愛玩人形 ~その人形は、戀(コイ)を知って少女(ひと)になる~

姫 沙羅(き さら)

文字の大きさ
23 / 39

ⅩⅩⅡ.The Empress

しおりを挟む
 あっという間に三年の月日が流れていた。
 時折喧嘩をすることもあるけれど、夜まで続くことはない程度の優しい日々。幸せだった。
 王妃の治療を終えたラファエルはこの地に腰を据えることを決めたのかどうかは知らないが、一応、形ばかりはセスクの家を出ながらも、相変わらずこの王都を拠点として働いていた。
 時折1ヶ月近くいなくなることもあるが、シェリルが以前のように体調を崩すようなこともなく。
 全てが順調。そんなある日。


 改装した室内は、完全に貴族の夫婦が過ごす部屋のような仕様になっていた。
 共有スペースを挟んで、両隣に形ばかりの互いの部屋。シェリルはほとんどの時間を中央の部屋で過ごしており、夜はセスクのベッドで一緒に眠る日々。シェリルの部屋にもベッドはあるが、それが使われたことはほんどない。本当に数回だけ、セスクのベッドがどうしようもならなくなった時にだけ使われた過去があるくらいだ。
 だからもはや、二人の寝室になっているベッドの上。
 毎夜そこで交わされる口づけは、身体を重ねる始まりの合図。

「ん……」
 甘い吐息は、いつまでも飽きることなく、セスクの欲をくすぐった。
 女性特有の月一の事情と、時折セスクに命じられる出張の時以外は、セスクがシェリルを抱かない日はなかった。
 禁欲の一週間は少しだけ寂しいけれど、その前後はシェリルの欲が増すらしく、いつも以上に乱れて求めてくるから、それはそれで楽しみだったりもする。抱くことはできなくても、シェリルは必ずセスクを口で慰めてくれるから、献身的なその姿も可愛くて堪らない。
 だから、セスクも薄々気づいてはいたのだけれど。

「……来ないの」
「なにが?」

 いつものようにそのまま少女をベッドに沈ませようとしたセスクの胸を軽い仕草で押し返し、ぽつりと口にされた呟きに、セスクは瞳を瞬かせていた。

「…………月のものが」
「え……」

 もう、二週間遅れていると、揺らめく瞳で見上げられ、セスクも少しばかり動揺した。
 シェリルの周期を正確に把握しているわけではないけれど、確かに遅れていることには気づいていた。
 だからといって。

「……だって、妊娠しない、って……」

 だから、好きなだけ吐き出して構わないと、初めて会った時に医者のあの男は笑っていた。

「そう……、なんだけど……」

 自分自身の身体のことだ。シェリルも自分の思い過ごしかと考えながらも、その瞳から僅かな動揺の色が消えることはない。
 シェリルにまだ自覚はないらしいが、ただ、どことなくここ数日身体に違和感があるのだと、シェリルは不安そうにセスクの顔を見上げていた。

「……オレはどっちでもいいよ?」
「え?」
「子供ができてもできなくても。子供がいないなら養子を取ればいいだけだし、もしシェリルとの子供なら、もう、それはそれはめちゃくちゃ可愛いと思うし」

 だから、ね?と笑いかければ、シェリルは少しだけほっとしたように息をつく。

「……ラファエルに、聞いてみる」
「そうだね……」

 ラファエルは医者だ。シェリルの身体のことも――持病と言っていた"なにか"のこともわかっている。
 だが、そうは思っていても、今だ胸の奥に沸いてしまう嫉妬だけはどうしようもない。
 結局最後に頼らなくてはならないのはあの男なのかと。
 シェリルの身体をる行為の中に、医師と患者以上の"なにか"がないか、ついつい疑いの目で見てしまう。
 シェリルから向けられる気持ちを、一欠片も疑っていなくても。

「……どうする?今日は止めておこうか?」

 さらりと髪を撫でながら額へとキスを落とし、セスクは甘く笑う。
 こんなことは初めてだけれど、たまには初心に返ってただ抱き合って眠るのも悪くはない。
 ――ちょっと、男としては辛いかもしれないけれど。

「……ううん」

 けれど、シェリルは緩く首を振った。

「抱いて欲しい」

 それにセスクは嬉しそうに笑い、少女の身体をベッドへ沈ませていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...