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一 少年期編
お洒落は苦手です
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朝食を終えて一息つく間もなく、俺は包囲された。
母上とメイドのマリーとニコルに三方を囲まれ、扉の前にはクロードが陣取っている。
「さぁリューディス坊っちゃま、髪を梳きましょうね」
マリーは母上の守役でもあったベテランのメイドだ。ちなみにこの屋敷にはメイドはマリーしかいない。理由はわからないけど。母上は、ー大人になったら教えてあげるーと言った。
俺はそんなことより、今この状況が何より苦痛だった。
「はあぁ.....」
盛大に溜め息をつくと、ニコルがヘンなものを見るような目で俺を見た。
「どうしたんです?」
「......お、いや僕はどうしてこんな顔なんだろう.....」
ポソリと呟く。同時にマリーと母上がこれでもかというくらいに目を見開いた。
「何を仰ってるんですか、坊っちゃま」
マリーが何かとんでもないことを聞いたように眉をつりあげた。
「こんなに綺麗なお顔をしているのに......。奥さま譲りのふんわりしたプラチナブロンドのサラサラの髪に、アメジスト色の切れ長の瞳はパッチリして、とても可愛いらしゅうございますよ。睫毛も長くて......。すっとして高い鼻筋に薔薇色の小ぶりな唇がとっても愛らしゅうございますよ。肌のお色は真っ白で頬っぺたがほんのりピンクで......こんな可愛いらしく美しいお方は滅多におりませんよ」
力説するマリーに鏡のあちらでウンウンと頷く母上。
「でも、僕は男の子だよ......」
そうなんだよ。鏡の向こうの顔は本当に可愛くてそこはかとなく色っぽくて、女の子だったら本当に美人さんだと思う。僕だって惚れるかもしれない。自分じゃなきゃ......。
「確かにさぁ......整ってはいるけど、女の子みたいじゃない?」
おそるおそる小さな声で尋ねる俺にマリーはぶんぶんと千切れんばかりに首を振った。
「男も女もありません。可愛いは正義なんですっ!」
またもや大きく頷く母上。
「正義ねぇ......」
視線を走らせると、ニコルは明後日のほうを向いて知らんぷりしてるし、クロードは口許をちょっと歪めて笑ってやがった。
俺はもうひとつ大きな溜め息をついて、マリーに促されて立ち上がった。
「さ、お着替えしましょう」
今日の服は白いシルクのブラウスにラベンダー色のジャケットと膝丈の半ズボン。ブラウスの襟と袖口にはこれでもかと言わんばかりにレースのフリルがついている。
「リューディスはフリルが嫌いだから控えめにしたのよ」
半ば不満そうな母上、これが控えめだったら、フル装備になったらどんなだよ!
でっかいリボンタイにはでかい宝石がついてて重いし。ハイソックスにまでレースだの宝石なんか着けなくていいだろ。
「手も足も細いし、背も小さくてなんか女の子みたい......」
自分の立ち姿を見て、ますます凹む俺を母上は微笑みながら宥める。
「そのうち大きくなるわよ、まだ五歳なんだから......」
「本当に?」
上目遣いで尋ねる俺に母上がにっこり微笑む。
「えぇ」
ーそうか、まだ小さいから女の子みたいなんだ!ー
俺は思いきって訊いてみた。
「じゃあ、クロードみたいに大きくなれる?」
途端に母上の表情が困ったような戸惑うような様相に変わった。
「まぁ......それはどうかしら?」
チラリと母上が目線を投げる。クロードは姿勢を崩さず扉の前に立っているが、やっぱり口元が何気に笑ってる。
「さ、行きますよ」
母上に促されて部屋を出る。
玄関のエントランスまで母上に手を繋いでもらいながら、俺はチラチラと斜め後ろのクロードの方ばかり見ていた。
190センチはあろうという上背にガッチリした肩幅、しっかり筋肉のついた胸、腕、腰、脚。しかも顔がいい。
太い形のいい眉にギョロリとした目力のある鳶色の目、存在感のある通った鼻筋に一文字に結んだ男らしい大きい口。角ばった顎には髭がある。短く刈り上げた硬そうな濃茶色の髪も凛々しく見える。
つまりは前世も含めて俺のなりたかった憧れのイケメン・マッチョなのだ。
ー見てろよ、俺だってきっと大人になれば......ー
悔しさにキュッと手を握りしめる俺を軽く抱き上げて馬車に乗せながら、クロードが俺の耳許でこっそり囁いた。
「無理だ。諦めろ」
......なんでだよっ!!
母上とメイドのマリーとニコルに三方を囲まれ、扉の前にはクロードが陣取っている。
「さぁリューディス坊っちゃま、髪を梳きましょうね」
マリーは母上の守役でもあったベテランのメイドだ。ちなみにこの屋敷にはメイドはマリーしかいない。理由はわからないけど。母上は、ー大人になったら教えてあげるーと言った。
俺はそんなことより、今この状況が何より苦痛だった。
「はあぁ.....」
盛大に溜め息をつくと、ニコルがヘンなものを見るような目で俺を見た。
「どうしたんです?」
「......お、いや僕はどうしてこんな顔なんだろう.....」
ポソリと呟く。同時にマリーと母上がこれでもかというくらいに目を見開いた。
「何を仰ってるんですか、坊っちゃま」
マリーが何かとんでもないことを聞いたように眉をつりあげた。
「こんなに綺麗なお顔をしているのに......。奥さま譲りのふんわりしたプラチナブロンドのサラサラの髪に、アメジスト色の切れ長の瞳はパッチリして、とても可愛いらしゅうございますよ。睫毛も長くて......。すっとして高い鼻筋に薔薇色の小ぶりな唇がとっても愛らしゅうございますよ。肌のお色は真っ白で頬っぺたがほんのりピンクで......こんな可愛いらしく美しいお方は滅多におりませんよ」
力説するマリーに鏡のあちらでウンウンと頷く母上。
「でも、僕は男の子だよ......」
そうなんだよ。鏡の向こうの顔は本当に可愛くてそこはかとなく色っぽくて、女の子だったら本当に美人さんだと思う。僕だって惚れるかもしれない。自分じゃなきゃ......。
「確かにさぁ......整ってはいるけど、女の子みたいじゃない?」
おそるおそる小さな声で尋ねる俺にマリーはぶんぶんと千切れんばかりに首を振った。
「男も女もありません。可愛いは正義なんですっ!」
またもや大きく頷く母上。
「正義ねぇ......」
視線を走らせると、ニコルは明後日のほうを向いて知らんぷりしてるし、クロードは口許をちょっと歪めて笑ってやがった。
俺はもうひとつ大きな溜め息をついて、マリーに促されて立ち上がった。
「さ、お着替えしましょう」
今日の服は白いシルクのブラウスにラベンダー色のジャケットと膝丈の半ズボン。ブラウスの襟と袖口にはこれでもかと言わんばかりにレースのフリルがついている。
「リューディスはフリルが嫌いだから控えめにしたのよ」
半ば不満そうな母上、これが控えめだったら、フル装備になったらどんなだよ!
でっかいリボンタイにはでかい宝石がついてて重いし。ハイソックスにまでレースだの宝石なんか着けなくていいだろ。
「手も足も細いし、背も小さくてなんか女の子みたい......」
自分の立ち姿を見て、ますます凹む俺を母上は微笑みながら宥める。
「そのうち大きくなるわよ、まだ五歳なんだから......」
「本当に?」
上目遣いで尋ねる俺に母上がにっこり微笑む。
「えぇ」
ーそうか、まだ小さいから女の子みたいなんだ!ー
俺は思いきって訊いてみた。
「じゃあ、クロードみたいに大きくなれる?」
途端に母上の表情が困ったような戸惑うような様相に変わった。
「まぁ......それはどうかしら?」
チラリと母上が目線を投げる。クロードは姿勢を崩さず扉の前に立っているが、やっぱり口元が何気に笑ってる。
「さ、行きますよ」
母上に促されて部屋を出る。
玄関のエントランスまで母上に手を繋いでもらいながら、俺はチラチラと斜め後ろのクロードの方ばかり見ていた。
190センチはあろうという上背にガッチリした肩幅、しっかり筋肉のついた胸、腕、腰、脚。しかも顔がいい。
太い形のいい眉にギョロリとした目力のある鳶色の目、存在感のある通った鼻筋に一文字に結んだ男らしい大きい口。角ばった顎には髭がある。短く刈り上げた硬そうな濃茶色の髪も凛々しく見える。
つまりは前世も含めて俺のなりたかった憧れのイケメン・マッチョなのだ。
ー見てろよ、俺だってきっと大人になれば......ー
悔しさにキュッと手を握りしめる俺を軽く抱き上げて馬車に乗せながら、クロードが俺の耳許でこっそり囁いた。
「無理だ。諦めろ」
......なんでだよっ!!
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