攻略なんてしませんから!

梛桜

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あなたの隣

夢の終わり。



 何も無い真っ暗な空間に、一人佇む。
 この空間は見覚えがある。ギベオンが使った闇魔法の一つに、この真っ暗な空間があった。あの時は幻術を使った私の真似をして、ルチルがギベオンの闇魔法を使ったのだけれど。

「ギベオン?」

 名前を呼んでも、私を守護しているはずの闇の聖獣の返事はない。
 ぼんやりと立っているのも、ただ座っているのも、自分がどのような状態なのかも分からない。なんと無しに歩いてみるけれど、歩いても歩いても、只の闇。

「ギベオン?何の冗談ですの?」

 何度呼びかけても返事が無い。合同試験の時だって、結構直ぐに反応をしていたのにどういう事でしょう?キョロキョロと周りを見ても、やっぱり回りは真っ暗闇。

『光魔法、ライト』

 掌に小さな灯りを燈すと、自分の周りだけが明るくなった。ふと足元を見ると蹲る少年の姿に驚きで体が跳ねた。体育座りで小さくなっているのか、自分の身体をぎゅっと小さく縮めている。

「……オブシディアン?」
「……」

 声を掛けても返事をしてくれない。同じ目線になるようにしゃがみ込んでジッと見つめても、顔を上げてくれないのでどうしていいのか悩んでしまう。いつものオブシディアンなら、声を掛ければ嬉しそうに笑顔を見せてくれたのに。

「どうしたの?オブシディアンが私を此処まで呼びましたの?」
「…が、う」
「え?」

 返された言葉と可愛らしい声に、心臓が嫌な音を立てた。高揚感でドキドキするんじゃない、嫌な予感がしてドキリと跳ねた。背中を伝う汗が、ぎゅっと握り締めた手が震える。

「もう、僕を忘れたの…?」
「…っ!」
「僕を、もう忘れてしまったの? お か あ さ ん」

 黒い髪、黒い瞳、私を見つめる真っ直ぐな眼差しは、ずっとずっと私が前世で見守っていた、慈しんできたもの。伸ばされる華奢な腕を迎えて、その小さな身体を、大切な温もりをぎゅっと抱き締めていた。

「忘れてなんてないっ!私は、私は…っ」

『アリア!だめ!』

 子供の言葉に引き摺られて、ある言葉を口にしそうになったその瞬間、目と耳を塞ぐ小さな腕。私はコレを知っている。この腕は、私の大切な守護聖獣だった。

「……お、オブシディアン」
『そう、ぼくは、ここ。それは、だめ』
「じゃあ、コレは、なんですの…?」
『アレは、アリアをつれていきたい、わるいもの。こころのスキをねらう』

 幼い子供が、私の目の前で何かを訴えている。目を潤ませて私を責めてくる。声は聞こえないけど、何を言っているのかは想像がつく。だけど、聞こえない。

 そう。

 これは聞こえてはいけないもの。

「ご、めん…なさい」
『アリア』
「私は、昔にはもう戻りませんの…。昔の家族だってきっと幸せになってる。私の事を忘れてもいいの、哀しい記憶よりも嬉しい記憶で一杯にして欲しいから。もう、いいの」

 これは、前世に固執してしまった私の所為。私の無駄な足掻きが残してしまった、私の心の隙。

「穏やかなお別れをしたかった。もっと一緒に笑って居たかった。ごめんなさい、私が先に居なくなってしまってごめんなさい。忘れる魔法があれば、全力で使うのに」
『アリア…、いこう』
「ありがとうオブシディアン…。私の大切な守護聖獣。もう、大丈夫ですわ。私には、今の人生がありますの」

『彼のものを戒めし魔を祓えマージナルリヒト!!』

 掌に力を集め、魔力を精一杯注ぎこんで光魔法を放った。
 辺りは真っ白の光に包まれて、私の意識はその中へと溶け込んでいく。私を抱き締めていた小さな腕がゆっくりと猫の肉球の感触に変わって、もふもふとした柔らかで滑らかな手触りへと変わっていく。

「起きなくてはいけませんわね」
『ぼくが、おこしてあげる』
「楽しみにしていますわ、オブシディアン」

 頬に擦り寄る毛並みを撫で、ぎゅっと抱き締めて。この『悪夢』から出る為に、私はゆっくりと瞳を閉じた。


***


「獣騎隊、第二小隊突撃ー!!」

 響く獣騎の叫び声と、上がる士気の声。先制攻撃として、風の壁が魔獣を切り裂いて怯ませる。本来なら専属魔術師は後方からの支援のみになるはずなのに、グラッシュラー獣騎士団長が統べる隊では、前衛で攻撃魔術が繰り広げられる。

「あんまり張り切ると、宮廷魔術師団から勧誘がくるよ?アリア」
「行きませんし、断りますから大丈夫ですわ。それに、私を夫から引き離そうとするような命知らずも居ませんでしょう」
「守るけど、魔力切れとか無理はしないでね?可愛い奥さん」

 ちゅっと頬に軽いキスをして、耳を真っ赤にしたアズラの姿がゆっくりと獣化していく。相変わらずの恥ずかしがりやなホワイトタイガーの毛並みはモフモフで気持ちいいけど、今は堪能している場合じゃない。
 背に乗り走り出すアズラに補助魔法と結界を張り、同時に詠唱をして繰り出すのは光魔法。
 隊の皆が道を切り開き、真っ直ぐに魔獣に向かって走り出す。

『アリア、あの魔獣風の結界を張っています』
「先に弾き飛ばしましょう、行きますわよギベオン!ハウライト!」
『容易い』

 アズラと私を挟んで、光の守護聖獣ハウライトと闇の守護聖獣ギベオンが走り着き従う。前線に出ても負け無しの獣騎隊の精鋭として、ラズーラ陛下に扱き使われる日々ですが、それなりに私達は幸せに過ごしています。
 乙女ゲームの知識はあっても、最初からシナリオ崩しをし尽くしていた私には、攻略がどうのなんて関係なかったのですわね。

「終わったら、いっぱいモフモフさせてくださいませね。旦那様」
「仰せのままに」




おわり。

************

長い間応援コメント、閲覧誠に有難う御座いました。無事に完結することが出来ました。
最後まで相手で悩んでいたリモナイト王子バージョンの物語もいつか書くことが出来たらいいなと思ってはいますので、また、お目見え出来る機会がありましたらよろしくお願いいたします。

現在ファンタジーで「最恐の精霊姫様は婚活を希望します」を連載していますが、恋愛ジャンルでの他二本も完結出来る様に書き進めていきますので、御暇つぶしにでも読んで頂けましたら嬉しいです。
有難う御座いました。

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