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IG夏の陣、三日目(5)

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 続いて隣のステージで始まる『Blossomブロッサム』VS『勇士隊』の準決勝。
 先攻はBlossom。
 センターは甘夏拳志郎が担当した、今までにないロック調の楽器。
 で出しから英語のラップ。
 というよりずっとラップ調の曲で、歌詞も治安が悪い。
 今までにない、いかにも“いい子”だった今までのBlossomとまったく異なる曲に会場が困惑と興奮に包まれる。
 よく見ると綾城はバックからあまり動かない。
 体力温存の意味もある選曲なのだと、分かる者には一目でわかる。
 そして今まで比較的後ろの方でサポートやサブセンターに回っていた甘夏拳志郎が、初めてセンターに鎮座してその存在感を見せつけた。
 経験が乏しく、他の三人に比べて知名度も低かったため初日と二日目までは“認知させる”時間だったのだろう。
 
(さすが……星光騎士団を初めてIGで予選突破させたツルカミコンビと春日社長! 選曲まで戦略的……!)
 
 と、メタな推察をしてしまうのはオタクの悪い癖だろうか。
 しかしそれでも今のいままで温存されていた甘夏の存在を、ここで一気に叩きつけるには十分すぎるインパクト!
 なにより曲そのものの難易度が高い。
 魔王軍のベストメンバーなら歌えるかもしれないが、全員が音程も言語もテンポも異なるラップで仕上げている。
 それをよく合流させて、合体させているな、と感心してしまう。
 一言で言うと――
 
「ちょ、超カッコいいいいい!」
 
 魁星が元気になってしまうくらいにかっこいい。
 MCもようやく甘夏が前面になり、曲についての解説を少し。
 さらに「春日芸能事務所のワイチューブチャンネルでMV公開されてると思うのでMVも見てください~! 超カッコよく撮ってもらってて絶対鳥肌モノなんで!」と言うので淳と魁星がワイチューブから春日芸能事務所のチャンネルを再生させようとして宇月と周に止められる始末。
 再生リストに入れるだけに留めた。
 そして三回戦二曲目も甘夏センターのラップ調。
 なにがすごいってそれに平然とついていく他三人。
 特に次の曲は神野がサブセンターを務めており、かっこいい、治安が悪そう、に色っぽいが加わった。
 というよりここまでくると、エロい。
 さすが神野栄治。
 加わるだけでエロくなる。
 というよりも、やはり自分の魅せ方、武器がなんなのかをよくよく理解している。
 関わると危ないお兄さんな空気。
 
「――体で払ってね」
 
 ふぐっ、とサビの間に入った神野のセリフに淳が胸を押さえて膝をつく。
 しまった、気を抜いていた!
 神野栄治という神の前で、淳は容易く失神する。
 いま失神されたら絶対に明日の朝まで目を覚さない!
 慌てて宇月と後藤が淳を抱え起こす。
 直視させてはいけない存在だったのを忘れていたが、モニター越しで真正面から“アレ”を食らったら……まさか、もう……。
 
「ナッシーしっかり! 今意識を失ったらやばい!」
「音無くん、意識をしっかり持って……! 置いて行かないで!」
「淳ちゃん、負けたらあかん! 今倒れられたら決勝があかんくなる! 珀ちゃんの頑張りが無駄になってしまう! 踏ん張れぇー!」
「は、はふ、はひ……はううう……」
「茹だってる……! クオー! ナッシーに水ぶっかけて!」
「は、はい!」
 
 スタッフまで「どうした」「いや、あれは仕方ない」「出番まであんまり時間ないですけど大丈夫ですか!」と心配して近づいてきた。
 モニター越しといえど、威力が凄すぎる。
 客席でも数名倒れたらしく、スタッフのところに慌ただしい報告が飛び交う。
 もうあの人エロテロリストに認定しても差し支えないのでは?
 
「アレ相手に、勇士隊はどう戦うつもりや」
 
 モニターを見上げた花崗が次にBlossomの隣に出てきた勇士隊を案じる。
 初日から会場の流れを完全に掌握しているBlossom。
 正直もう、優勝は揺るぎないと言っても過言ではない状況。
 ここから勇士隊が勝ち上がるビジョンが見えない。
 なんなら、星光騎士団も先輩たちに勝てる気がしない。
 実際星光騎士団は同じく三日間戦ってきたが最終戦まで持ちそうになかった。
 戦ってきた条件は同じはずなのに、一年生がいるのがやはり枷になりつつある。
 とはいえ、淳は限界を超えたテンションに到達しているしBlossomのパフォーマンスに魁星も限界を超えたテンションを手に入れてしまった。
 勝ち目があるかどうかはもう、相手次第なところがある。
 勇士隊が勝ち上がってくれたなら、星光騎士団にも優勝のチャンスが生まれる。
 そんな淡い期待で見上げたモニターからは、聞き覚えのある前奏が流れ初めて星光騎士団メンバーは「えええっ!?」と驚いた。
 流れてきたのは魔王軍の曲なのだ。
 
「~~~♪♪♪」
 
 パフォーマンスも完コピして披露していやがる。
 さすがなんでもありの無茶苦茶ユニット。
 センターで両手を広げたパフォーマンスも浅科旭そのもの。
 なにやってんだ勇士隊、と声を漏らす宇月。
 いや、石動に似合っているのがまたなんとも言えないんだけれど。

「やりおったな石動ちゃん……。敗退した魔王軍の想いも連れていくぜ、演出やな」
「セ、セコー!? 完コピしてる時点で確信犯じゃん!?」



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