179 / 379
第一章:
ヴァイスブルクの休日④
しおりを挟む(……うわあ)
とっさに顔をあげた先にいた人を見て、思わず心でつぶやいてしまった。うっかり口に出すのだけはこらえた自分をほめてあげたい。
「……どうした、やはりどこか痛むか? なら座れるところまで移動を」
「わああっ大丈夫、大丈夫ですから! 抱っこして運ぶのは勘弁してくださいっ」
「そ、そうか、すまん」
親切にも自分からお姫様抱っこの体勢に入ろうとしてわたしに全力拒否され、目をぱちぱちさせているその人。
赤みがかった金髪、つまり真新しい銅みたいな色合いの髪を襟足だけ伸ばしてくくっていて、意思の強そうな大きめの瞳は琥珀みたいな黄褐色だ。鮮やかな色彩に負けない、目鼻立ちのくっきりしたイケメンさんだった。
ついでに付け加えるなら、ものすごくよく響くきれいな声をしている。今すぐオペラかミュージカルの舞台に立っても通用しそうだ。……なんだけど、
(なんかこの声、どこかで聞いたことがあるような……)
妙にデジャブる感じを覚えつつ、すぐさま適当に距離を取ってぺこり、と頭を下げる。心配して言ってくれてるんだってよく分かるけど、こんなたくさん人がいる前で初対面の相手に横抱きされるとか恥ずかしすぎる。いや知り合いでも困るけど。
「ぶつかってすみませんでした。どこも何ともないので平気です、ご心配なく。じゃあこれで」
「ああいや、待ってくれ」
「はい?」
「先ほどからこの小動物が離れてくれないんだが、もしかしなくとも君の知り合いではないか? そちらから飛び移ってきたように思う」
『ふにゃ~~~~』
「あっホントだ! なにやってんのティノくんー!!」
いつの間にか移動して、お兄さんの背中でくつろぎまくってた雷獣さんをあわてて引き剥がした。なんかさっきから左肩が軽いなぁと思ったら!
「もうっ、初対面のひとにべたべたくっついちゃダメでしょ。迷惑だってば」
『えー、だってこのおにーさん、かみなりの気配がしてひっついてるときもちいいんだもん~』
「はい? 気配って?」
「おお。俺の属性を自力で読み取るだけでなく、人語まで解するとは素晴らしいな。よほど高位の精霊とみた」
『えへへへ、そーなの。ありがと~』
大きな手で優しく撫でてもらっているティノくん、とってもリラックスしていて気持ち良さそうだ。この子は人懐っこいけど野性動物の本能なのか、いつもは会ったばかりのひとに自分から触られにいったりはしない。よっぽどその気配がお気に召したらしい。
「では君は、精霊使いか幻獣使いだろうか。良いな、俺も一応はギルドに籍を置いているが、家業があって専念出来ないから羨ましい」
「あ、そうなんですか。じゃあわたしはついさっき登録したばかりなので、お兄さんのがだいぶ先輩ですね。えーっと」
そうだった、そういえば名前を知らないんだった。今更の事実に思い至って、聞いていいですかーというつもりで首をかしげてみせる。それを見た相手は何がそんなに嬉しかったのか、にこーっととってもまぶしい笑顔になると、大変気持ち良く答えて下さったのである。
「マックスという。良ければ、俺にも君の名前を教えてもらえないだろうか」
21
あなたにおすすめの小説
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。
織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。
父であるアーヴェント大公に疎まれている――
噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。
今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど
有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。
私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。
偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。
そして私は、彼の妃に――。
やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。
外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……
タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。
精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた
アイイロモンペ
ファンタジー
2020.9.6.完結いたしました。
2020.9.28. 追補を入れました。
2021.4. 2. 追補を追加しました。
人が精霊と袂を分かった世界。
魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。
幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。
ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。
人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。
そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。
オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる