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世界再生編
創世神再誕(1)
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あれ、なんだかレナの歌声が聞こえる。
目を開ける。
ぼんやりとした視界と思考。
確か、『神代の大穴』に寄ったあと、エアーフリートの部屋に帰って仮眠を取っていたはずなんだけど……あれ、アラーム鳴った?
「レナ……?」
「はい。おはようございます、ヒューバート様。もう少しでお時間ですよ」
「起こしに来てくれたの?」
自分でも驚くほどに甘ったるい声が出た。
レナが目を細めて俺の頭を撫でる。
初めて出会った時のような幼さは、もう見受けられない。
レナは、大人の女性になったのだ。
それでも時折、前世の俺が漫画で読んでいた『救国聖女は浮気王子に捨てられる』の主人公の面影を見せる。
救国聖女。
まさしく、タイトル通りレナは国を救う聖女になった。
なにしろ石晶巨兵が聖女の歌で、結晶化した大地を治癒できるとわかったのは、レナのおかげだ。
俺が石晶巨兵を作ったからだと言う者も多いけれど、俺は言い出しただけであんまり開発に携わってない。
実際に組み立てたのはジェラルドとリーンズ先輩だし。
俺はただ、可能性に気づいただけだったんだ。
でも、それでも——今のところ浮気王子ではないから、あとは世界救って浮気王子は返上、破滅エンド完全回避ってことでいいだろうか。
「わたしもご一緒していいですか?」
「え? レナは——」
レナの担当はトニスのおっさんのところのはずだ。
“歌い手”はギア・フィーネの半数しかいないから、二機ごと等間隔で歌ってもらう予定なんだが。
あれ、そういえばトニスのおっさんと一緒に出る予定では?
なんでこんなところにいるの?
「——レナ、もしかして……」
「はい。ヒューバート様にご一緒したくて我儘を申しました」
「……なるほど」
シャルロット様とミレルダがレナに味方しないはずもなく。
デュレオもレナの押しには弱いから、お好きにどうぞって感じで押し切られたんだろうな。
「“歌い手”の歌声は、どこにいようとも届けたいギア・フィーネの登録者に届くのですよね。では、わたしはヒューバート様のお側でみんなに届けるよう歌います」
「……うん、わかった」
そんな愛おしいことを言われて、ダメとは言えない。
起き上がって頬を撫でると目を細められた。
「ヒューバート様、なにがあっても、帰ってきてくださいね。……わたしのところに。絶対に」
「もちろん。死んでも帰ってくる」
俺は前科があるから。
死んで、この世界に落ちてきてしまった。
でも今度は他の異世界に転生するとかじゃなくて、レナのところに帰ってくる。
自分の意思でどうにかできなくても、どんなに時間がかかっても。
「じゃあ、一緒に、行こうか」
「はい!」
***
さあ、正念場だ。
イノセント・ゼロにレナとともに乗り込み、エアーフリートから飛び上がる。
待機地点へと到着したら、少しだけ時間が空く。
『オッケー、全員配置位置に到着を確認したわ』
「依代は?」
『こちらも問題なく稼働開始しているよ』
『この大きさの石晶巨兵が動くなんて、これはこれで興味深いですね!』
『おい、アグリット! 外部リンクはお前とデュレオ・ビドロだけなんだからはしゃぐな!』
依代側、わちゃわちゃしてて楽しそう。
いつも通りの感じで、緊張が和らぐ。
レナが隣にいるだけでも心強いけど、やっぱり緊張はするんですよ!
『って感じで全員準備万端だわ。合図誰がする?』
くぅ、意地の悪い質問しやがる!
さすがファントム!
全員分の音声が一気に入ってきて、パンクするかと思った。
うるせー!
「あーもー! もちろん俺がやりますよ!」
でも開始の合図ってなに?
なにも思い浮かばないよ?
演説とかしてる場合ではないし、ラウトとルーファスあたりに「長い!」ってブチギレられてシズフさんに眠られる未来しか見えない。
「えーと、では! 儀式開始!」
『シンプルだな』
『わかりやすくていいと思う』
『りょ~か~い~』
『締まらんな……』
『チッ』
『了解しました! ヒューバート様!』
『ほいほ~い。がんばりますよっと』
「…………」
このまとまりのなさよ。
ディアスとシズフさんの割と全肯定なところ、救いです。
あとルーファス! お前! 舌打ちしたのしっかり聞こえてるからな!?
「——イノセント・ゼロ」
まあ、おふざけはこのくらいで。
ギア上げ開始。
1、2、3、4——ここまで余裕に上げられるようになるとはね。
でも、ギア上げがここまで楽なのは初期シリーズの登録者のみ。
レナの方を見て、頷く。
歌を始めてもらうのだ。
レナも俺の視線に気づいて頷き返してくれる。
「では、歌を始めます」
『了解ですわ』
『了解!』
『オッケー。後続機の雑魚諸君は死なない程度に無理してね♡』
『くっ……化け物めっ』
ルーファスは本当に口が悪いなあ。
デュレオが性格悪いのは同意だけれど。
「 いらない子なんて いない
わたしは愛してもらい 愛を知った
願いばかりが 駆け出して
自分が弱くて 無力でも 歌はある
きらめく大地と あなたと 二人
世界が彩を取り戻し 降り注ぐ光
洪水みたいな 想いが溢れて 届け
あなたのもとへ 私の心」
レナの歌声。
シャルロット様とミレルダの歌声。
デュレオの歌声。
“歌い手”の歌が、イノセント・ゼロと俺をギア5へと引き上げる。
薄花色の翼の形をした光がイノセント・ゼロの背中から生えて、オーロラのように空の色を変えていく。
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