視線を、そのまま上昇させた。さっきは見えなかったが、目を凝らすと、はるか高いところに岩山のてっぺんが見える。とてもじゃないが、人が自力で登れるような半端な高さではない。
飛行機やヘリコプターがあれば、簡単に岩山を越えられるのに。
一瞬そう思ったが、恐らく、レイリアには飛行機もヘリコプターもない。なぜなら、レイリアに来てから一度もそれらの乗り物を見てないし、もしもそんな便利なものがあるのなら、とっくに岩山の向こうとこっちを行き来しているはずだ。
ちくしょうー。ここより東には、どうやっても行かれないということか。
万事休す、八方塞がり。
これからどうしよう。
僕が頭を悩ませていると、
「なあ、タケル。さっきの話だと、お前はこのレイリアとは別の場所から来たってことだよな」横からビダンが言った。
「うん、そうだけど、それがどうしたの?」
「いや、まあ……」
ビダンは右手の人差し指で、自分の頭をポリポリと掻いた。「もしもの話だけどよ、お前の持っているものでなにか面白いもの、つまり、お前の住む場所にあってレイリアにはないようなもの、を俺にくれたりしたら、ちょっと耳寄りな情報を流してやってもいいぜ」
「そ、それって、この岩山を越えて東側に行く方法があるってこと?」
僕がビダンに詰め寄ると、
「まあ、そんなところだ」
ビダンは、ゆっくり僕の体を押し返した。
岩山は線路がある西側以外の三方向に高々とそびえ立ち、その高さは、見上げてもてっぺんが見えないほど。
駅を出た男達は、きれいに二手に分かれ、南と北の方向に歩いて行く。男達の歩く先を見ると、それぞれの行き先に、採掘で掘られたと思われる大きな穴があいていた。男達はまるでアリの行列が巣に帰る時のように、その大きな穴に次々と入って行く。
僕がその様子に見入っていると、横からビダンが説明を加えた。
「あの南北にある二つの穴は、もう五十年近くも掘り続けられているんだ。穴の入口付近にはヘルメットと採掘道具が置いてあって、みんなそれらを持って奥に進む。どちらの穴もかなり深い所まで掘ってあるから、中はトロッコで移動してるんだぜ」
「へえ、それはすごいね」
僕はそう言いながら、東に視線を向けた。なんと、大きなベニヤ板が岩山に打ち付けられている場所がある。そして、そのすぐ前には『立入禁止』の看板が立てられている。
「もしかして、南北の岩山を掘る前は、あそこを掘ってたの?」
僕は指差しながら尋ねた。
すると、ビダンは頷きながら、
「ああ、その通りだ。南と北を掘る前は、東側を掘っていた。今、お前が指差している『立入禁止』の看板がある場所さ。あの大きなベニヤ板は、その当時に掘った穴を塞いでいるんだ。誰も入らないようにな」と言った。
「どうして、東の穴は立入禁止なのさ」
僕が聞くと、
「さあな、俺も詳しくは知らねえ」
ビダンは首を横に振った。「東の穴があんな風に塞がれたのは、まだ俺が生まれる前のことだからな。俺のじいちゃんが鉱山で働いていた頃の話らしい」
「そんなに昔から?」
「ああ、なんでも村の言い伝えでは、東に向かって穴を掘ると、不思議なことに地震やら台風やらの天災が起こるっていうんだ。それだけじゃねえ。東の穴は掘っている最中に何度も崩れて、当時の鉱山労働者がたくさん生き埋めになったと聞いてる。気味が悪いだろ。『バレイロ』の村人達はみんな、東の穴は呪われてると思っているよ」
「もしかして、それが『バレイロ』より東に人が住んでいない理由?」
ビダンはゆっくり頷いた。
「ここは鉱山だが、なにも採掘のためだけに穴を掘っているわけじゃねえ。あわよくば、岩山の向こう側にトンネルを開通させ、人々の住む場所を拡大させたり、新たな資源を発見したりする狙いもある。俺達のご先祖様はレイリアの西海岸に上陸して以来ずっと、東へ東へと開拓を進めていった。しかし、さっき話したように、この鉱山では東に穴を掘ると地震やら台風やら事故やらの不思議な現象が起こる。おかげで、人々はこの鉱山より東に進むのを諦めるしかなかったんだ。この村の住人、いや、レイリアの住人にとって、東の方角は鬼門ってことさ」
不思議な現象って、そんな迷信めいたことが本当に起こるのだろうか。にわかには信じられないが、実際に東への開拓を断念したということは、この話は事実か。
僕は東の穴に向けていた視線を、そのまま上昇させた。さっきは見えなかったが、目を凝らすと、はるか高いところに岩山のてっぺんが見える。とてもじゃないが、人が自力で登れるような半端な高さではない。
飛行機やヘリコプターがあれば、簡単に岩山を越えられるのに。
一瞬そう思ったが、恐らく、レイリアには飛行機もヘリコプターもない。なぜなら、レイリアに来てから一度もそれらの乗り物を見てないし、もしもそんな便利なものがあるのなら、とっくに岩山の向こうとこっちを行き来しているはずだ。
ちくしょうー。ここより東には、どうやっても行かれないということか。
万事休す、八方塞がり。
これからどうしよう。
僕が頭を悩ませていると、
「なあ、タケル。さっきの話だと、お前はこのレイリアとは別の場所から来たってことだよな」横からビダンが言った。
「うん、そうだけど、それがどうしたの?」
「いや、まあ……」
ビダンは右手の人差し指で、自分の頭をポリポリと掻いた。「もしもの話だけどよ、お前の持っているものでなにか面白いもの、つまり、お前の住む場所にあってレイリアにはないようなもの、を俺にくれたりしたら、ちょっと耳寄りな情報を流してやってもいいぜ」
「そ、それって、この岩山を越えて東側に行く方法があるってこと?」
僕がビダンに詰め寄ると、
「まあ、そんなところだ」
ビダンは、ゆっくり僕の体を押し返した。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
児童書・童話
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です*
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
【奨励賞】氷の王子は、私のスイーツでしか笑わない――魔法学園と恋のレシピ【完結】
旅する書斎(☆ほしい)
児童書・童話
【第3回きずな児童書大賞で奨励賞をいただきました】
魔法が学べる学園の「製菓科」で、お菓子づくりに夢中な少女・いちご。周囲からは“落ちこぼれ”扱いだけど、彼女には「食べた人を幸せにする」魔法菓子の力があった。
ある日、彼女は冷たく孤高な“氷の王子”レオンの秘密を知る。彼は誰にも言えない魔力不全に悩んでいた――。
「私のお菓子で、彼を笑顔にしたい!」
不器用だけど優しい彼の心を溶かすため、特別な魔法スイーツ作りが始まる。
甘くて切ない、学園魔法ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる