デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝

文字の大きさ
363 / 379
第二章:

プリティ・リトル・プリンセス⑤

しおりを挟む


 (――ああ、あの子か。ベルンシュタイン家のご令嬢は)

 賑やかに騒ぐわけではないが、密やかな熱気が籠っている。そんな宮前広場の光景を、遠くから見ている人影があった。緊張した様子ながら、思い切りのよい堂々とした立ち居振る舞いを見せるご令嬢の姿に、そっと目を細める。

 (奥方にそっくりだな。所作も品があって、綺麗に整っている)

 あれは相当練習したんだろう。外見が麗しいだけでなく、勤勉な性質を持っているようだ。努力ができるというのは、上に立つ者として重要であると同時に、とても得難い資質だ。公爵閣下は良き跡取りに恵まれていると見える。

 (しかし、紫の瞳とは……今この時に入城するということは、確実に神殿の件に関わるのだろうが)

 素質と性質の点では、十中八九問題ない。万が一のことがあるとすれば、それはおそらく――

 束の間、思案するように瞑目して。ひとまずは表の仕事を片付けるべく、影は足音一つ立てずに消え去った。







 身長の二倍ちょっとはありそうな、分厚い両開きの扉をくぐって、エントランスで待っていた制服姿の侍従さんに『ご案内いたします』と先導され。ふっかふかの絨毯が敷き詰められた廊下をしずしずと進んでいって、何度か角を曲がって階段を上って、やっとのことで控室に到着した。

 「謁見の間の準備が整い次第、お呼びいたします。それではしばしの間、お寛ぎくださいませ」
 「分かりました。丁寧な案内をありがとう」
 「いえ、とんでもないことです。お褒めに預かり恐悦にございます」

 ここまで連れてきてもらったお礼を言ったところ、それこそ大変丁寧な挨拶が返ってきた。きちんとお辞儀をしてドアを閉めた侍従さんの気配が遠ざかっていき、完全に人気がなくなると同時に、

 「~~~~~~きっ、緊張したああああああ」

 ……ようやく素が出せる状態になった瞬間、張り詰めまくっていた緊張が解けた。置いてあったソファにどさーっ、と倒れ込んで、叫ぶわけにはいかないので盛大に呻く。ちょっと田舎のおばーちゃんちで聞いたウシガエルみたいな声が出たな、今。

 いや、だって。廊下に人がみっしり並んでるとかはなかったけど、移動中も何かしらの気配というか視線というかがずっとついてきて、気の休まる暇がなかったのだ。まだお城に入ってから十分ちょっとしかたってないのに、めっちゃくちゃ疲れた。これが日常って、貴族のお嬢様たちすごいな!?

 ちょっとご挨拶に来ただけでこうなんだから、普段からここに住んでいるマックスさんたちはもっと大変だろう。いや、もしかしたら逆に慣れているかもしれないけど。

 (今更だけど、アンリエットもリュシーもすごいね!? これ毎日やってたんだよね!? わたしちょっと真似できない……!!)
 《まあまあ。褒めてくれるのはうれしいけど、要は慣れよ? ちゃんと出来ていたから自信を持ってちょうだい》
 (ううう、頑張りますううううう)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

今さら「間違いだった」? ごめんなさい、私、もう王子妃なんですけど

有賀冬馬
恋愛
「貴族にふさわしくない」そう言って、私を蔑み婚約を破棄した騎士様。 私はただの商人の娘だから、仕方ないと諦めていたのに。 偶然出会った隣国の王子は、私をありのまま愛してくれた。 そして私は、彼の妃に――。 やがて戦争で窮地に陥り、助けを求めてきた騎士様の国。 外交の場に現れた私の姿に、彼は絶句する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ連載中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ
ファンタジー
 2020.9.6.完結いたしました。  2020.9.28. 追補を入れました。  2021.4. 2. 追補を追加しました。  人が精霊と袂を分かった世界。  魔力なしの忌子として瘴気の森に捨てられた幼子は、精霊が好む姿かたちをしていた。  幼子は、ターニャという名を精霊から貰い、精霊の森で精霊に愛されて育った。  ある日、ターニャは人間ある以上は、人間の世界を知るべきだと、育ての親である大精霊に言われる。  人の世の常識を知らないターニャの行動は、周囲の人々を困惑させる。  そして、魔力の強い者が人々を支配すると言う世界で、ターニャは既存の価値観を意識せずにぶち壊していく。  オーソドックスなファンタジーを心がけようと思います。読んでいただけたら嬉しいです。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...