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ゲームスタート〜神野栄治〜(2)

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『ヤッホーでーす! 栄治先輩、一晴先輩、今日もかっこいいですね~。なーんて、電話だから顔見えないんですけどー! で、SBO始めるってことでおれにお声がけアザーーーッス! 蔵梨柚子が参上しましたよ、通話ですけど!』
「「うるさ……」」
 
 予定の合う時間を作り、三日後にスタジオの配信室に揃った栄治と一晴。
 通話開始一秒でこのテンション。
 これと一年でも三人きりで活動していた自分たちは褒められて然るべきでは、と思ってしまう。
 とても見た目爽やか赤毛清楚イケメンとは思えない。
 いや、最近会ってないので今どんな髪色かは知らないけれど。
 とりあえず顔面詐欺なのはこいつらも人のこと言えない。
 
『でも珍しいですねー、先輩たちゲーム苦手って言ってたのに』
「「仕事で……」」
『あー! っすよねー! 先輩たちゲームする時間があったらジム行くタイプだもーん! いっすよいっすよー、この蔵梨柚子がゲーム処女の先輩たちをしっかりとエスコートしてあげます。すぐに気持ちよくなりますからね』
「セクハラやめろ」
『だって久しぶりに先輩たちから連絡あったと思ったらゲーム教えて、一緒に楽しもう、なんて言われたら』
「言ってないよね?」
『テンション爆上がりしちゃうに決まってるじゃないですかー! 栄治先輩がゲーム内でTSして踏んで罵ってくれるならおれ、めちゃくちゃ役得じゃないですかー! 今から爆楽しみー!』
「「…………」」
 
 頭を抱える栄治と一晴。
 もう、後半はなにを言っているのか日本語が理解できない。
 
『まあ、でも所詮先輩たちは男なんでTSして罵られても女の子相手ほど気持ちよくないと思いますけどね。それじゃあ普通に始めますか。設定問題ないんですよね?』
「急に正常になりましたな。はい、この間設定だけは栄治がしてくれましたぞ!」
『はい、安定の機械音痴一晴先輩。栄治先輩お疲れ様です』
「本当にそれ」
 
 パソコンの前に座り、準備を開始する。
 柚子と通話しながら最初のキャラクターメイクの時の注意点を教わることにした。
 
『まず、性別は女性を選んでくださいね。おれが先輩たちに指南する絶対条件ですよ』
「「キッツ」」
『まあ、あと普通にネカマの方がSBO内で便利ってのがあるんですよね。先輩たちがプロモ担当したから昨日プレイしてみてプレイヤー人口の七割女の子だったんですよ。男キャラクターが珍しいから、擬態は女キャラの方がいいです。葉っぱ隠すなら森の中ってことっすね』
「「な、なるほど……?」」
 
 なんか上手く丸め込まれてないか?
 と、不安にはなるが言ってることはわかる。
 
『SBOは声もランダムで生成できるんですけど、やっぱり他のVRMMOよりランダムの声質生成のレベルがダンチなんで、めっちゃイイですよ。音程まで細かく設定できるから、こーれはおれらみたいなのにも最高。声優仲間にも勧めちゃおーって感じ?』
「あ、そ、そう。まあ、擬態用ならそこまでこだわる必要ないよな?」
『そうですね、それに内臓マイクとヘッドフォンも普通なら十万くらいするやつ。環境最高すぎてこのマスク八万で買えるとかヤバすぎ。しかも座って遊ぶ前提のこの軽量! 信じられない、このマイクとヘッドフォンは確かに軽量でこの性能なのがウリではあったけれど、それプラスノイズキャンセラーに防音……音の吸収でマスク外に音を漏らさない新技術。フルダイブできないなんて古いって言うやつらはこの技術のすごさをもっと知って崇めるべき』
 
 なんか止まらなくなってきている。
 栄治もそれなりに勉強していたが、機材オタクの柚子には敵わない。
 
「このマスク、そんなにいいヘッドフォンとマイクなのですかな?」
『そうっすよー。それが同時内臓されてるんですよ!? しかも防音にノイキャンついてるしフィルターも新技術。通気性にまで気を使っている上この軽量。有線なのに熱がこもらないよう、ものすごい冷却機能がついてるんです! 頭につけるものにもかかわらず、ゲーミングPC並みの冷却速度と冷却音の気にならなさは革命ですよ! モニターの接続で顔の動きをパソコンカメラに転送も可能って、これはもうVtuber業界も騒然必須……え、待って? プロモしてんのになんで知らないんですか!』
「「すみません……」」
『……なんでおれじゃなくてこんなに価値のわからない人たちを広告塔に選んだんだソルロックーーー!!』
 
 台を思い切り殴る音が聞こえてきた。
 ちなみにソルロックはVRフルフェイスマスクの販売元の社名である。
 知識量も熱意も、今見せつけられてしまったのでぐうの音も出ない。
 いや、本当にその通り。
 
『ゲームの話に戻ります』
「「はい……」」
 
 スン、と声が急に冷静に戻る。
 若干怖い。怖かった。
 
『ゲームを開始したら栄治先輩みたいにリアルの姿でスキャンしてください。あ、サーバーは“一音符”で。はじまりの町の広場でソッコーメニュー開いて、”キャラクターデザイン変更”でランダム生成して決定。場所を移動して適当な宿屋の部屋なんかで隠れ蓑のアバターを作ってください。リアルコピーのアバターは、お気に入りに登録しておくと、プロモ配信の時にすぐ使えると思います。で、それが終わったらまた広場に来てください。赤い旗の下で合流して、実際にプレイしてみましょう』
「柚子」
『なんですか? 一晴先輩』
「実際のゲームはどうしてもやらなければ駄目でしょうか?」
『しばくぞ』
 
 機械音痴の一晴は、ゲームのプレイそのものにまで苦手意識が出ている。
 先ほどの熱い語りを聞いたあとで、柚子にそれは言ってはいけないと思う。
 
『栄治先輩、その馬鹿絶対に連れてきてくださいよ。じゃあ、音声通話繋げたままでいいんでゲーム開始してください。なんかわからないことはその都度聞いてくださいよ、一晴先輩』
「はいです……」
 
 こうして再びのSBO開始。
 ログインしてすぐにメニューからキャラクター、デザインを選択し、ランダム生成。
 すぐ宿屋に移動して、部屋を取る。
 なんだか本当に本物の人間と会話しているような錯覚に陥ったが、これがNPCというやつなのだろう。
 部屋に入ってから一晴の泣きごとを𠮟りつける柚子の声をBGMにしつつ改めてキャラクターデザインを初期――リアルコピーした姿に戻して、それをお気に入りの1番に登録した。
 それからは隠れ蓑用のアバターデザインの作成。
 
「ねー柚子、隠れ蓑用のアバターってどんな感じにすればいいの?」
『えー、まずは性別を女の子にしていただきます』
「はいはい」
 
 性別を女、で決定。
 もうなにも言うまいて。
 
『あとは先輩の好きなようにしたらいいですよ。おれはいつもピンクの髪のボブカット美少女にするんですけど~』
「わかった、それ以外ね」
『ここはどこですかな!?』
『おれの言ったこと理解してます!? メニュー開いて!』
『メニューってどこですかな!?』
『ああああ、もーーー! うぜーーー! もういいですおれが宿屋に直連れします!』
『なんですかな、あなたは誰ですかな!?』
「ピンクボブの美少女なら柚子のアバターじゃない?」
 
 通話を切れ、とちょっと思わんでもない。
 ドタバタしながら宿に入ってきたのを感じるが、無視して自分のキャラの作成を進める。
 髪型は無難に薄い緑色のポニーテール。
 髪色と違和感ないよう黄色い目にして、やや吊り目のきつめ美人に仕上げた。
 
「まあ、これでいいか」
 
 お気に入り2番に現在の姿を登録。
 自分は終わったよ、と通話に声をかけると、隣の部屋から声が筒抜け。
 はあ、と溜息を吐いて廊下に出て、隣の部屋をノックする。
 
「ねー、完成したけど?」
「栄治先輩!」
「うわ……」
 
 ガチャ、と扉が開く。
 本当にピンク色の髪をボブカットにしたミニスカ美少女が出てきた。
 きっしょ……と声が漏れそうになるのを堪えて、部屋に入れてもらう。
 
「一晴まだアバターできてないの」
「もーランダムででよくないですかー?」
「女人の姿形はわかりません……」
「俺らにかぶらなきゃいいよ」
「っていうか栄治先輩、絶対適当にキャラメイクしたでしょ。節々から感じますよ、適当感が」
「……いいじゃん別に」
 
 そんなんわかるもんなのか、と思いつつ、柚子のアバターを見ると確かに気合が入っている。
 まつ毛も眉毛もアイライン、頬紅鼻筋までいじっているのわかった。
 ガチすぎて引く。
 
「こんな感じですか?」
「あー、一晴先輩さっきよりは俄然いいですね。むしろこれだとやっぱ栄治先輩の適当感が浮くっつーか」
「どうせ隠れ蓑用のアバターなんだからもうこれでいいでしょ。それよりさっさとレベル上げ行こう。時間もないしさぁ!」
「もー、せっかちなんだから。ゲームは楽しんでこそですよぉ~?」
「私もゲームより台本を覚えたいですな」
「台本なんて一回読んだら覚えるじゃないですか」
「「…………」」
 
 と、あっけらかんと言う柚子を半目で睨みつける栄治と一晴。
 芸能界――柚子は声優だけれど、大まかなエンターテイナーとしては彼もまた芸能人のくくりだろう――には、やはりこの手の天才が闊歩しまくっている。
 それを改めて思い知らされて、はあ、と深く溜息を吐く。
 人気声優としてアニメだけでなくイベントにもドラマCD、吹き替えにも引っ張りだこの柚子が、なんでゲームをやる時間があるんだ、と思っていたが。
 
「みんながみんなお前みたいなわけじゃないの。こっちの時間は有限なんだから、効率よくいきたいんだよね」
「ゲームで効率重視は基本ですよねー。まあ、おれは女の子のNPCをナンパして楽しむのが半分くらい目的なんで全然寄り道しまくりますけどー!」
「俺らは効率よくレベル上げしたいんだからさっさと行くよ!」
「ですな」
「はいはーい。じゃあ、システムから説明していきますねー……」


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