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第四章:
森の迷宮(メイズ)にご用心④
しおりを挟む……ぉ―――……
どこかから、笛の音みたいなものが聞こえた。入口は閉まってるはずだけど、どこからか風が入り込んできてるんだろうか。
耳を澄ませると、どうも下の方からみたいだ。バランスを崩さないようにそっとしゃがんで覗き込んだ吹き抜けの底で、ちらちら光るものがだんだん大きくなってくる。音もだんだんはっきりしてきて、どうやら楽器の音じゃないのが聞き取れるようになった。
(歌? かな、これ)
詩はついていなくて、音の高低だけでメロディが出来ている感じ。きれいな曲ではあるんだけど……
「……なーんか陰気な曲ね。湿っぽいっていうか」
「まあ、歌ってるのがあーいうひとだからねえ。イブよく気付けたね、すごい」
「う、うん。ありがと……出来れば気づきたくなかったけど」
いつの間にか同じようにしゃがんでいた女子コンビが、真剣なひそひそ声でそう言ってくれた。ほめてもらうのはうれしいけども、今はちょっと微妙な気分だ。
そっと伺っている視線の先には、蒼い火の灯ったランタンを持つ、なかなかガチの幽霊っぽいのがいた。濃い灰色なのか色褪せた黒なのか、汚れたボロボロのフードをすっぽりかぶって大鎌を持っている。ふらふら飛びながらくだんの歌を口ずさむ、その後ろをずらっとついて行くのは、大量の鬼火の群れだ。
「うわあ、いっぱいいる……」
「……あれは物理的に燃える類のものか?」
「だろうな。いま見てたら結構熱持ってるし――げ、やばいっ」
同じくこっそり分析してくれてたディアスさんの声が、突然引きつった。それまで特に目標もなく飛んでいるだけだった幽霊モドキが、ぐるんと勢いよく振り返ったからだ。鎌を振りかぶって行けー! ってポーズをしたとたん、まわりの鬼火がこっち目掛けて殺到する!
「うわ来たー!!」
「ひとまず中へ! 石壁なら熱も遮れよう、急げ!!」
リーダーの声に従って、あわてて石板を開けて中に駆け込んだ。さっきみたいにスライドして閉まった瞬間、外でぼしゅぼしゅぼしゅ! と何かが当たって弾けるような音が上がって、すぐ静かになる。なんとか防げたらしい。
が、しかし。
がしゃん!
『あーっ、なにこれ!? 閉じこめられたー!』
ほっとしたとたん直後、石板の上に降ってきた金属の棒がかぶさった。ティノくんがぺちぺち叩いているが、けっこう頑丈らしくてびくともしない。
そこへ追い打ちをかけるみたいに、今度は部屋の内側で物音が上がった。恐る恐る振り返った先に、半円形の部屋にぐるっと四つ並んだ長細いシルエットがある。
柱かと思ったけど、天井まで届いてないし妙に角ばってて太くて、明らかにヤバい感じの紋様が入っている。地下、暗い、そしてさっきの幽霊モドキときたら、もうこれしか思い浮かばないんですけど……
「……たぶん、棺桶じゃないかな? なんか立ってるけど」
「ああああ、嫌な予感しかしない~~~」
とかやってたら、頭上にぬうっと影が差した。とっさに見上げたら、さっきの幽霊モドキがにたあっと笑ってひとこと、
『ほーぅ』
「「「うわー!!!」」」
いや、だって。このひと、フードの下になにもなくて、目と口だけがぼやーっと浮かんでる仕様だったんですよ!? そりゃ歴戦の勇者でも叫びますって!
その大声に反応したのか、棺桶のフタが一斉に手前に倒れた。土煙が上がる中のっそり現れたのは、きれいに白骨化した多分戦士、のご遺体(武防具付き)だ。どう考えてもスケルトンとしか思えないそれが二体、律儀に錆びた剣を引き抜いて臨戦態勢を取っている。
反対側から出てきたのは、ぱっと見は人間に近いフォルム。だけど肌の色がくすんだ青緑だし、むき出しになった上半身には意味不明の紋様がびっしり浮かび上がっている。そして何より気味悪いことに、両目がなくて真っ黒の眼窩だけがぼんやりこっちに向けられていた。
わたしがエトクロの敵キャラ中、断トツで嫌いだったヤツだ。他のプレイヤーからも『出たな妖怪!』『みんなのトラウマ』『頼むから鮮明な描写はやめてー!!』てさんざん言われてる『塚鬼』ってやつで、いわゆるアンデッド系モンスターの中でも強さが頭一つ分抜きん出てる。単体でも楽に倒せる相手じゃないというのに、こっちもご丁寧に二体いるとか勘弁してほしい。
「ディアス、他の出口は」
「残念だけどなさそうだ。これたぶん、全部倒さなきゃ出られないやつだぞ」
「だろうな。――リラはひとまず結界を、フィアメッタは出来るだけ広い範囲を照らしてくれ。折を見て援護を頼む!」
「「はいッ!!」」
相変わらず落ち着いてる若旦那が頼もしすぎる。そんなこんなで初ダンジョンにて、初めての対アンデッド戦がスタートした!
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