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第五章:
ホーム・スイート・ホーム?①
しおりを挟む人間て、どうして暗いところを怖いと思うんだろう。
ずいぶん前に雑談していた時、ふと思いついてそう聞いたことがある。我ながら唐突にもほどがある質問だったけど、オタク友達筆頭はちゃんとそれっぽい答えを教えてくれたものだ。
『私たちが周りから情報を集める時って、目で見てるものが八割なんだって。暗いと、その大事な視覚がほぼ使えないじゃない? 身の安全が確保できないってなると、やっぱ本能的に怖いんじゃないかな。
まあその分、他の感覚が鋭くなったりもするらしいけど』
なるほど、そんなもんなのかと、わかりやすい解説にとりあえず納得。分かればよろしい、としかめつらしくうなずいていたみっちゃんの背後に、もっこもこに盛り上がる入道雲が見えていた。だから、あれは去年の夏のことだったんだろうな――
「――っ、はっ!?」
ばちっ、と、音が付きそうなくらいの勢いで目が開いた。その場にはね起きて周りを見渡すと、それはもう見事なまでに黒一色の世界が広がっている。なんだこれ、何でこうなったんだっけ……
『……抜き足差し足で室内に戻ろうとしていたら、突然襲い掛かられたのよ。おそらく、別の空間に引きずり込まれたのだと思うわ』
「あ、アンリエット? 大丈夫?」
『おかげさまで、わたくしはまったくの無傷よ。貴女は?』
「えー、っと」
聞かれて座ったまま、身体をぱたぱた触ってみる。そっちを下にして寝ていたのか、右側のほっぺたにちょっと違和感があるくらいで、目立った外傷はなさそうだ。
「ケガはしてないみたい。頭が痛いとかもないよ」
『そう、よかった。――もっとも、そう安心していいかわからないのだけれど』
だよね、うん。
今いるのは、とにかく真っ暗でだだっ広くて(雰囲気だけど)、なのになぜか自分だけはちゃんと見えているという妙な空間だ。だれがどういう目的で引っ張りこんだのかわからないが、いつ何が出てきてもいいように心構えだけはしておかないと。
暑くも寒くもないし、空気の流れも感じられない。そんな中、ふっと鼻先をかすめたものがあった。
良い香りではないけど、とんでもない悪臭でもない。薬草みたいな青臭さの中に、ほんのり甘さが混ざっているような感じ。そんなに遠くない過去、どこかで嗅いだ覚えがある気がする。
「どこだったっけ? ていうか、何のにおいだっけ……」
『うーん、明らかに有機物の香りではあるのだけど』
必死で思い出そうと、アンリエットと一緒に頭をひねっていた時だった。
「――考える必要などない」
どこかわりかし近くから、そんな冷ややかな声がしたのは。
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