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第四章:
海辺の大商都⑤
しおりを挟むゆるくカーブした石畳は、少し進んだ先で右側が開けていた。どうやら円形の広場になっているようで、真ん中にある石造りの噴水の周りにひとが集まっていて、その向こうから楽器の音がしている。アコーディオンによく似ているけど、ちょっとだけ違うなとすぐにわかった。
「これコンサーティーナだね。きれいだなぁ」
「ああ、旅回りの楽師さんとかが使うあれ?」
「うん、それそれ。知り合いにとっても上手な人がいたの」
まあもっとも、あのひとは楽器なら何でも上手って設定だったけど。そもそも、わたしがこの珍しい音色を聞き分けられるようになったのは、エトクロにハマってそのキャラクターおよび楽器を知ったのが原因だったりする。人間、好きなもののことは一生けんめい調べたくなるもんである。
そんなことを思ってたら、いつにも増して楽しそうなリラの声が降ってきた。
「あっホントだ、イブすごい! 私アコーディオンと区別付かなかったよー」
「あんたはまたちっちゃい子みたいなことを……」
「いーじゃん、誰にも迷惑かけてないよ?」
「アニキが重いでしょうが、現在進行形でっ」
「俺なら平気だぞ。まああんまりジタバタしないでくれると助かるかな」
「はあーい」
「あーもう、甘いんだから全く……」
「まあまあ」
えらく上の方から声がするなと思ったら、いつの間にかディアスさんに肩車してもらってる。いいんだけど、あれ高すぎて怖くないのかなぁ。
呆れ気味のフィアメッタの肩をぽんぽん叩いていたら、運よく人垣が割れたので前へ詰めることになった。
ワルツだろうか、曲はゆったりしたテンポの三拍子に変わっている。広く空いたスペースで何組か、街の人がペアを組んで踊ってて、西洋系ファンタジーらしい光景だ。まわりで見ている人たちもとっても楽しそうにしている向こうで、噴水の縁石に腰かけて演奏している人影が見える。
ひざの上に置いたコンサーティーナを器用に操っている、若い男性――って、ちょっと待て!?
「……イブマリー嬢? 如何された」
「あ、いえ、ええっとその」
とっさのことに混乱して足が止まった。すぐそばにいたショウさんが、わたしが硬直したのに気付いて声をかけてくれるけど、何て答えたらいいのか。
いやだって、ここ思いっきり国外だよ? こんなとこでこういう展開ってありですか!?
そうこうしているうちに曲が終わって、ダンスしてたひとたちも一緒になって拍手を送る。それを受けた演奏者は、立ち上がって優雅に一礼しながら、
「ご清聴、ありがとうございました。さて――」
とてもきれいな声であいさつして、顔を上げた直後。わたしと真正面からばちっと目が合って、ものすごく驚いた表情になった。
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