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第1章 本章

第8話 予想された未来、予測できない未来・後編

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 とりあえず、体の自由が利くようになった私達。問題は入り口であるが。当然の事ながら、道具になりそうな物は何一つ無い。
 逃げ出せることを想定していないのか、ただの倉庫の扉のようで、もしかしたら力を込めれば開けられるかもしれない。無理やりにでもこじ開けてみるかと、<<膂力のカルマ>>を使って力を込めている。

 扉が開いた。

 幸いにも扉をこじ開けた音はそうでもなく、部屋から出ようとした時に、佐藤さんと鈴木さんから感嘆の声が上がった。が、気づかれるかもしれないので、私は自分の唇に指を当てて静かに行きましょうのポーズを取る。辺りを見渡し、人がいない事を確認しながら自分たちがいる場所を確認。どうやら、倉庫街のようである……。
 しばらくの間、周りに注意を払いながら出口を探していると、自分たちが連れ去られた時に乗っていた車を発見した。中は空席で人が乗っていないのを確認し、自分たちの貴重品があるかもしれないと車の中を覗いたら、幸運なことに助手席に財布やら貴重品が置きっぱなしになっていた。
 これはチャンスと思い、ここでも能力を使って車の扉をこじ開け・・・・と思ったら、カギが掛かっておらず、普通に開いてしまった。さすがに車のキーは無いようだが、私達は貴重品を回収し、その場を立ち去ろうとした時…。

 後方から怒号が聞こえてきた。

 さすがにバレたようで、私は走って逃げるように皆に呼びかけ、出口と思われる門扉のほうへ全員で全力で走り出した。チラりと後ろを振り返ると追ってきている人数は二人。
 しかし、私たちと誘拐犯との距離は縮まる事は無く、3人揃って街中の方まで逃げ切ることができたのだった。時間にすると十分以上走っていたと思う。私たち3人は息を切らしながらお互いの無事を確認し、安堵の表情を見せた。

 そして佐藤さんと鈴木さんは、二人して私の方を向き笑顔で話し始めた。

「中島さん。貴方のおかげで助かりました。本当にありがとう」
「ヒモを引きちぎったり、扉をこじ開けたり…。貴方のような力持ちは初めて見ました」

 私は、二人から握手を求められたので、意に介すように私も2人の手を握った。

 その時、電気が走ったかのような達成感が自分を襲う。
 新しいカルマを得る瞬間だ。
 行為の結果が、自分に帰ってくる。
 神様に与えられた能力が、自分の中で増幅される感覚。
 自分の力として蓄積されていく感覚。

 佐藤さんと鈴木さん……。共に脱走をしたという共感が、カルマを繋げる。『疾走して逃げ出すことができた』という繋がりが、力となり私の中に流れてくる――。

 私は、その新たな感覚を身に沁みながら、3人と警察署に向かい、事情を説明した。警察で詳しく事情を聴かれ、そう短くはない時間を拘束された後、疲れた顔をしながら警察署の外に出てみると、もう外は真っ暗になっていた。
 
 佐藤さんと鈴木さんと別れた後、私は村瀬さんにスマホで連絡を入れ、説明がてら会話をした所「何故もっと早く連絡しないのか、どうして危ない目にあっているのにすぐ助けを求めないのか」等、散々電話越しで怒られてしまった。帰ったら謝ろうと、帰路についていたところ……。

 暗い夜道を正面から歩いてくる男性がいた。見覚えが…どこかで…。そうだ。
 病院を出た帰り道で見つけた3人組の、最初にいなくなった人物であった。
 
「逃げられるとでも思ったのか」

 男がそう言うと、周りから仲間と思われる男たちが現れた。

 私は囲まれてしまった。

「よくもやってくれたな。こちらの稼ぎを潰してくれただけでなく、仮とは言えアジトまでサツにチクリやがって。タダで済むと思うなよ」

 緊迫した雰囲気に包まれる中、私は深呼吸をひとつ。こういう時こそ、焦らない。
 
 新しく手に入れたチカラ(能力)、使ってみる時が来たようだ。

 徐々に男たちが間合いを詰め、近づこうとした瞬間に私は新しい能力を発動した。

 私は男たちの間をすり抜けるように、思いっきり走り出した。
 
 男たちの目線が私を追いかけ、私を捕まえようと手を差し出そうとするが。

 私の体はそれよりも早く包囲網を抜け出し、止まらぬ速さで更に駆ける。

 一瞬、あまりの勢いに転ぶんじゃないかと思ったが。私の体は慣れ親しんだ行為のように地面を爽快に蹴っていた。人間とは、かくも韋駄天の如き速度で走れるものだったのだろうか。

 後ろから「アイツ! 能力者だったのか!」という声だけが遠く風に乗って追い付いてきた。

 私は、ある程度距離を離し、後方を振り返り追いかけてくる様を確認したところで

 今度は走り幅跳びの要領で思いっきり地面を蹴ってみた。

 これはさすがの私も声に出さざるを得ず、もはや自分でもどのような言葉が口から出ているのかすら理解していなかった。

 弧を描くように私の体は大空を舞い、何も考えずに突き進むその先は。生い茂る木々。林だ。

 私は覚悟を決め、その着地地点へ向けて体の体制を整えた。数え切れぬほどの枝や葉っぱが身を切り裂くかの如く襲い掛かり、常人ならば声を大にして叫ぶかのような状況下にありつつも、私は転がりながら地面と無事に挨拶を交わす事ができた。

「うう・・<<治癒のカルマ>>・・・」

 あちらこちらが傷だらけではあったものの、怪我は瞬く間にその姿を消え失せた。
 (ちなみに服はボロボロになった)

 私は、地面から立ち上がり、自分が通ってきた夜空の軌跡を眺め。

 今度こそ、自宅に戻ると固い決意を露わに歩き始める事にした……。

 これが私と新たな能力<<疾走のカルマ>>との出会いであった。
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