気弱令息が婚約破棄されていたから結婚してみた。

古森きり

文字の大きさ
27 / 27

私はあなたの騎士《つま》なので

しおりを挟む

 ジェラール様から引っぺがされて、マルセルからアイアンクローを食らいながら私が気絶したあとのことを聞いたのだが、ダークストームドラゴンは倒れたあと今もセイントたちによる浄化作業が続いているという。
 近隣の村や町からもセイントを募って進む作業の中、今朝胸元よりマリーリリー様が摘出されたそう。
 現在は治療が行われており、目が覚めたらすぐに帝国との国境に送られて幽閉されるとのこと。
 せめて国を守るために自らの意思で帝国への牽制となることを選んだ、と国民には説明して納得してもらうことになっている。
 王都の被害は聖殿のみ。
 死者も出ておらず、あれほどの災害が生まれたというのに建物一つの被害はまさに奇跡。
 それもこれもすべて、プロフェットの予言のおかげ。
 ジェラール様のおかげだ。

「そ、それにしても僕って寝ながらでないと『予言』ができなかったんですね」
「そうですね」

 興奮も落ち着いて、隣の部屋にいたジェラール様とソファーに座って話を聞く。
 ジェラール様はずっと、プロフェットとして『予言』ができないことを気にしておられたけれど、今回国の行く末を左右する事件を『予言』した。
 これで名実ともに、国を救ったプロフェットとしてジェラール様の名前は大陸中に知られることになり、歴史にも刻まれるだろう。
 それはとっても誇らしことなのだが、個人的にはジェラール様のことが世間に知られるのが悔しいというか、もったいないというか。
 ずっと私しか知らないジェラール様でいてもいいのに、とか思ったり。

「そういえば、私を受け止めてくれたのは誰だったのでしょうか」
「コーネリスだったと聞いています。まあ、既婚女性を抱きとめるのは妻に申し訳ないから受け止めてそのまま騎士団長にぶん投げた、とか言ってましたけれど」

 ああ、あの第一王子殿下か。
 私の扱いが雑すぎないか?

「でも一応お礼を言わなければいけませんね」
(((ものすごく不本意そう……)))

 国一番の美貌の王子にして大陸に二人しかいないキングクラスの一人。
 頭脳明晰で剣も魔法も国一番の実力者。
 的確な判断とカリスマ性。
 だが、やはりジェラール様の可愛さが世界一だな。
 あんな人に助けられてしまうとは。
 メイドや元部下には羨ましがられるけそうだけれど、ものすごく好みとはかけ離れているからなぁ、あんまり会いたいと思わない。
 コーネリス王子があと二十年若かったらアリだけれど……そんなこと言ったら母上にド突かれる、一桁のショタ王子は普通に違法だしな。
 やはり合法のジェラール様が最強だろ。

「あ、そうだ。奥様にはご報告が遅くなりましたが、今後はジェラール様の寝室に『予言』を聞くために人を配置することになるそうです」
「は?」

 マルセルがにやり、と笑いながらなんかとんでもないことを言い出した。
 おいコラ、いまなんつったよこいつ?
 ジェラール様の寝室に、『予言』を聞くために人を配置するって言わなかったか!?

「ど、どういうことだ!?」
「どういうこともなにも、ジェラール様の『予言』が寝ている間にしか行われないとわかった以上、それを聞き逃さないために表人を配置する必要があるに決まっているでしょう? 諦めてくださいね、これ、もう国の取り決めなんで」

 へっ、と意地悪く笑うマルセル。
 ちょ、待っ……た、確かにジェラール様の『予言』が寝ている間にしか行われないのは、今回初めてわかったこだ。
 今後は予言を聞き漏らさないような処置を行われることは、そ、そりゃ、当たり前だと思うけれども……それって、それって……!!

「私とジェラール様の初夜は!? いや、初夜は終わっているというか、まだ子作りは一度もできていないんだが!?」

 ジェラール様の美味しいところを全部舐め回し、気持ちよくて泣いちゃうジェラール様を思う存分堪能し、私がジェラール様を性的に美味しく食べる日は!?
 立ち上がって叫ぶと、マルセルが満面の笑みで「え? しばらくは無理ですよ。ここ、王都ですから。ジェラール様、ティーロに戻ったらまた体調の調整からです」と言い放つ。
 それを言われた時の衝撃たるや。
 ジェラール様の方を見ると、けほ、と小さな咳。
 ああ、王都にいると雑念を摂取して体調が悪くなるんでしたね。
 魔力量は自然魔力が少ないので過剰にはならず、周囲の人間を魔力酔いさせることもないけれど。

「だ……大丈夫ですか、ジェラール様……あの、体調は……」
「あ、は、はい。このくらいならまだ大丈夫です。今回のことはあの、馬車でフォリシアが僕の予言に気づいてくれて、たくさんの人が救われて……僕は自分がプロフェットで本当によかったと思いました」
「え? あ、は、はい」

 なにを今更、と首を傾げる。
 私はそれよりもジェラール様との子作りを……。

「なにより、あなたは本当に――僕の騎士として最前線で戦ってくれて、ちゃんと帰って来てくれた。そのことにも、ありがとうございます」
「も――もちろんです! 私はあなたの騎士ですから!」

 嬉しそうに、そんなふうに言われたら騎士冥利に尽きる。
 どんな勲章より、賞賛よりも、主人からの労りこそが騎士としての誉れ!
 ジェラール様の足元に膝をついて、その小さくきれいな手を握る。
 しばらく微笑みが私を見下ろしていたが、ゆっくり手を引き抜かれてしまった。
 そして、やたらと神妙な面持ちで、ジェラール様は少し視線を右往左往させる。
 なんだ? 可愛さに上限がなさすぎる。
 なにを言おうとしておられる?

「え、えっと……子作りに関しては……確かに、また……待たせることになってしまうと思うのですが……あの……」

 もじ、と指先をくっつけて見上げてくるジェラール様。
 あなたの上目使いはドラゴンのブレス光線よりも威力が高いご自覚はありますか?

「ま、待っていてくれますか?」
「は? 泣かす?(もちろんいつまででもお待ちしますとも!)」
「え?」
「!? か、隔離! 隔離!!」
「フォリシア様、もう少し寝室でお休みください!」
「おごふっ!!」

 わ、私とジェラール様の子作り初夜がさらに遠退いた。






 完
しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

諏訪つや子
2023.08.28 諏訪つや子

「気分的に今は無理」笑いました。テンポ良くて毎回楽しく読ませていただいています。いやー物理的に強い主人公良いですね!

解除
ちびたん
2023.08.21 ちびたん

婚約期間すっ飛ばして😆
婚姻って!?しかも結婚式も
挙げてない⛪異例尽くしの二人

二人の両親たちの思惑は?
主人公はウェルカムだから良い
のかな。変な方向に(//∇//)キャア
突っ走りそうだけど。

男女逆転夫婦😃可愛くて
守りたくなる夫に、強くて
凛々しい頼りになる妻( ´艸`)
“割れ鍋にとじ蓋”お似合いな
二人の新婚生活が楽しみです。

呪われた刺繍👻
魔除けになるかもしれません。




解除
dragon.9
2023.08.20 dragon.9

良く言えば(お世辞ともゆう)

武の女王には智の王配

( ゚∀゚)・∵ブハッ!!
すみません、自分で言って吹いた💦

オスカル(暴れ馬恋は盲目中)とアンドレ(小型犬)
( `・ω・) ウーム…

笑いすぎて
なかなかピッタリが浮かばなーい😭










解除

あなたにおすすめの小説

全ルートで破滅予定の侯爵令嬢ですが、王子を好きになってもいいですか?

紅茶ガイデン
恋愛
「ライラ=コンスティ。貴様は許されざる大罪を犯した。聖女候補及び私の婚約者候補から除名され、重刑が下されるだろう」 ……カッコイイ。  画面の中で冷ややかに断罪している第一王子、ルーク=ヴァレンタインに見惚れる石上佳奈。  彼女は乙女ゲーム『ガイディングガーディアン』のメインヒーローにリア恋している、ちょっと残念なアラサー会社員だ。  仕事の帰り道で不慮の事故に巻き込まれ、気が付けば乙女ゲームの悪役令嬢ライラとして生きていた。  十二歳のある朝、佳奈の記憶を取り戻したライラは自分の運命を思い出す。ヒロインが全てのどのエンディングを迎えても、必ずライラは悲惨な末路を辿るということを。  当然破滅の道の回避をしたいけれど、それにはルークの抱える秘密も関わってきてライラは頭を悩ませる。  十五歳を迎え、ゲームの舞台であるミリシア学園に通うことになったライラは、まずは自分の体制を整えることを目標にする。  そして二年目に転入してくるヒロインの登場におびえつつ、やがて起きるであろう全ての問題を解決するために、一つの決断を下すことになる。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】ちょっと、運営はどこ? 乙女ゲームにラノベが混じってますわよ!?

綾雅(りょうが)今月は2冊出版!
恋愛
「俺は、セラフィーナ・ラファエル・スプリングフィールド公爵令嬢との婚約を解消する」  よくある乙女ゲームの悪役令嬢が婚約を破棄される場面ですわ……あら、解消なのですか? 随分と穏やかですこと。  攻略対象のお兄様、隣国の王太子殿下も参戦して夜会は台無しになりました。ですが、まだ登場人物は足りていなかったようです。  竜帝様、魔王様、あら……精霊王様まで。  転生した私が言うのもおかしいですが、これって幾つものお話が混じってませんか?  複数の物語のラスボスや秘密の攻略対象が大量に集まった世界で、私はどうやら愛されているようです。さてどなたを選びましょうかしら。 2021/02/21、完結 【同時掲載】小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、エブリスタ

悪役令嬢として断罪された聖女様は復讐する

青の雀
恋愛
公爵令嬢のマリアベルーナは、厳しい母の躾により、完ぺきな淑女として生まれ育つ。 両親は政略結婚で、父は母以外の女性を囲っていた。 母の死後1年も経たないうちに、その愛人を公爵家に入れ、同い年のリリアーヌが異母妹となった。 リリアーヌは、自分こそが公爵家の一人娘だと言わんばかりにわが物顔で振る舞いマリアベルーナに迷惑をかける。 マリアベルーナには、5歳の頃より婚約者がいて、第1王子のレオンハルト殿下も、次第にリリアーヌに魅了されてしまい、ついには婚約破棄されてしまう。 すべてを失ったマリアベルーナは悲しみのあまり、修道院へ自ら行く。 修道院で聖女様に覚醒して…… 大慌てになるレオンハルトと公爵家の人々は、なんとかマリアベルーナに戻ってきてもらおうとあの手この手を画策するが マリアベルーナを巡って、各国で戦争が起こるかもしれない 完ぺきな淑女の上に、完ぺきなボディライン、完ぺきなお妃教育を持った聖女様は、自由に羽ばたいていく 今回も短編です 誰と結ばれるかは、ご想像にお任せします♡

婚約破棄された令嬢は、“神の寵愛”で皇帝に溺愛される 〜私を笑った全員、ひざまずけ〜

夜桜
恋愛
「お前のような女と結婚するくらいなら、平民の娘を選ぶ!」 婚約者である第一王子・レオンに公衆の面前で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢セレナ。 彼女は涙を見せず、静かに笑った。 ──なぜなら、彼女の中には“神の声”が響いていたから。 「そなたに、我が祝福を授けよう」 神より授かった“聖なる加護”によって、セレナは瞬く間に癒しと浄化の力を得る。 だがその力を恐れた王国は、彼女を「魔女」と呼び追放した。 ──そして半年後。 隣国の皇帝・ユリウスが病に倒れ、どんな祈りも届かぬ中、 ただ一人セレナの手だけが彼の命を繋ぎ止めた。 「……この命、お前に捧げよう」 「私を嘲った者たちが、どうなるか見ていなさい」 かつて彼女を追放した王国が、今や彼女に跪く。 ──これは、“神に選ばれた令嬢”の華麗なるざまぁと、 “氷の皇帝”の甘すぎる寵愛の物語。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

【完結】婚約破棄されたユニコーンの乙女は、神殿に向かいます。

秋月一花
恋愛
「イザベラ。君との婚約破棄を、ここに宣言する!」 「かしこまりました。わたくしは神殿へ向かいます」 「……え?」  あっさりと婚約破棄を認めたわたくしに、ディラン殿下は目を瞬かせた。 「ほ、本当に良いのか? 王妃になりたくないのか?」 「……何か誤解なさっているようですが……。ディラン殿下が王太子なのは、わたくしがユニコーンの乙女だからですわ」  そう言い残して、その場から去った。呆然とした表情を浮かべていたディラン殿下を見て、本当に気付いてなかったのかと呆れたけれど――……。おめでとうございます、ディラン殿下。あなたは明日から王太子ではありません。

自滅王子はやり直しでも自滅するようです(完)

みかん畑
恋愛
侯爵令嬢リリナ・カフテルには、道具のようにリリナを利用しながら身体ばかり求めてくる婚約者がいた。 貞操を守りつつ常々別れたいと思っていたリリナだが、両親の反対もあり、婚約破棄のチャンスもなく卒業記念パーティの日を迎える。 しかし、運命の日、パーティの場で突然リリナへの不満をぶちまけた婚約者の王子は、あろうことか一方的な婚約破棄を告げてきた。 王子の予想に反してあっさりと婚約破棄を了承したリリナは、自分を庇ってくれた辺境伯と共に、新天地で領地の運営に関わっていく。 そうして辺境の開発が進み、リリナの名声が高まって幸福な暮らしが続いていた矢先、今度は別れたはずの王子がリリナを求めて実力行使に訴えてきた。 けれど、それは彼にとって破滅の序曲に過ぎず―― ※8/11完結しました。 読んでくださった方に感謝。 ありがとうございます。

辺境の侯爵令嬢、婚約破棄された夜に最強薬師スキルでざまぁします。

コテット
恋愛
侯爵令嬢リーナは、王子からの婚約破棄と義妹の策略により、社交界での地位も誇りも奪われた。 だが、彼女には誰も知らない“前世の記憶”がある。現代薬剤師として培った知識と、辺境で拾った“魔草”の力。 それらを駆使して、貴族社会の裏を暴き、裏切った者たちに“真実の薬”を処方する。 ざまぁの宴の先に待つのは、異国の王子との出会い、平穏な薬草庵の日々、そして新たな愛。 これは、捨てられた令嬢が世界を変える、痛快で甘くてスカッとする逆転恋愛譚。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。