理系が転生したら非科学的存在 (魔物)でした

秋人司

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第65話「Another Earth」

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『要は、私の暇つぶしに付き合ってくれ、と言っている』

『…………』

『ハハ、そう怒るな』

 無感情な笑声。
 ひらりと男から発せられた怒気は、瞬く間に隠される。

 自称・神は気にもせず言った。

『実のところ、私が創った世界にはいくつか仕掛けを用意していてね。それがどのように作動して、どんな影響をもたらすか。それをここ世界の外側から観察するのが、私の唯一の楽しみなんだ。君にはその一部になってもらう予定だ』

 その笑みを含んだ声音に、男は多少引きながら言う。

『なんとも趣味の悪いことだな……』

『そうか? 神としては至極妥当な振る舞いじゃないか?』

 相変わらず容赦のない男の言に、相手は堪えた様子もない。

『それに、ここ宇宙の外側には私以外、そう長く存在していられなくてね。退屈でしょうがないんだ。
 君たち地球の人類を眺めているのも存外楽しかったが、それでも、もう1つ世界を創造してしまったくらいには退屈だった』

 自嘲気味にも聞こえるその声音に、男は黙って先を聞く。

『――それに、私にも同じことができないものかと気になったのもあってね』

『同じこと?』

『ああ。君たちの世界――地球を含む君たちの宇宙を創造したモノと、私も同じことをできないか、とね』

『?』

 この一見不可解な言葉に、それでも男は解を出す。

『……そういや、あんたさっき、俺たちに望まれたからここに生じたとかなんとかって』

『そうだ』

 頷きつつ、相手は軽く笑ったらしい。

『きっと勘違いする者もいるだろうが……実は、君たちの世界を創ったのは私ではないんだ。
 無からビックバンを起こし、このだだっ広い宇宙を創造したのは、あくまで私とは別の存在。……まあ、少なくとも私は一度もお目にかかったことはないから、果たして存在するかも定かじゃないがね』

『…………で、あんたも同じことをやってみたいと』

『ああ』

 すっかり優秀な聞き役と化した男に気分を上向かせつつ、自称・神は言った。

『君たちも気づき始めたようだが、異世界異なる宇宙というのは元から存外たくさんある。もちろん、ブラックホールもそうだしな。私は、そこにたった1つ、世界宇宙を追加しただけだ』

『……』

『――君たちの宇宙に寄せた、新たな宇宙の創造に関しては比較的簡単だった。既に各パラメーターの適正値は知れていたからな。あとはその通りに上手く調整するだけで、それ自体は成った。……が、そこからが大変だったな』

 その時の苦労を滲ませ、相手は言う。

『――まず、君たちの言葉で言うハビタブル・ゾーン生命生存可能領域に適切な大きさの岩石惑星を配置するのに苦労した。ランダムに物質をバラまけばよいわけでもなくてな。……完全に地球を模倣しなければ、その後の生命創造に影響がでるのは必至。私は、自分でも呆れるほどにこだわってしまったよ。おかげで、第2のAnother地球Earthを完成させた時点で、およそ120憶年が経過してしまった』

 そんな笑み交じりの言葉に、男からは『おい、時系列が矛盾してんぞ』と鋭く指摘が入るも、相手はどこ吹く風。

『ん? なに、そんな些事は気にするな。時空間の概念が異世界間で共通だと思うか?』

 そんなぐうの音も出ない返しに男が再度黙る一方、相手は次いで言った。

『何しろ、これだけ数多くの宇宙、そして数多くの天体が存在する中、知的生命体がここまで繫栄した天体はからな。
 矮小な生命体ならある程度他にも例があるが、私はぜひとも君たちのような文明をもった、高等生物を創り出したかった。ならば手始めに、君たちのホーム地球を忠実に再現するしか、手はないだろう?』

『…………』

『そうして、ようやく私は異世界を創造した訳だが…………』

 意味ありげに言葉が切れたところに、男が引き継ぐ。

『――そう簡単に、生命体を創り出すことはできなかった。そうだろ? 正直、聞く前から想像つく』

 そんな呟きに、相手は膝でも打ちそうな調子で応じた。

『まさにその通り。いやあ、それにしても、あの困難さは当初の予想をはるかに超えていた。
 わかるか? 君たちに全知全てを知り全能全てが可能と定義されたこの私が、遂にテコ入れを決意せざるを得ない困難さを』

『テコ入れだ……?』

『そう。私は、数多くの試行の末、遂にしびれを切らしてな。理想としていた地球の完全再現を諦めた。そして、新たなエネルギー魔力を創造し、それで辻褄を合わせることにしたわけだ』

『…………俺からすりゃ、難しさはどっちもどっちな気がするが』

『いや? そうでもない。何しろ素材は大量にあったからな。君も一度は聞き知ってるはずだ。
 ほら、君たちが未だ正体を掴めていないエネルギーやら物質やらがあるだろう? 君たちの宇宙では合計95%も占めているアレだ。ついでに、よその宇宙では有り余っているしな。
 そちらから少しぐらい拝借し、改変したうえでこちらに流用しても、影響は軽微だ』

『…………っ!…………まさかと思うが。あんたが言ってんのはダークマター暗黒物質ダークエネルギー暗黒エネルギーのことか?!』

『そうそう、それだ。君たち人類が情けなくも未だ正体を掴めていない、全ての宇宙を支え、左右する要だ。私が使ったのはそれだよ』

 相手からの何気ない嘲りに、男は瞬間的にイラついて言う。

『おいおい、情けねえとは何だよ。Another Earthを創り出すのに28億年もオーバーしたあげく、更にはチートでブーストしなきゃ、まともに知的生命体も生み出せなかった自称神が』

 この鋭い指摘は、さすがの相手にも効果覿面てきめんだったらしい。

『うッ…………。それを言われては私も返す言葉がないな。……わかった。前言を撤回しよう』

『……案外、素直な神だな』

 呆れの混じる男の呟きを聞き流し、自称・神は穏やかに言う。

『まあそうして、私は見事、異世界を創り上げたわけだ』

 その感慨深げな言葉に対し、男は白々しい拍手を鳴らしたいくらいだった。しかしできないため、代わりに至極棒読みで称賛する。

『わーすごい。さすが神。で?』

 何しろ、彼は未だに己の夢だという可能性を捨てきっていなかったし、また他方では、肝心の本題でもなかったからだ。

『ハハッ、そう急くな。ここからは君も関わる話だ』

 そんな気の抜けた返しも笑って流し、相手もまた話し足りないと言葉を継ぐ。

『わかってくれるか? 創り出したからには継続的に手を加えていきたいのが創造主の心理というもでな。
 地球への干渉は近頃控えている反動もあって、異世界では色々なことを試したくてしょうがないんだ』

『…………それで、ギミックがどうのという話になるわけだ?』

『ああ、そうだ。ちなみに、既にいくつかは仕込んである。それに、そのまま人間を送り込むのも何度か試していてな。……いわゆる異世界転移というやつだ』

『…………』

『対して、思考回路をトレースし、新たな身体に移す――異世界転生の方は、今言った通りそう簡単な手順ではない。が、私は遂にそれも可能にした』

『……だから、テストケースとして俺を使ってやってみる、と』

『ああ。とはいえ、君で試すのが初めてというわけじゃない。いくつかの先例のおかげで、課題だった記憶の混濁も既に解消されてきた。君はほぼ完璧な記憶をもって生まれ直せるだろうね』

『…………』

『特に、君は知識が豊富なようだし。精々、あちらの世界に新たな知見をもたらして、私も楽しめるような変革を起こしてくれると嬉しいね』

『…………はあ。まあ、俺の性格上、期待されると裏切りたくなるんで、あまり期待しない方がいいと思うが』

『ハハ! まあ、いい。それでは、始めようか――』



 





 そうして、彼はこの世界にやってきた。
 これが、かつてあったコト。


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