愛玩人形 ~その人形は、戀(コイ)を知って少女(ひと)になる~

姫 沙羅(き さら)

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Ⅰ.The Magician

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 一目惚れだった。
 自分は、彼女に出逢う為に生まれてきたのだと思った。
 金色の長い髪。サファイアを思わせる大きな瞳。華奢な身体にフリルのついた白いワンピース。
 まるでビスク・ドールのように綺麗なその姿には、セスクだけではなく、その場の誰もが目を奪われていた。
 だが、そんな少女の隣には、彼女の"所有主"だという男が意味ありげな笑みを浮かべていた。
 こちらも同じ人間とは思えないほど美しい長身の男は、プラチナブロンドを輝かせながら自分は医者だと自己紹介をした。
 世界中を旅しながら病人を看て回っているらしい男の名をセスクは聞いたことはなかったが、かなり腕はいいらしい。その為、風の噂で聞きつけた男を、この国の王がわざわざ見つけ出し、呼び寄せたという。
 この国の王妃は、一年程前から原因不明の病で伏せていた。
 国中の医師が匙を投げ、最後に縋るような思いで頼ったのが、ラファエルという名の放浪の医者だった。
 今日は、そんな正体不明な男の歓迎の宴が開かれていた。
 セスクは、この国を守る騎士団長のたった一人の息子だ。自身も戦闘能力に長け、今は第三部隊の隊長を任されている。そして今回、身元不詳の彼らがこの国にいる間の滞在先に選ばれたのがセスクの家だった。
 こちらから招いたとはいえ、彼らが何者なのかはわかっていない。相応のもてなしと監視を考えれば、セスクの家を提供することが一番だと考えられた結果だろう。
 こんなに美しい少女が自分の家に滞在するのかと思えば、セスクの胸は踊った。18歳だという少女は、今年24の歳を迎えるセスクが求婚したとしても充分に釣り合う年頃だ。男の助手のようなことをしているという彼女は、決して男の恋人ではないのだと、早速少女に心奪われたらしい貴族の誰かが話していた。
 それならば、遠慮することはない。少女はしばらくの間セスクの家に滞在する。その間にゆっくりと親交を深め、口説いていこうと、一人優越感に浸っていた。

 ーーそう、男から、その言葉を聞くまでは。




「欲しいのでしたらどうぞご自由に?彼女が私ではなく貴方を選ぶというのでしたら、いつだって差し上げます」

 その自信は一体どこからくるというのだろう。
 恋人同士でないというのなら、自分が貰い受けてもいいかと尋ねたセスクに、ラファエルは余裕綽々の笑みを浮かべてそう言った。

「……やっぱり恋人……」
「ではありません」

 手離す気があるのかないのか真意の読めない男の言葉に、やはり恋人同士なのだろうかと表情を暗くすれば、ラファエルはきっぱり違うと断言する。

「私は彼女にそんな感情を持ったことは一度としてありませんし、これからもないでしょう」
「本当に?」
「えぇ。天に誓って」

 ここは、セスクの邸宅の応接間。
 にっこりと。わざとらしいほどの笑顔で断定され、セスクはついつい緩みかけてしまう口元を自覚した。
 初めて感じた恋心は、かなりセスクの心を浮かれさせている。

「ですが」

 と。
 有頂天になりかけたセスクは、すぐに天から地へと突き落とされることになる。

「彼女は私の"所有物"です。私が認めた相手でなければ譲るつもりはありません」
「それは……」
「ですから、貴方が彼女を堕とせるというのでしたら、差し上げても構いません」

 それは、詰まるところ、やはりセスクに彼女を渡すつもりがないということか。
 どうせ無理でしょう、とでも言いたげな声色で、けれど男はとても愉しげに目を細めてセスクを挑発した。

「貴方は、いい目をしている。本気で欲しいと言うのでしたら差し上げましょう」

 セスクは、本気だ。
 一目惚れなどというものがこの世に存在するのだろうかとも思っていたが、今は本気で少女が欲しかった。
 その美しい見た目だけではない。例え彼女の顔がのっぺらぼうでも構わないと思うくらい、少女に惹かれている自分がいた。
 まるで、魂そのものが叫びを上げているかのように。

「そう……、その目です。とても素敵だ」

 男の挑戦を受けて立つかのように向けた鋭い視線に、ラファエルはうっそりと微笑んだ。
 そして、他愛もない日常会話をするかのような感覚で、その微笑みを崩すことなく柔らかな声色で衝撃的な言葉を落とす。

「早速ですが、貴方の部屋の場所を教えて貰っても?今夜、向かわせますから。ご自由にどうぞ」
「……え?」

 男は、一体なにを提案しているのだろう。
 意味がわからず時を止めたセスクに、ラファエルは「おや?」と不思議そうに目を丸くした。

「欲しいと、おっしゃったでしょう?」
「っ!そういう、意味じゃ……っ」
「では、どういう意味です?」

 やっと意味を理解して、瞬時に赤くなったセスクへと、ラファエルは不思議そうに目を瞬かせる。
 それすら何処か演技じみていて、ざらりとした不快が背筋を伝う。
 セスクは、少女を滞在期間中の伽相手にしたいわけではない。
 言ってしまえば、本気で将来の妻にと望んでいる。
 それなのに。

「詰まるところ、結局行き着く先は一緒でしょう?大丈夫ですよ」

 大丈夫、の意味がわからず、セスクは男を睨み付ける。

「なにがだ」

 そんな、まるで、人形の貸し借りのように。あっさりと、初めて会った男の寝室に向かわせるとは、一体なにを考えているのか理解できずに苛立ちが募っていく。
 だが、怒りの滲んだセスクの鋭い眼光をあっさりと受け流し、男は事も無げに微笑わらう。

「貴方がどんな性癖の持ち主だろうと、彼女は慣れていますから」

 男の笑顔は、悪魔にも天使にも見えた。

「お好きにどうぞ」
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