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優勝者(2)
しおりを挟むドッと会場が沸き立つ。
地鳴りのような空気の揺れ。
凄まじい歓声で腹の奥まで震えた。
星光騎士団のメンバーは、誰もなにも感じないのに涙が溢れる。
花崗が綾城の肩を叩いて、Blossom側に送り出す。
喜びや悲しみや敗北感とかではなく、解放感による涙だと思う。
淳もじわじわと涙が滲んで、指で拭った。
そしてBlossomの優勝を心から喜んだ。
嬉しいのに言葉が上手く出てこない。
あんなに「テンションがおかしい」と心配されるほど喋り続けていた淳が。
『優勝おめでとうございます! それではメンバーにインタビューをしていきましょう! リーダーの綾城珀さん、いかがでしょうか……って、あれ? 神野さん、鶴城さん、どちらへ!?』
『えー? そんなのはーくんと拳くんに全部喋らせればいいよね? 俺たち、次の仕事があるからあとよろしく~』
『ええ、それではあとのことはよろしくお願いしますね、甘夏くん』
『嘘でしょ、先輩!?』
甘夏の叫びも虚しく、神野と鶴城がまさかの退場。
閉会式の最中だし、インタビュー放棄。
あはは、と乾いた笑いの綾城。
疲れ果てているだろう綾城を放置して去るとは思わず、特に花崗が「嘘やろ……?」と呆然としている。
気を取り直して羽白が『え、えーと、ではまず、甘夏さんにインタビューをしてみようと思います』と取り繕う。
『優勝おめでとうございます!』
『あ、ありがとうございます! まさか本当に優勝するなんて思わなくて、言葉が上手く出てこないです! ろくなこと言えそうになくてすみません!』
『いえいえ、今のお気持ちは?』
『信じらんないです。本当に。色んな意味で……はい』
それは本当にそう。
まさか先輩たちに置いていかれるなんて思わない。
綾城だけが相変わらず笑ってる。
『でも、全部珀くんのおかげだと思っています。星光騎士団の練習もあるのに、初心者に毛が生えた程度の落ちこぼれの俺の練習にもずっとつき添ってくれて、ずっと優しくて……なんかもう……うっ!』
感極まって泣き出す甘夏。
わかる、と頷く星光騎士団の一年生ズ。
あまり一緒に練習する機会はなかったけれど、綾城はずっと根気強く練習につき合ってくれる人だ。
言葉も優しいし、できない理由を丁寧に分析して教えてくれるのでわかりやすい。
『一千万の賞金は山分けになりますが、なにに使いますか?』
そんな下世話なインタビュー、アイドルにするの? と、若干ドン引きする淳。
涙が引っ込んだ。
『え? そんなにもらえるんですか!? えっと、でもそういうのは事務所の人に聞いてから考えます!』
甘夏も涙が引っ込んでいる。
それはそう。
『では、リーダーの綾城珀さん! 優勝おめでとうございます!』
『ありがとうございます』
『綾城さんは星光騎士団のリーダーとしても参加されて、本当に大変だったのではないでしょうか?』
『そうなんですよね。一応明日から一週間、お休みをいただいています。先輩たちは不甲斐ない僕の代わりにお仕事に対応してくださっているので、どうか非難しないであげてくださいね。というわけで、明日からのBlossomを生放送等に呼んでいただいているかと思うのですが、僕は不在です。僕へのお仕事のご依頼は一週間後からでよろしくお願いします。スケジュールの都合でお断りするかもしれませんが、日付などをずらしていただければ誠心誠意対応したいと思いますので』
『し、しっかりなさってるー!』
そういうことか、と納得する会場。
綾城が休みなので、先輩二人が速攻で『IG夏の陣覇者』として活動を開始したのだ。
対応が素早い。
さすがプロ。
『ええと、ではその……今大会の感想はありますか?』
『感想ですか……感謝しかありません。僕の我儘をたくさん聞いてくれた先輩と甘夏くん、そして、練習にあまり参加できないのに、ここまでついてきてくれた星光騎士団のみんなにも、応援してくれたファンの皆さんにも、新しく僕たちを知って応援してくれるようになった視聴者や会場の皆さんにも、サポートし続けてくださったスタッフの皆さんにも……会えなくても心配してくれて、甘えさしてくれた“彼女さん”にも。僕一人ではここに立っていないので、本当に、本当に――ありがとうございます。ありがとうございました。どうか、これからも僕たちを観て、愛して、応援してほしいです。みんなの声援で僕たちはここに立ち続けられます。だから本当に――ありがとう――僕もみんなを、愛してるよ!』
ワア……と会場にまた大きな歓声が上がった。
アイドルがそこに立っている。
これこそがアイドル、というアイドルが。
拍手と歓声が長い時間上がっていた。
CRYWNが『それでは、トロフィーの授与だよ!』と割って入ってもなお、止まない。
綾城がトロフィーを受け取り、甘夏が副賞のパネルを受け取って二人がそれらを掲げた。
後ろから来たらスタッフにトロフィーと副賞パネルを手渡し、CRYWNと羽白が『それではれこれにて20XX年アイドルグランプリ夏の陣、閉幕です! ありがとうございました!』と締める。
鳴り止まない拍手の中、綾城と甘夏を筆頭にステージを降りて舞台袖に入っていく。
「珀くん!?」
完全にステージを下り終えて、床に足をつけた瞬間、綾城がそのまま倒れた。
ギョッとするステージ上のアイドルたち。
花崗が真っ先にステージを突っ切って駆けつけて、抱え起こす。
「嘘やろ、珀ちゃんしっかり!」
「珀くん、珀くん、しっかりして! 大丈夫!?」
「落ち着けお前ら。過労だ。とりあえず横に寝かせて救急車を待て。ほら、こんなところでグダってたら他のグループのメンバーが降りてこられない。花崗、運べるならこっちに運んでやれ」
「――石動ちゃん……!」
出口なので、邪魔になるだろうと石動がテキパキと花崗と甘夏、スタッフにも指示を出す。
勇士隊のメンバーにも「他のグループに変な心配かけさせないようにスタッフと控え室に誘導しろ」と指示して自分も花崗と一緒に綾城を舞台袖の椅子を並べてそこに横たえたりしている。
星光騎士団のメンバーも慌てそれに参加するが、石動が一番落ち着いて対応していたおかげで混乱は瞬く間に収まった。
「珀先輩、珀先輩大丈夫っ?」
「命にかかわるもんじゃないから大丈夫。それにしても……客に不安をかけないように、しっかり退場してから倒れるとは恐れ入る」
「珀ちゃん……」
いったいどれほどの疲労が蓄積していたのか。
淳もなんとなく、そんな綾城の寝顔を見ていたら目の前がぼんやりとしてきた。
途端に膝から崩れ落ちる。
「ジュンジュン!?」
「淳!? 嘘でしょ!? あなたまで!?」
「やばいやばい、やっぱりぶっ倒れてんじゃん!」
「こっちもプッツンした!? おいおい、星光騎士団どーなってんだよ!」
「淳ちゃーん!」
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