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初恋の人が自罰的だったので溺愛することにした

夜のデート

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「本当だ。夜の中庭は誰もいないんだな」
「ああ。星も綺麗だな」
 
 リョウに朝聞いて、興味があったので来てみたけれどこれは確かに穴場だったかもしれない。
 五メートルほどある噴水は水が通っていないけれど、手入れだけはちゃんとされているらしく汚れは少ない。
 問題は気温だろうか。
 自由騎士団フリーナイツ本部は山の山頂であるため、天候は変わりやすい。
 空気も薄いため、夜はとても寒かった。
 
「寒くないか?」
「僕は大丈夫だ。君は」
「おれもキィルーがあったかいからな」
「ウキウキ!」
 
 首に抱きついてくるキィルーの頭を、指先でふにふにと撫でる。
 こん、と手の甲が触れたので、リグの手の指先に指を絡めた。
 ビクッとリグの肩が跳ねたので、フィリックスもちょっとびっくりしてしまう。
 
「あ……手を、繋いでもいい?」
「あ、ああ……」
 
 確認をしてから手を繋ぐ。
 肌寒い中庭で手を繋ぐと、こんなにあったかいんだな、と微笑む。
 
「……あ、えっと……あの……」
「ん?」
 
 リグの言いづらそうな態度に顔を近づける。
 キィルーがなにかを察して、ひと鳴きして城の壁を登っていった。
 それを見上げてから、リグが小さな声で「キスは」と呟く。
 聞き逃すかと思うほどに、小さな声だった。
 あまりの可愛さにキューンと胸が苦しくなる。
 
「キス、した方がいい?」
「え、あ……し、しないのかと、思った、だけ」
 
 と、いうではないか。
 あまりの可愛さに空を仰ぐ。
 
(こんな可愛いことある?)
 
 キスをねだるようになってきたのだ。
 最高に可愛いではないか。
 自分の恋人世界一可愛い、と。
 
「じゃあ――ちょっとだけ隠そうか」
「え?」
 
 マントを持ち上げて、頭から被って各階の渡り廊下から見えないように隠してキスをした。
 片手だから右側からは見えたかもしれない。
 
「こう……?」
「うん」
 
 フィリックスの真似をして、自分のマントを持ち上げてもう半分綺麗に隠してもう一度。
 唇を重ねて、甘い匂いが互いのマントの中に充満する。
 角度を変えて、もう一回、もう一回。
 そんなふうに求めていたら、酸欠と興奮で火照ってきた。
 
「部屋、行こうか?」
「ん……」
 
 する、とマントを落とす。
 星空と月光に照らされて見えるリグの顔の、なんという扇状的なことだろうか。
 潤んだ目も、紅潮した目許も、キスで濡れた唇も。
 全部が美味しそうに見えて、唾液を飲み込む。
 今日は、昨日できなかったことをたくさんするのだ。
 デートに出かけるのは明後日なので、多少の無理は大丈夫。
 もちろん、彼が嫌がることはするつもりはないけれど。
 一度手を離して、リグの部屋に向かって歩き出す。
 キィルーは賢いので、フィリックスの自室の自分の部屋に行ったのだろう。
 自分の部屋の方を見上げてから、気の利く相棒に心の中でお礼とおやすみを言ってから、階段を登る。
 部屋に入るなり、リグがマントを脱いで、フィリックスの分も脱げと手を差し出してきた。
 言われた通りに手渡すと、ハンガーにかけて壁に吊るす。
 
「えっと」
「ん?」
「風呂は、先に入る、か?」
 
 今日は食堂で夕飯を済ませてきたが、風呂はまだだ。
 だから昨日のように各々で風呂に入ると思っているのだろう。
 そこで今日は、一歩進んだ提案をしてみようと思った。
 
「風呂、リグが嫌でなければ……一緒に入る?」
「え……?」
「その、風呂で準備も、一緒に……おれも手伝うから。ど、どうかな。リグが嫌ならもちろん、一人で風呂に入るけれど」
 
 目を見開いたリグが、ゆっくりと視線を彷徨わせる。
 その様子から、フィリックスの提案が満更でもない、というのが伝わってきた。
 わかりやすいというほどわかりやすいわけではないのだが、これまでのリグを見ていてなんとなく、という程度。
 口をはく、はくと開けたり閉めたりしてから、一度口を噤んで――。
 
「君が、嫌でないのなら……」
「嫌だなんて。おれから提案したんだから」
「……じゃ、じゃあ……準備を、する……」
 
 わかりづらいけれど耳が赤い。
 黒髪の隙間から見えるその可愛らしい形の耳が赤いのだから、それはもう、ただただ可愛いのだ。
 後ろをついて行って、脱衣場で上服を脱ぐ。
 浴室で風呂を浄化魔法で綺麗にしていたリグに一声かける。
 
「お湯は」
「っ!」
「あ、驚かせてごめん」
「あ、い、いや、だ、大丈夫」
 
 動揺させてしまった。
 しかし、改めて――普段他人に対して淡々と話すリグがフィリックスの前でだけこう、吃りがちになるのは――。
 
(おれのことを意識してくれているから、なんだな)
 
 と、いうことを理解してしまった。
 視線も彷徨いがちで、常に思考を巡らせてなにが正解なのかを考え続けている。
 召喚魔法に関することなら、なんでも即座に答えられる天才の[異界の愛し子]が。
 正直、恋愛の進め方に正解はないと思う。
 フィリックスもわからないから、手探りで、質問して、彼に考えて答えてもらっている。
 彼はちゃんとそれに応じて真剣に考えて答えてくれているのだ。
 手を差し出して「服、脱ごうか」と誘うと恐る恐る手をのせてくれる。
 一つ一つ、お互いに手探り。
 それでいいのだと思う。
 そしてそれが、とても愛おしい。
 
「お湯をまだ、張っていなくて」
「あ、じゃあお湯出しておこうか」
 
 魔石が嵌め込まれた水道の蛇口を捻り、お湯を出す。
 魔力がある者が触れれば、魔石はプログラムされた能力を発動する。
 風呂場にあるのは温度調整のできる水の魔石。
 摘みで温度を四十度に調整して、浴槽にお湯を溜めていく。
 脱衣所に戻ってズボンのベルトを引き抜く。
 気恥ずかしさはあるものの、言い出した自分が恥ずかしがっていてはリグが困ってしまうと思った。
 様子を見れば、淡々と服を脱いでいる。
 さすがに脱衣に関してはあまり恥じらいがないようで、安心したような残念なような。
 
「……スライムを召喚してもいいだろうか……?」
「え? あ、そうか。どうしても必要……なんだよな」
「どうしても、というか……スライムを使わないと尻から腹を水で膨らませて、何度も洗浄しなければならなくて……」
「おう……そ、それは大変、だな」
「なので、スライムが早くて楽――ということで」
 
 正直自分以外がリグの肌を這うのはちょっとなぁ、と思っていたのだが、そう言われてしまうと「それは、じゃあ仕方ないか」となる。
 リグの体が楽なのが一番だ。
 だが、スライムというと、どうしてもダロアログを思い出してしまう。
 やつの適性は【神林国ハルフレム】のようではあったけれど。
 
「ウォータースライム、体の清掃を手伝ってほしい」
『トルルルルルル』
 
 ゴソゴソとリグが服から取り出したのは紫色の魔石。
 魔獣から出る魔石と同じではあるが、契約魔石はダイヤのようなシングルカット。
 紫色は【神霊国ミスティオード】の魔石。
 それに声をかけると、なんのコストもなく召喚されてくる。
 それが[異界の愛し子]の特性[原初の召喚魔法]。
 いつ見ても規格外だ。
 
「ん」
 
 そして頼まれごとをしたスライムは、[異界の愛し子]に頼まれたことが嬉しくて堪らないとばかりに体に垂れてくる。
 全裸になり、浴室に二人で入ってシャワーを浴び始めると、スライムが水を吸って心なしが大きくなった。
 
「そういえばウォータースライムって99.9%水、なんだよな。風呂場に入れて大丈夫なのか?」
「ウォータースライムに入れば温まるし、体もほぐれるし、一度で全部済むからいいと思って」
「はい?」
 
 不思議に思ったフィリックスを、リグがユニットバスに誘う。
 言われた通り先にフィリックスが入ると、リグがフィリックスに覆い被さるように入ってくる。
 ドッと胸が高鳴った。
 そこへウォータースライムがとぷん、とユニットバスの中へと入ってくる。
 
「あ……っん……は、はぁ……うっ」
「っ……」
 
 スライムが二人の体を覆う。
 太腿を這い上がり、四つん這いの体勢のリグの双丘の間に入り始めた。
 少しずつ頬の赤みが増し、苦しげな声が漏れる。
 シャワーの水を吸い、スライムがますます大きくなり、フィリックスの体も包み始めた。
 あたたかなスライムに包まれると、これは確かに独特な気持ちのよさがある。
 足の指や、足の裏。脹脛ふくらはぎ、太腿、腰、背中、肩、腕まで包むとスライムのマッサージが始まった。
 あたたかな湯の中で、絶妙な力加減でのマッサージは堪らなく気持ちがいい。
 フィリックスもあまりの気持ちよさに声が漏れる。
 
「ンッ、あ……はうっ、う、んんん……」
 
 薄目でリグを見ると、リグの全身もスライムに包まれて全身を揉み解されながら尻穴の中も洗浄されているようだ。
 排泄物を喰われ、穴を優しく拡げられている。
 それが少し――いや、かなり悔しい。
 手を伸ばして、上半身を起こして側面から尻穴に指を入れた。
 
「あ!? だ、め、まって……まだ終わってな……」
「おれにも手伝わせて」
「や……っ!」
「っ!」
 
 スライムのマッサージが、フィリックスの股間にも及ぶ。
 もちろんリグのモノも優しく上下に扱いている。
 スライムと一緒にリグの尻の中を指で撫でて、拡がった穴の奥に。
 
「あ……いっ……あっ! だ、だめ、なんか、だめ……! フィーの指だめ……! いっ、いや、おかしくなる、おかしくなるから……!」
「どこがダメ? どこが気持ちいい?」
「……っ!! ゥ……も、すこし、みぎ、した……のところ」
「ここ?」
「っううう!」
 
 ここがダメなの? と聞くと、涙を浮かべた目で「そこが、気持ちいい」と消えそうな声で言われる。
 そうか、ここが気持ちいいのか。
 スライムのあたたかな膜に包まれた指で言われた場所をなぞり続けると、少しだけしこりのようなものがあった。
 そのしこりを擦るとリグが全身をビクビク振るわせる。
 
「う、ううう! あっ、あっ、フィー、の、指で、触られるのぉ、だめぇ……! あたま、溶けちゃう……!」
「リグ、こっち、見て」
 
 フィリックスの指で感じたのは、リグの熱い肉壁の他にスライムの質量がさらに奥へと流れ込む感覚。
 もっと奥の方まで入っていくスライム。
 脂汗がこめかみに流れているので、圧迫感で苦しいのだろう。
 フィリックスが指でしこりを擦って快楽を与えながら、こちらを向かせたリグの唇に唇を合わせた。
 リグはキスが相当に好きだ。
 これはもう確信している。
 舌を這わせて、しこりを擦りながら咥内を舐め回すと、リグの白い肌が――全身が桃色に染まっていく。
 
「ん、んー、ンンンー……んっぅ、う、っううんん……」
 
 フィリックスの舌に応えてくれる。
 その健気な姿にフィリックスの方も反応して硬くなっていく。
 スライムにも扱かれ、全身をマッサージされてすぐにでも達しそうなほど気持ちがいい。
 
「ああ……気持ちいいなっ」
「うん、うん……は、はやく、もう、挿入れて、ほしい……」
「もう、挿入れていいの?」
「う、うん。大丈夫だから……今日はいっぱいシてほしい……から」
「うん……じゃあ、挿入れる、よ?」
「ンッ……!」
 
 腰を撫でる。
 ゆっくりとリグの腰を下げて、フィリックスの腰に座らせるような体勢になって、リグの中に入っているスライムを引き摺り出す。
 リグの腹からだいぶ出たが、潤滑剤代わりに少し残しながらゆっくり挿入した。
 ずぷ、ずぷ、とゆっくり入る。
 昨日よりも熱く感じた。
 
「アッ……あああぁぁぁぁ……っ」
 
 切ない声。
 弓なりに仰け反るリグの背中を左手で撫でながら、右手で腰から尻を掴むように抱き寄せる。
 少し動きづらいが、リグが教えてくれたしこりを意識して抽送を繰り返す。
 キツくて、あたたかくて、きゅうきゅうと切なく締め上げる中が堪らなく気持ちがいい。
 リグも自分から腰を上下させてくれるので、動きづらくてもなかなかに激しい。
 
「ひ、うっ!」
「っぅ!」
 
 その上、スライムがフィリックスの全身を揉む。
 リグも同じだ。
 胸の飾りもスライムが舐めるように動いたり、吸ったりする。
 全身がぬるぬるで、あっという間に絶頂に達してしまう。
 
「っふ……ぅ、あ、リグ! ごめ、も、もう、おれ、イク……!」
「あっ、うっ、あっあ、ぼ、ぼくも……ああぁっ!」
 
 倒れ込むリグを抱き締めて、お互いに息を整える。
 スライムがするするとユニットバスから出ていき、光に包まれて消えていく。
 [原初の召喚魔法]で召喚された召喚魔は、ノーコストで召喚されるため送還されるのも早い。
 すっかり空っぽになったユニットバス。
 あたたかいスライムがいなくなって、高まった体温が冷えた外気に触れて気持ちがいい。

「はぁ、はぁ……気持ちよかった……フィー」
「うん、おれも」

 そう言いながら、唇を重ね合う。
 リグから舌先を唇に入れてきたので、口を開いてリグの唇を覆って吸い上げる。
 ぬるぬるとした舌。
 熱くて、甘くて、美味しい。


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