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第二章:
プリティ・リトル・プリンセス⑥
しおりを挟むガワの人と脳内でやり取りしつつ、ソファの上でぐったりしていると、周りの人たちがそろって話しかけてくれた。もちろん言うまでもなく、馬車から――いや、数日前にヴァイスブルクを発ってからずっと、人目のある場所ではお邸のひととして演技してくれていた『紫陽花』のみんなだ。
「イブマリー嬢、お疲れ様です。長旅だったゆえ、息が詰まったでしょう」
「天気が良かったのはいいんだけどなぁ。石畳が滑ったりしなくて済むから、わりと早く着いたし」
「それでも大分揺れてましたよね……気分、大丈夫ですか? 何か持ってきましょうか」
「うううう、ありがとうございます~~~~」
口々に労ってくれたのはショウさん、ディアスさん、そしてスコールくんの男性陣だ。さっきまではお父さんの方の馬車に乗っていたので、顔を合わせるのは今朝出発したとき以来だ。全員が侍従さんの制服である、落ち着いた紺色の上下を着ている。スタンドカラーの上着がかちっとした印象で、丸くてつば付きの帽子を被ると顔が隠れて、全然別の人に見えるのが面白かった。もちろん全員よく似合ってますとも。
「そうだ、わたしは大丈夫だけど、スコールくんは? 耳としっぽ、ないと何だか落ち着かないよね」
「は、はい、もうだいぶ慣れましたから。あとは帽子が浮かないように気を付けます!」
何が起こるかわからないし、もしかするとかなりめんどくさい事態になるかもしれないので、付いてきてくれるみんなは出来るだけ目立たない方がいい。そんなわけで現在、スコールくんは耳としっぽを『見えなくする』魔法道具を使っていた。実際になくなっているわけじゃなくて、部分的に透明にしているから感覚は普段と変わらないらしい。これももちろん、普段通信用に持たせてもらっているイヤリング同様、シェーラさんの作品だった。
「馬車を降りる時ちょっとヒヤッとしたけど、全然問題なかったわね。ティノたちもお行儀よく歩いてたし」
「ねー。みんなじーっと見てたけど、イブちゃんと集中できてたもんね! りっくんも公爵さんもホメてたよ」
『はーい、ごしゅじんといっしょにがんばったー!』『ふぃっ』『まままー』
男子たちと反対側に立っていたフィアメッタとリラに褒めてもらって、足元でお座り中の小動物さんたちが元気にお返事する。向かい側のソファに座っているエルお父さんとりっくんも笑顔で頷いてくれたので、大分安心することが出来た。
ちなみにだけど、立ち居振る舞いは習ったものを元に、前に現世のお母さんと一緒に見た映画のお姫様をイメージしてみた。全盛期は銀幕の妖精なんて呼ばれてたという女優さんで、それはもう綺麗で笑顔が可愛くて品もあって、何より所作が断然麗しい。映画がまだ白黒だった頃の作品だから、うんと昔のやつなのだが、それでもとっても素敵なお話だった。名作は時代を超えるっていうけど本当なんだなぁ。
……もっとも参考にしたからって、同じように素敵になるかどうかはわからない。というか完全にわたし次第なんだけど、まあまあ上手くいったみたいだから良しとしよう、うん。結果オーライって言うし。
こんこん、と澄んだノックの音がした。とっさに口をつぐんで身構えたみんなの視線の先で、さっきくぐってきたドアが勝手に開く。その先にいたのは伝令のひと――では、なかった。
「おお、久しいな。皆元気にしておったか? そしてイブマリー、すっかり見違えたなぁ。じい様は鼻が高いぞ」
『ほーっ♪』
「わあ、オズさんにホーリィ! お久しぶりです、元気そうでよかったー」
かれこれ一か月弱は会っていなかったから、感動もひとしおだ。ひょっこり現れていたずらっぽく笑ってみせた、いろいろお世話になりまくりの大先輩の姿に、わたしに圧し掛かっていたストレスはほぼ完全に吹き飛んだのだった。
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