満月の夜にご注意を! 〜双子の兄弟から迫られて!?〜

姫 沙羅(き さら)

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本編

第十八話 夜明けの真実②

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『ライトに触られて、嫌だなんて思うはずがない』

 それは、ルージュの本当の気持ち。
 ただ、問題は。
「……っ、でも、それは俺であって俺じゃない……!」
「……うん」
「……俺は……っ、俺の中の自分ナイトにはらわたが煮え繰り返りそうなんだ……っ」
 こんなふうに怒りの感情を露わにするライトを、ルージュは初めて見た気がする。
 いつだって優しくて穏やかなライトは、負の感情を知らないのではないかと思うくらい柔和な性格をしていて。
「俺が……っ、今までどんな想いで……っ」
 ぐ、と唇と拳に力を込めたライトの姿に、不謹慎ながらも新鮮だと感動しつつ、罪悪感も胸に浮かぶ。
「……ごめんなさい」
「! ルージュが謝ることじゃ……っ」
 不貞・・を働いたのはルージュの方だ。
 申し訳なさそうに視線を落としたルージュに、ライトが慌てたようにそれを否定する。
 けれどそれに「ううん」と緩く首を振り、ルージュはそっとライトの顔を見上げる。
「そうじゃないの。ずっと、私のことを思って我慢・・してくれていたんでしょう?」
「っ!」
 なにも気づいていなかったことを謝るルージュに、ライトの瞳は驚愕に見張られた。
「……ナイトのヤツ……っ!」
 ギリッ、と奥歯を噛み締めたライトは、ナイトのことを周りの人間から伝え聞いていても、全ての行動を把握しているわけではない。
 余計なことまで話したのかと怒りを滲ませるライトに、ルージュはほんの少しの恥ずかしさを覚えながらもふわりと微笑わらってみせる。
「いいの。嬉しかったから。ライトにちゃんとそういうふうに思われてること。その上で……、私のことを思って我慢・・してくれていたこと」
 ナイトはライトの隠された願望を形にした存在。
 もしかしたら自分には色気が足りないのではないかと思ったこともあるルージュとしては、ライトにちゃんとそういう対象・・・・・・として見られていたことだけは単純に嬉しかった。
「知ってた? ライトってば、人畜無害な可愛い白犬、なんて言われてるのよ?」
 そんな欲など一切抱かないのではないかと思われているほど、ライトは誰の目から見ても穏やかで綺麗な存在だった。
「それが、本当は狼さんだったなんて」
「っ、ルージュ……ッ!」
 冗談ではなく、ある意味本当に。
 くすくすと楽しそうに笑うルージュに、今度はライトの方が赤くなる。
「大好き」
「っ」
 ライトの顔を真っすぐ見上げ、素直に零れ落ちたルージュの言葉に、ライトが小さく息を呑む。
「……でも……」
 そこでルージュの顔は少しだけ曇ったものになる。
「……私も、どうしたらいいのかわからないの」
 ライトとナイトの関係を理解したからと、問題が解消されたわけではない。
「ライトに、ナイトでいる時の記憶はないんでしょ?」
 ライトはナイトで、ナイトはライト。
 けれど、ライトもナイトも、互いの存在を認めてはいない。
 そしてルージュもまた、ライトとナイトが同一人物だということは理解しつつ、二人を“同じ”だとは思えない。
「……ルージュは、ナイトのこと……」
 どこか悔しげな空気を滲ませつつ窺うように尋ねられ、きゅ、と唇を引き結ぶ。
「……嫌いなわけない。だって、ナイトもライトだもの」
 正直に言えば、少しやんちゃで強引なライトも素敵でドキリとときめいてしまう。
「でも……」
 やっぱり、ルージュにとってのライトは、今目の前にいるライトなのだ。
 穏やかで、優しくて……。柔らかな愛でルージュを包み込んでくれる人。
「……もう、ナイトに触らせないでくれ」
 悩まし気に陰を落とすルージュの表情かおに、ライトの独占欲が顔を覗かせる。
「ライト……」
「ナイトは俺だけど……。でも、やっぱり俺じゃない」
 ライトにはナイトでいる時の記憶がないのだ。
 いくらルージュに触れた手や唇が自分のものだとしても、他人から聞かされる自分の行動は自分のものではない。
「今だって、嫉妬でおかしくなりそうだ」
「っ!」
 穏やかなライトから洩らされる苦し気な本音に、ルージュの顔には熱が昇る。
「……軽蔑する? 本当の俺は、ルージュを誰の目にも触れさせたくない、自分だけのものにしておきたいと思うくらい心が狭い男なんだ」
 もう知ってるよね? と苦笑されて動揺する。
「軽蔑なんて……。でも……」
 ルージュを強く想うがゆえの願望を、卑しいものだと思うはずがない。
 けれど、ナイトもライトなのだ。
 それをわかっていながらナイトを拒絶できる自信がない。
「……本当は……っ、今すぐにでもルージュのこと……っ」
 だが、そこでぐっと拳を握り締めたライトから叫ばれた苦し気な想いの吐露に、ルージュの胸にはあたたかなものが広がっていく。
 それはとても恥ずかしいことだけれど。
 求められているとわかって嬉しくなる。
「……いいよ?」
 羞恥からほんのりと瞳を潤ませて、ルージュはライトの顔を見上げる。
「好きな人に求められて、嫌だなんて思うはず、ないでしょ?」
「ルージュ……」
 まるで誘いかけるかのようなルージュの仕草にライトは感嘆の吐息を洩らし、その手がそっと伸ばされる。
「ライト……」
 まるで壊れ物を扱うかのように優しく頬へと触れてくるライトの指先。
 そっと顔を上向かされ、その先の行為を察して目を閉じた。
 けれど。
「っ、だめだ……っ」
 ぱっと離れた身体。
「……ライト?」
 不思議そうに瞳を瞬かせるルージュから、ライトは苦し気に目を逸らす。
「これじゃナイトと同じだ……っ」
「そんなこと……」
 欲望のままに奪うわけにいかないと苦悩するライトに、ルージュの瞳はそんなことはないと揺らめいた。
 それでも高潔なライトには、そんな自分の欲望が許せないようだった。
「……こんな、状況に流されてそんなことをするなんて……。ルージュに対しても失礼すぎる」
「ライト……」
 ナイトに奪われる前に自分のものに。
 ナイトに奪われてしまったから、自分の色へ塗り替えるために。
 そんな想いから衝動のままに奪うことはできないと、ライトはぎりりと拳を握り締める。
 けれど、そんなことを本気で思いながら。
「……ちゃんと、最高の舞台を用意するから」
「!」
 なにかを吹っ切ったようなライトに見つめ直され、ルージュは反射的に赤くなる。
 ライトの、その言葉の意味。
「その時は、ルージュのこと、もらうから」
「っ」
 そっと髪を撫でられて、まるで期待するかのようにぞくりと身体が震えた。
「待ってて?」
「……ライト……」
 ちゅ……っ、と前髪の上から額に唇を落とされて、ますます顔が熱くなる。
「だから、ナイトには許さないでくれ」
 真剣に、そんなことを言いながら。
「……次の、満月の夜までには」
 そこまでは耐えるつもりのないらしいライトに小さく頷いた。
「……うん……」
 嫌なはずが、ないから。
「待ってる……」

 その時は、この後ライトの身になにが起こるかなど知るはずもなく。静かに視線を重ね合わせたルージュとライトは、くすくすと幸せそうに笑い合っていた。
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