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第六章:
竜(+α)は無慈悲な夜の女王⑪
しおりを挟む「――よしっ、始まった!」
響く轟音と叫び声に、広間の一本手前の曲がり角で様子を見ていた男性陣が一斉にガッツポーズを取る。まず下手人、間を置かずに大ムカデが目の前を爆走して通り過ぎるのに、タイミングを見計らってさっと飛び乗った。
通路の幅ギリギリの巨体が、石畳を百のツメで引っ掻いて高速で駆けているのだ。がりがりとものすごい音が間断なく響く中、それに混じって通信機に声が届いた。
《うむ、滞りなく発動したな? 本物と違って、尾に毒はないからしっかり掴まっておけ。湿った岩肌は滑りやすいから気を付けると良い》
「は、心得ました」
相変わらず鷹揚な良い声に、頼もしく思いながらうなずくショウである。
何を隠そうこのムカデ、元霊導師に作ってもらった石人形なのだ。名前のせいで誤解されやすいが、実はあの魔法はヒト型以外も作れる。組み上げたものに簡単な命令を与えて待機させておけば、あとはその通りに動いてくれるらしい。今回オズヴァルドが下した指示はずばり、『下手人を地の果てまで追いかけ回してこい』だ。
さて、そろそろどこをどう走っているかわからなくなった頃だ。これだけでも相当怖かろうが、まだまだ仕掛けはある。生得魔法を発動させたディアスが、壁を透視してうなずくと後輩を振り返った。
「次の角だ、あとは打ち合わせどおりな」
「はい!!」
満を持して飛び降りたスコールが、右手に折れる通路を全速力で駆け抜ける。行き止まりになっている突き当り目掛けて、
「『双撃神速』・戦神拳!!」
ごがああああっっ!!
鋭く繰り出した正拳突きで粉砕した。向こう側に続く別の部屋も、そのまま壁をぶち抜いて先へ先へと進んでいく。幾つめかの部屋をぶち抜いたとき、つい最近知り合った声がかかった。
「お疲れ様、待ってたよ。……いや、想像以上だね。君を敵に回したくないな」
「あ、ありがとうございますっ」
片手を上げて労うのは、ここに来る前に別れた近衛騎士だ。条件反射で気を付け、の姿勢になったスコールに笑って、腰の後ろから剣を一本引き抜きながら、
「大体狙い通りに進んでるみたいだね。補助を頼むよ、拳士くん」
「了解です!」
ディアスのように見透かすことこそ出来ないが、天狼族の聴力は恐ろしく高い。いったん遠ざかって戻ってくるムカデの足音で、いまどの辺りにいるかを把握できる。耳に全神経を集中して、先ほど右に折れた場所へ差し掛かりそうになった瞬間、
「今です!!」
「『双翼秘刃』・六華!」
――キイィィィィィィン!!!
アイスブルーの魔方陣が現れると同時、気温が氷点下まで下がった。曲がり角から穴を貫いて、奥の部屋までの壁と床が氷でコーティングされる。
非常に珍しいことだが、リックは生得魔法を二つ持っている。風と氷という相反する属性は、ひとりでコントロールするのが難しい。昔はさんざんに苦労したし、体得に至るまでの道のりを誇りに思う気持ちは今も変わらない。……でもそれ以上に、約一年に渡る厳しい戦いと旅を経て、強烈な自負に加えて新たな思いが生まれた。
自分が能力を振るうことで、彼らの助けになる。こうして、仲間のために存分に役立てられる。そんな単純で当たり前のことが、こんなにも嬉しい。
(まあ、それを主に教えてくれた相手は間違いなく気付いてないけどね。いろいろと)
「――うわちょっと待って何で氷がってぎゃー!!!」
「あっ、引っかかった!」
「よし。ちょっと下がってようか、巻き込まれちゃ格好つかないし」
「はいっ」
スリップした当人の間抜けな悲鳴が耳に突き刺さる。スコールを促して壁際に下がったとき、曲がった先からいきなり始まった氷の通路を滑走し始める犯人の左右で、ぎらりと不穏な輝きが灯った。
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