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第五章:
たそがれの速さはどれくらい③
しおりを挟む中はとても広々としていて、ちょうど正面が窓になっていた。その手前に大きな机があって、さらにその前には向かい合わせに置かれたソファーとテーブル。全部が綺麗に磨き上げられていて、飴色の上品な光沢があった。
ゲームで見た、うちの元フィアンセ――レオナールさんの部屋によく似た間取りだ。こういうのを執務室、というんだっけ。気がつかないうちにずいぶん奥まで入り込んでいたようだ。
その大きな机で、これまた立派な椅子に背中を預けてぐったりしている人がいた。言わずと知れた、さっきからずっと席を外していた公爵さんだ。
そのすぐ隣では、さっき呼びに来てくれた侍従の男の人が、心配そうに様子を見守っていた。手に持ったトレーの上に、透きとおった茶色の液体が入った瓶と小さなコップが載っている。
……あ、あれって気付け用のお酒だ。映画で見たことがある。ショックなことがあって貧血を起こしかけた時とかに、ストレートでちょっとだけ飲むやつである。ってことは、やっぱり気分が悪いんだ。
「落ち着かれましたか、公爵」
「……ああ、すまん。我ながら情けない」
「とんでもないことです。貴方のお立場にあれば、誰しも取り乱しましょう」
「そうかな……うちの妻あたりは𠮟り飛ばしそうだが」
「またそのようなことを仰る。――ご連絡は」
「彼女のことだ、すでにいつものルートで察知しているかもしれん。が、念のため頼む」
「承知いたしました」
話すうちにだんだん声がしっかりしてきたけど、やっぱり顔色が良くない気がする。
うちのリーシュが力になれるかな? 前に治してもらった頭痛は、爆発の衝撃でやられた物理的な痛みだった。精神的なものにはどのくらい効くんだろうか。
引き返して呼んでこようかな、でもそれやったら立ち聞きしたのバレるよな……なんて、ひとりでぐるぐる考えていたら、大きなため息が聞こえた。はっとしてそっちを見たら、今度は組んだ両手におでこをつけて俯いた公爵さんが見える。独り言をこぼすような口調で、
「……イブマリーをこちらで預かる、というのは、なにも問題ない。朗らかで曇りのない、純粋な子だ。危害を加えるような輩は、断じて看過できない」
「ええ。仰る通りです」
「それはいいんだ。……が、しかし、どんな顔をして戻ればいいのか」
「いつも通りに微笑んでおられればよろしいかと。今すぐどうこう出来る問題ではありませんでしょう」
「それくらいわかっているよ……だが、こんな形で見つかることになるとは」
「……何度でも申しますが、貴方がたに非は一切ありません。私の血と名に懸けて断言致しましょう。
生き別れた実の御子が見つかったとの報せ、誠におめでとうございます」
(なんですとー!?!)
ぼんやりしていたら、だしぬけにとんでもないことを聞いてしまった。脳内で思いっきり息を吞む気配がしたので、育ち的に修羅場慣れしてるはずのガワの人も同じくらい驚いたようだ。なんかすみません、部外者がこんな重要かつプライベートな話聞いてて!!
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