デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

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第六章:

竜(+α)は無慈悲な夜の女王⑩

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 下層のダンジョンに規模は比べるべくもないが、迷宮のように入り組んだ避難通路だ。

 何度も通いつめて慣れているとはいえ、一人での作業は手間がかかる。今日の分が終わったのは、『入口』をくぐってから優に小一時間が過ぎた頃だった。

 最後にやって来たのは、迷路のようになった通路群の最奥部。そこにぽっかりと空いたひときわ広い空間、言うまでもなく告死女バンシーがいるところだ。

 ここだけドアと壁で仕切っておらず、通路のどん詰まりで上下左右に大きくスペースを取ってある。入る度に形を変える遺跡だが、ここはおそらくどんな仕様になっても一番奥に固定されている。貯蔵庫などとして使う予定だったのだろう。

 石畳を鳴らして近づくにつれて封印の魔方陣の暗い赤光と、その中央で跪く告死女の影が見えてくる。捕獲して封印を施してからはやひと月あまり、微動だにせず顔を伏せている姿は当初のままだ。覆いかぶさる紅い呪紋に絡めとられ、俯く顔を覆って流れる濃い灰色の頭布も、色合いからしわの有り様まで全く変化が見られなかった。

 あれにだけは気を付けろ、真っ先に動きを封じろとしつこいほど指示されたから、潜入当初は柄にもなく相当警戒していたが……

 (呆気ないもんだ。こっちも気配を殺してたとはいえ、ろくに抵抗も出来ずに捕まってたし)

 まあ、話に聞く妖精としての特性は『血筋に憑いて守護する』『死人が出るときは哭いて知らせる』という、いたって地味なものだ。万が一にも彼女から連絡が行って、王家そのものにバレたらえらいことになるのは確実だから、念のための予防線というところか。

 (そういえば捕まえてからこっち、一回も顔を見たことがないな)

 噂だとものすごい美女だとか、逆に凄まじい形相をしているとか、真逆の話が入り交じっていてさっぱりだ。どうせ相手は動けないし、今日分の仕事はすんだし、要の魔石に魔力を補填したらちょっと拝んでみるのも良さそうだ。美人なら見とかないと損だし。いやまあ化け物だったら嫌だけど……

 とりとめのないことを考えつつ、さっさと部屋を横断して巨大な水晶の前に立つ。持参した袋から取り出したのは、蓋付きのビンに入ったうっすら光る液体。つい数日前に採ったばかりの天泪露アムリタだ。

 月露の結晶は高い魔力を持つが、これだけ広い空間で多数の魔法生物を拘束し続けるとなると出力が追い付かない。だから交渉に必要な『勧誘』をするついでに、効率よく補充できるものを確保しにいったのだ。指示は雇い主だが、やったのはもちろん自分である。

 「ったく、人使いが荒いったらない。報酬に必要経費上乗せしてやるからな」

 ぶつくさ言いながら瓶を開けようとしたときだ。突如ばきっ、という大きな物音が、暗がりの中にこだました。

 「……え?」

 当然だが、心当たりなどない。ひとまず前後左右をそろりと見渡し、異常がないことを確認してから、おそるおそる――本当は見たくなかった天井を降りあおいだら、
 
 ギシャアアアアア!!
 
 「ぎゃ~~~~ッッ!?!」

 真っ暗な石壁に見覚えのない影がのたうっているのが見えた直後、鎌首をもたげて雄叫びを上げたのは、十メートルは下らない巨大なムカデだ。どすーんと豪快に落ちてきて、再び鳴号すると同時に土煙を上げて突進してくる。

 「ちょっと待てなんで俺ーっっ!?」

 もはや魔力の補填どころではない。全く反省のない悲鳴を上げて、さっき出てきたばかりの通路に逃げ込んだ。
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