異世界での監禁デスゲームが、思っていたものとなんか違った

天白

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チュートリアル 1

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 その後は、俺を除いた四人による話し合いが行われた。

「魔法も物理攻撃も駄目なら科学しかねえよ。この部屋全体を爆発させようぜ」

「却下。爆発させるための材料も着火剤も、ここにはない。仮に爆発を起こせたとしても、規模が大きければお前達全員を防御魔法で守れるとも限らない」

「んじゃ、調べる。それしかねえ」

「壁をか?」

「それしかねえだろ」

「一見、何もないように見えるがな」

「けど、俺達がここに入ってきたんなら、どっかに扉があるはずだろ」

「そうとも限らない。魔法で扉が視認できなくなっているだけならいいが、そもそも扉がない可能性もある」

「じゃあ、どうやって俺らを入れたんだよ」

「転移魔法が使えるならそれは可能だ」

「転移魔法ってのは高度なんじゃなかったか?」

「それは異世界への転移についてだ。今いるここが帝国と同じ世界であれば、ルイスほどの魔術師でなくともそれは可能だろう。この中では魔力の少ないセルにだってできる」

「マジかよ。あー、くそっ! せっかくクソ兄貴が帝国から消えて、今後の人生を謳歌するはずだったのに……! つうか、なんでまたあの野郎と一緒なんだよ! 息をするだけでも吐き気がすんだけど!」

 聞こえてる、聞こえてる。一人、離れた場所でも悪口を言われていることに苦笑しつつ、俺はペタペタと灰色の壁に触れていた。特に解決策を見つけたわけではない。でも、何もやらないよりはマシだと思って、部屋の中を俺なりに調べていた。

 触れているのは雅が蹴っていた壁とは反対の壁。この部屋は全面が無地の同色で一見、何もないように見えるけれど、それが細かい部分を見落としやすくしている。出っ張りだとか、凹みだとかだ。だからこうして地道に触れていけば、例えば隠し扉のようなものが見つかるかもしれない。まあ、他の三人の言うように、扉のない部屋に俺達を転移させただけならこの行動も意味がないんだけどな。

 コンクリートのような見た目とは裏腹に、壁はつるりとしていて滑らかだった。それに仄かに温かい。今の季節は冬。部屋の中が寒くないのは、この部屋全体が熱を持っているからか。

 それにしても。雅が騒いでくれているお陰で少しだけ冷静になれたからか、俺の頭の中では過去に観た、とある映画のワンシーンが流れていた。その映画は、ある日突然複数の男女が何もない部屋に閉じ込められ、ワーワーと叫んでいる内に部屋全体の温度がゆっくりと上昇し続け、最後は焼け焦げて死んでしまうというやつだ。想像するだけでもゾッとする内容だが、俺はこの映画を当時は嬉々として観ていた。元いた世界で、俺はオタクだった。映画オタク。しかもホラーの。中でも好きだったのは、ソリッドシチュエーションスリラーというジャンルだ。思い出したその映画がまさにそれにあたる。

 俺は一時期、そればかりを見て日々を過ごしていた。このジャンルは閉鎖空間などの限られた空間内で人間の極限状態をスリル満点に描き表すもので、怖いもの見たさにはちょうどいい娯楽だった。ありえない状況に追い込まれた人間はどう行動するのかとか、どんな心理状態になるのかとか、とにかく色々と興味深かったんだ。だからだろうか。未知の閉鎖空間にいる今のこの状況が、なんか似てるなーって思えてきた。雅が大声で怒鳴りまくるせいかもしれない。

 ちなみに、このタイプの映画でよくある設定は、複数の人間が見知らぬ場所に監禁された後、怪しい仮面をつけた殺人鬼に追われたり、命をかけた謎のゲームに強制参加させられたりするという、とんでもない展開が待っている。

 まあ、さすがにこれは映画じゃないし、そんな展開はないだろうけれど……

 カチッ。

「ん?」

 今、何か音がした。時計の針が動いたような、スイッチが入ったような、そんな音だ。さっきまで触れていたのはこの壁だけれど、何か押したのか?

 すると、ヴン――と灰色の壁に円を描いた光が灯り、それは瞬時に壁を走るように移動した。「わっ」と声を上げると、異変に気づいた四人が俺の下へと駆け寄った。

「どうした、スグル」

「その……壁に触れたら、何か光るものが上に……」

「光?」

 バイロンに尋ねられ、俺は指し示すように指先を壁上に向けた。皆が目線を上にやる中で、雅は俺の頭を乱暴に叩いた。

「痛っ」

「余計なことしてんじゃねえよ。何もできないただの人間がこの状況を変えられるとでも思ってんのか?」

「そ、そんなこと言ってる場合じゃ……」

「口答えすんなよ、この無能!」

「いや、スグルの行動は正しかったようだ」

「何ぃ?」

 頭を抱えて俯いていると、ルイスがどこか感心した口ぶりで言った。俺と雅は三人同様、視線を壁上に向けた。

 そして同時に、俺達は目を見開いた。

『チュートリアル』

 浮き出た光が形を変えて文字になったようだ。他の三人は首を傾げているが、俺には読めた。もちろん、雅にも。壁面に蛍光色で煌々と照らすそれは、まぎれもなく俺と雅が生まれた世界の言葉……日本語だった。
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