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二人の聖女と悪魔の亡霊編
手のひらの上
しおりを挟む「ファントムは隠すのも隠れるのも上手いんですよね」
「はい。わたくしの他に場所を知っている者はおりません」
「シャルロット……」
ミレルダ嬢が、不安そうにシャルロット様の肩を掴む。
ああ、あるんだな。
大結晶魔石・システム以外にも、なにか。
「話せ。どうせあの男がなにか造ったのだろう?」
ラウトが腕を組んでソファーの背もたれに寄りかかる。
ルレーン国で手に入れられる、戦争に利用できそうなもの。
口を閉ざした二人の聖女に、今度はディアスが溜息を吐く。
「魔道兵器だな?」
「っ」
「どこにある? ファントムが造ったものなら、確実に他人が簡単に使えるものではないだろう。まして現代人の手には余る代物のはずだ。あの男はそういうものしか造らない」
断言しちゃうディアス。
でも俺もなんかそんな気はしていた。
あの人、現代の『魔法』に詳しかったもん。
特に、石晶巨兵の乗り方が。
俺をフルボッコに撃ちまくったあの魔道兵器も、多分その副産物。
だから多分、あの人が作ったのは魔道巨人兵的な兵器。
そしてあの腕輪の魔道具。
あの出鱈目な魔力量を、使いこなすアレ。
アレも多分関係あると思う。
「……し、城の地下の……ドックです。でも、入るにはわたくしの角膜認証またはファントムのゴーグルが必要です。他の方法はありません。攻撃魔法を使用しても、破壊は不可能ですから……」
「どう思う?」
ラウトとディアスに聞いてみる。
二人の、なんともまあ渋い表情。
もうそれだけで答えがわかるようだ。
「現代人には無理だろう」
「となると、残るはルレーン国民を人質にとるか、ルレーン国内に軍を呼び寄せてそこを戦場に変えるか……」
「えぇ!?」
「そんな!」
二人の答えにシャルロット様が口を覆い、ミレルダが噛みつくように前へ出る。
そう、結局のところ戦争をしている王たちを国へ入れるということは、彼らの卑劣を許すことになるのだ。
ラウトがフン、と鼻で二人を笑う。
「戦争とはそういうものだ。半端な覚悟で首を突っ込めば、つけ入る隙を与える。ザード・コアブロシア……ファントムはそれも織り込み済みでなにも言わなかったのだろう。あの男は血と金の匂いが好きだからな」
「そんなこともなかろう。……と言いたいところだが、造った兵器はすぐに試したくなるのがあの男だからな……。否定ができない」
「そ、そんな! ファントムは国守様なのですよ!? 国守様が国を危険に晒すようなことをなさるはずがありません!」
シャルロット様はあくまでファントムを庇うのか。
でも俺もラウトとディアス派なんだよなぁ。
なぜなら、二人は千年前からのつき合いだから。
そしてあの人はモロにそういうタイプの人間だと思う。
とはいえ、それならそれでもっと上手く誘導できたんじゃないかなぁ?
俺たちに気づかれたら、遊ぶことなんてできなくなるんじゃないか?
それはそれでいいと?
いやぁ……そういうタイプじゃないだろ、あの人。
デュレオみたいに、途中で遊びを邪魔されても、別なおもちゃで“次”の遊びに飛びつくタイプではないように思う。
もっと、それがダメなら次の罠に誘導していく。
蛇のように、じわじわと……二重三重に仕掛けられた罠の中へ、呼び込まれていくような——。
「どう転んでも、ファントムは一人勝ちになるようになっているはずだ。あの男が振り回されたのは、四号機とアベルトがいた時だけだろうな。『無欠の紅獅子』とまで呼ばれた俺の叔父でさえ、あの男に一杯食わされている。国守としてルレーン国を守るとは、正直考えられない」
「アイツ平気で嘘つくからな」
「うっ、そ、それは」
シャルロット様たちも思うところあるのかぁ。
「ヒューバートはどうしたい?」
「え?」
今まで黙って聞いていたナルミさんが、俺にそう問う。
どう転んでもファントムの手のひらの上だとしたら……いや、手のひらの上だとしても、俺はどうしたい?
「うーん、とりあえず両国の王様が今どんな感じなのかは知りたいかな。いつ出て行ったのか、とか」
「あ……せ、先週です」
「我が国の王も、先週ですね」
「つまり、もうルレーン国には入っていると思って間違いないんだな?」
デリセット卿とオルヴォッド卿が頷く。
彼らと彼らの部下のお通夜空気が非常に痛々しい。
頭を抱えたいのを、さぞ我慢していることだろう。
「そうか、わかった。じゃあとりあえず両国の王様はお前たちに連れて帰ってもらう。国王とはいえ“聖域”に立ち入って国民を裏切るような真似をしたのであれば、相応の罰を受けてもらうのは当然だろう?」
「そ、それは……確かにそうですが……」
「……オ、オズワード王はまだ17歳と歳若いのです! 過ちの一つや二つは、致し方ないものと——!」
は?
コルテレのオルヴォッド卿はなにを言い出したの?
ちょっとあまりにも無責任で、頭の奥でブチっと聞こえた。
俺の頭の中で聞こえたね。
「そのような考えでは困る。最前線で命を懸けるのは卿らだぞ。王が未熟ならば、王が誤った道に進まぬように支えるのが家臣の役目だろう。なにを馬鹿なことを言っている?」
「っ……!」
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