デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第四章:

海辺の大商都⑥

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 背が高くてすらっとしていて、吟遊詩人という職業にぴったりの色鮮やかで洒落た服装が良く似合う。肩までの髪は落ち着いた紫苑色、いまこちらを見て真ん丸になっている瞳は澄んだ月明かりみたいな白銀色だ。

 文句のつけようがないほど綺麗に整った顔立ちで、声を聞かなければうっかり女の人と間違えそう……いいや、間違うわけがない。

 (だってわたし、このひとのこと知ってるから!)

 プチパニック起こして固まったままの脳裏を、そんな言葉が高速で駆け抜けた。その間にも、驚きから立ち直った相手が表情を引き締めてつかつか歩み寄って来る。

 目の前に立たれて、思わずぎゅっと目をつぶる。ライバルがいろいろあって追放されたことは知ってるはずだ、何て言われるんだろう。

 まわりの皆が身構える気配がした。ややあって、ため息と一緒に声が降ってくる。

 「……やはりそうだ。玉蘭の君」

 すっ、と風が動いた気配がして、まわりからどよめきが上がる。おそるおそるまぶたを開けたら、目の前できっちり跪いた詩人さんが――えっ、なんで!?

 「あ、あの!?」

 「ああ良かった、まだ地上におられた……このフェリクス・ブラウレーヘン、昨夜は想いが募るあまり、美しい夢を見たのだとばかり」

 「は、はい? 昨夜って?」

 「舞い降りて来られたでしょう、竜に乗って」

 (あれかー!!)

 つーか気が付かなかったってことは相当離れてたはずなのに、よくわたしだって分かりましたね!?

 内心頭を抱えていると、詩人さんはにこっと優しく笑ってわたしの片手を取った。もう一度よかった、と繰り返して、

 「玉蘭の君、ご無事で何よりです。貴女が咲かぬ春ほど侘しいものはない。こればかりは、世の平和と天秤に掛けられるものではないと思ってしまいます。私は贅沢者ですね」

 すらすら紡がれる美しすぎる言葉の数々に、横にいたフィアメッタがうへえ、と息だけでうめくのが聞こえた。うんうん、こういうのは人を選ぶからなぁ。うちのオタ友もおんなじ反応してたっけ。

 ちなみに玉蘭というのは白モクレン、つまりマグノリアの美称で、ライバルがファーストネームで呼んでいいって許可を出すまでこの人が付けてた愛称だ。そういやリュシーも苗字からの連想で『桜草の君』なんて呼ばれてたっけ……って、そんなことはさておいて!

 「……あの、怒ってないんですか?」

 「はい? 何をでしょう」

 「いや、だって、わたしのこといろいろ聞いてるんじゃ」

 「……ええ、聞いていますよ。貴女を直接知るものには、妄言を通り越して冒涜でしかない言葉の羅列を、ですが」

 あなたはそんなことをする人じゃないでしょう? と、真剣な眼差しがはっきり伝えてくる。

 何も聞かずにそう信じてくれるのが、とってもうれしい。紫陽花のみんなに信用してもらえたのとおんなじくらいうれしくて、思わず泣いてしまいそうになった。

 「さて姫君、貴女とご友人方を何とお呼びすれば?」

 「……い、イブマリーで! こっちのみんなは『紫陽花オルタンシア』さんですっ」

 「承りました。それでは――
 皆さま、申し訳ありません。突然の再会に取り乱してしまい、お恥ずかしい限りです。お詫びもかねて最後に一曲奏でさせていただきたい。
 このヴァイスブルクの街と、冒険者団『紫陽花』の皆さん。そして我が友、イブマリー嬢に捧げます!」

 必死でしゃくり上げるのをこらえて伝えると、再びにっこり笑った相手が立ち上がって、周りの人たちに朗々と呼びかけた。

 わああっと大きな歓声が巻き起こり、一礼して構えたコンサーティーナからとっても綺麗な音色が流れ始める。わたしたちに、と言ってくれたのが照れくさくなるほど素敵な曲に、我慢しきれなかった涙がひとつぶだけころん、とこぼれてしまった。

 ――今更だけど、このフェリクスさん。エトクロこと『エトワール・クロニクル』の登場人物にして、攻略対象の一人で、さらに言うならわたしのガワの人・アンリエットの仲間でもあって。

 ぶっちゃけてしまうとわたしにとって、全キャラクター中でアンリエットの次くらいに好きなひとだったりする。何のご褒美なんですか、ホント。
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