23 / 51
「ゲーム1」7
しおりを挟む
美形はやはり何をしても美形だ。無表情でも、愛想が悪くても、美しければ許される節がある。阿呆な言い方をするならヤバい。そのただでさえヤバいスペックに微笑みがプラスされるとさらにヤバい。美形の微笑は、直視できない。それもさっきまで、ものすごくえっちな顔でキスしてきた人の貴重な笑みだ。ギャップがすごい。心臓が破れる。
キスなんて初体験をしたからか、同じ男相手なのに妙に意識してしまっている。その上、今はお姫様抱っこ! なんだよ、これ。俺が女子だったら即落ちするシチュエーションじゃないか。ときめいてしまったら、どうしてくれるんだ。
「スグル」
「ひゃっ、はい!」
「これでゲームはクリアしたことになるんだな?」
いつの間にか口角を下げていたセルは、壁面を見上げていた。コロッと切り替わるセルの姿勢に、俺は一瞬でも余計なことを考えてしまっていたことを反省しつつ、同様に壁面を見上げた。解放されたからそうだとは思うけれど、文字がぼやけて読めない。そうだった。さっき、眼鏡が顔から落ちたんだった。ドがつく近眼だからあれがないと、困るぞ。俺の眼鏡はいったい、どこに落ちた?
床を見渡すようにキョロキョロと視線を泳がすと、その行動に気づいたセルが落ちた眼鏡の場所まで歩き、身体を屈めてくれた。俺は抱かれたまま手を伸ばして眼鏡を取ると、それをかけて再度壁面を見上げた。
『ゲーム1 クリア』
壁面にはそう表示されていた。
「そう、みたい……」
「そうか」
別段、ほっとした様子もなくセルは答えた。よかった。いつものセルだ。……ん? いつものセルってなんだよ。セルはセルだよ。セル以上でもセル以下でもないよ。ただちょっと、ゲームの内容がアレで知らないセルの顔を見たというか……
何にしても、助かった。セル自身も危なかったわけだから、致し方なしだっただろうけど。でも、嫌がる素振りなくやってのけてくれたんだ。そのお礼はちゃんと言わなくちゃいけないな。
「あの、セル」
名前を呼ぶと、セルがこちらを見た。ただそれだけのことなのに、下腹の方から顔にかけて急に熱くなった。
「……っ」
「何だ?」
「その……あ、ありが……とう」
消え入るような声だったけれど、なんとかお礼を口にできた。意識しすぎだろ、俺……。
俺は逃げるように、セルからパッと顔を逸らした。失礼な態度をとってしまったが、セルは気にする様子なく「礼を言われることじゃない」と返した。
それよりも本人は、あることがずっと気になっていたようだ。
「ところで、一つ聞きたいんだが」
「う、うん。何?」
「べろちゅー、とはいったい何だったんだ?」
「へっ……!?」
ブン! と勢いよく顔を戻し、セルを見た。直前の羞恥はどこへやら、俺は目を見開き彼を見つめる。
ベロチューを、知らない……だと? そんなまさか……あんなにくったんくったんになるほどの濃厚なやつをぶちかましといて? 知らなくてやったんだとしたら、ものすごいテクニシャンじゃないか。うんうん。だからベロチュー自体を知らないわけじゃないんだろう。きっとベロチューって単語を知らないだけで、フレンチキスならご存知……そういう話だ。いや、ちょっと待て。ベロチューが伝わってないのに、なぜ舌を入れた? 異世界じゃキス=ベロチューなのか? それとも俺の伝え方がまずかったせいで、「しゃあねえ。ここまでやっとくかー」って感じで、クリアに向けて念には念を入れたってやつ?
な、何にしても、助かった……!!
「どうした?」
「う、ううん……なんでもない……」
このデスゲーム、いったい全部で何ステージあるのか知らないけれど、今度からルールはちゃんと、書いてある通りに伝えよう……!
ーーーーーー…
ーーーー…
ーー…
???side
オレは見ている。このゲームの行く末を。
「へえ……ギリギリだったが、なんとかクリアしたなぁ。ハードルが低すぎたかとも思ったが……まあ、こんなもんか」
ただの水面にゲームの進行をリアルタイムで映し、安全圏から彼らがゲームに振り回される様を観るのは、なかなかに楽しい。高みの見物というやつだ。ゲームを用意した者への特権だな。
ステージは複数用意したから、しばらくは観賞という形で楽しめるわけだが、はたしてオレの目論見通りにいくかどうか……まあ、それこそ賭けだな。
「さてさて、次は『ゲーム2』。『ゲーム1』よりもハードルが高いぞ。ククッ、楽しみだな」
誰もいない場所で一人、肩を震わせ笑う。しかしその前にインターバルだ。わざわざ用意したんだ。人間は脆弱な生き物だからな。
「ギャンギャンとうるせえのも退場させたことだし、この間にゆっくりと身体を休めてくれよ。なあ……聖者のおにーちゃん?」
キスなんて初体験をしたからか、同じ男相手なのに妙に意識してしまっている。その上、今はお姫様抱っこ! なんだよ、これ。俺が女子だったら即落ちするシチュエーションじゃないか。ときめいてしまったら、どうしてくれるんだ。
「スグル」
「ひゃっ、はい!」
「これでゲームはクリアしたことになるんだな?」
いつの間にか口角を下げていたセルは、壁面を見上げていた。コロッと切り替わるセルの姿勢に、俺は一瞬でも余計なことを考えてしまっていたことを反省しつつ、同様に壁面を見上げた。解放されたからそうだとは思うけれど、文字がぼやけて読めない。そうだった。さっき、眼鏡が顔から落ちたんだった。ドがつく近眼だからあれがないと、困るぞ。俺の眼鏡はいったい、どこに落ちた?
床を見渡すようにキョロキョロと視線を泳がすと、その行動に気づいたセルが落ちた眼鏡の場所まで歩き、身体を屈めてくれた。俺は抱かれたまま手を伸ばして眼鏡を取ると、それをかけて再度壁面を見上げた。
『ゲーム1 クリア』
壁面にはそう表示されていた。
「そう、みたい……」
「そうか」
別段、ほっとした様子もなくセルは答えた。よかった。いつものセルだ。……ん? いつものセルってなんだよ。セルはセルだよ。セル以上でもセル以下でもないよ。ただちょっと、ゲームの内容がアレで知らないセルの顔を見たというか……
何にしても、助かった。セル自身も危なかったわけだから、致し方なしだっただろうけど。でも、嫌がる素振りなくやってのけてくれたんだ。そのお礼はちゃんと言わなくちゃいけないな。
「あの、セル」
名前を呼ぶと、セルがこちらを見た。ただそれだけのことなのに、下腹の方から顔にかけて急に熱くなった。
「……っ」
「何だ?」
「その……あ、ありが……とう」
消え入るような声だったけれど、なんとかお礼を口にできた。意識しすぎだろ、俺……。
俺は逃げるように、セルからパッと顔を逸らした。失礼な態度をとってしまったが、セルは気にする様子なく「礼を言われることじゃない」と返した。
それよりも本人は、あることがずっと気になっていたようだ。
「ところで、一つ聞きたいんだが」
「う、うん。何?」
「べろちゅー、とはいったい何だったんだ?」
「へっ……!?」
ブン! と勢いよく顔を戻し、セルを見た。直前の羞恥はどこへやら、俺は目を見開き彼を見つめる。
ベロチューを、知らない……だと? そんなまさか……あんなにくったんくったんになるほどの濃厚なやつをぶちかましといて? 知らなくてやったんだとしたら、ものすごいテクニシャンじゃないか。うんうん。だからベロチュー自体を知らないわけじゃないんだろう。きっとベロチューって単語を知らないだけで、フレンチキスならご存知……そういう話だ。いや、ちょっと待て。ベロチューが伝わってないのに、なぜ舌を入れた? 異世界じゃキス=ベロチューなのか? それとも俺の伝え方がまずかったせいで、「しゃあねえ。ここまでやっとくかー」って感じで、クリアに向けて念には念を入れたってやつ?
な、何にしても、助かった……!!
「どうした?」
「う、ううん……なんでもない……」
このデスゲーム、いったい全部で何ステージあるのか知らないけれど、今度からルールはちゃんと、書いてある通りに伝えよう……!
ーーーーーー…
ーーーー…
ーー…
???side
オレは見ている。このゲームの行く末を。
「へえ……ギリギリだったが、なんとかクリアしたなぁ。ハードルが低すぎたかとも思ったが……まあ、こんなもんか」
ただの水面にゲームの進行をリアルタイムで映し、安全圏から彼らがゲームに振り回される様を観るのは、なかなかに楽しい。高みの見物というやつだ。ゲームを用意した者への特権だな。
ステージは複数用意したから、しばらくは観賞という形で楽しめるわけだが、はたしてオレの目論見通りにいくかどうか……まあ、それこそ賭けだな。
「さてさて、次は『ゲーム2』。『ゲーム1』よりもハードルが高いぞ。ククッ、楽しみだな」
誰もいない場所で一人、肩を震わせ笑う。しかしその前にインターバルだ。わざわざ用意したんだ。人間は脆弱な生き物だからな。
「ギャンギャンとうるせえのも退場させたことだし、この間にゆっくりと身体を休めてくれよ。なあ……聖者のおにーちゃん?」
応援ありがとうございます!
20
お気に入りに追加
846
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる