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ⅩⅩⅩⅦ.Death
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教会から少しだけ離れた場所。
人目のない雑木林で足を止め、男は見るからに高級そうな煙草へと火をつけた。
「ちょっと長く一緒にいすぎましたかね」
深く煙を吸い込んで、空へと白く細い吐息を吐き出した。
久しぶりに味わった若く綺麗な少女な血は、酷く甘かった。
吸血鬼にとって嗜好品である少女の血を、男は今まで口にしたことはほとんどない。
「"人形"のくせに、愛着が沸くなんて」
ほんの気紛れで助けた綺麗な少女。
飽きるまでのほんの短い間だけ傍に置くつもりだった。
後は、血を吸い尽くして捨て置けばいいと。
「とうとう私には、"愛"がどんなものなのかなんてわかりませんでしたね」
愛した人間と同じ時間を生きる為、永遠の生命を捨てていった仲間たち。
その気持ちが、男には今も理解できずにいる。
「自分が消えることが恐いとも思わない……」
さらさらと指先が灰のようになって風に浚われていくのに、男はまるで他人事のような瞳でそれをみつめていた。
足先も溶けていくが、また一つ大きく煙を吐き出して、ポトリと煙草が落ちた。
「吸血鬼なんて、ただ永遠の命を与えられただけで、なにもいいことなんてないんですよ……」
純血種が一生に一度しか使えない術式。
一度しか使えないのは、その術式を発動させる為に、吸血鬼としての全ての能力を失ってしまうからだ。
自分自身に使えば"人間"になってしまうのだからそれは当然だが、"他の吸血鬼"にそれを使った場合には。
「……私としたことが、ちょっと、疲れたのかもしれませんね……」
自分以外の者へとその術を使った吸血鬼は、吸血鬼としての能力を失い、"人間"となることもない。
「私たちは、なぜ存在しているのでしょうね……?」
独白に、応えが返ることはない。
なんの目的もなくただ生きるだけの日々は少し辛い。
終わりのない悠久の時間。
そんな中で出逢った、決して幸せだったとは言えない少女。
「……お幸せに……」
風に浚われ、まるで花弁が舞うように灰が空へと流れていく。
後にはただ、火の消えた煙草の吸殻だけが残されていた。
人目のない雑木林で足を止め、男は見るからに高級そうな煙草へと火をつけた。
「ちょっと長く一緒にいすぎましたかね」
深く煙を吸い込んで、空へと白く細い吐息を吐き出した。
久しぶりに味わった若く綺麗な少女な血は、酷く甘かった。
吸血鬼にとって嗜好品である少女の血を、男は今まで口にしたことはほとんどない。
「"人形"のくせに、愛着が沸くなんて」
ほんの気紛れで助けた綺麗な少女。
飽きるまでのほんの短い間だけ傍に置くつもりだった。
後は、血を吸い尽くして捨て置けばいいと。
「とうとう私には、"愛"がどんなものなのかなんてわかりませんでしたね」
愛した人間と同じ時間を生きる為、永遠の生命を捨てていった仲間たち。
その気持ちが、男には今も理解できずにいる。
「自分が消えることが恐いとも思わない……」
さらさらと指先が灰のようになって風に浚われていくのに、男はまるで他人事のような瞳でそれをみつめていた。
足先も溶けていくが、また一つ大きく煙を吐き出して、ポトリと煙草が落ちた。
「吸血鬼なんて、ただ永遠の命を与えられただけで、なにもいいことなんてないんですよ……」
純血種が一生に一度しか使えない術式。
一度しか使えないのは、その術式を発動させる為に、吸血鬼としての全ての能力を失ってしまうからだ。
自分自身に使えば"人間"になってしまうのだからそれは当然だが、"他の吸血鬼"にそれを使った場合には。
「……私としたことが、ちょっと、疲れたのかもしれませんね……」
自分以外の者へとその術を使った吸血鬼は、吸血鬼としての能力を失い、"人間"となることもない。
「私たちは、なぜ存在しているのでしょうね……?」
独白に、応えが返ることはない。
なんの目的もなくただ生きるだけの日々は少し辛い。
終わりのない悠久の時間。
そんな中で出逢った、決して幸せだったとは言えない少女。
「……お幸せに……」
風に浚われ、まるで花弁が舞うように灰が空へと流れていく。
後にはただ、火の消えた煙草の吸殻だけが残されていた。
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