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一 少年期編

王子様は王子様でした

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「あー疲れたっ!」

 俺は母上に着せられた装飾過多の洋服を全部脱ぎ捨てて、ベッドにダイブした。




 今日連れていかれた『お茶会』の会場はなんと王宮だった。

ー聞いてねぇよ!ー

 馬車の中で初めてそれを告げられた俺は思わず叫びそうになった。いや、何なら馬車から飛び降りてやろうとすら思った。

 何故なら.......

『今日はマクシミリアン王子殿下のご招待だ。将来の伴侶となる方かもしれないのだから、くれぐれも礼儀を失するな』

 父上が人差し指をピンと立て、いかにも重要なことだと言わんばかりに兄上と同じブルーグレーの瞳で俺を見据えて言った。

 でも......。

 いや、ちょっと待て。

 今『王子殿下』って言ったよね?

「あの......王子殿下というのは男ですよね?」

 当たり前過ぎることを思わず聞き返す俺に、父上はふふんと鼻を鳴らした。

「そうだ。我がフランチェット王国の現国王陛下と王妃様のご嫡男にして第二王子であられる。お年はお前より二つ年上の七歳だ」

 まあ、カルロス兄上が王太子殿下の御学友に選ばれたと言って父上と母上が小躍りしてたのは知ってるけど、それで四月からの学園入学を前に猛勉強しているのも知ってるけど、でも、今『伴侶』とかって言ったよね?

「あの......父上、伴侶って、父上と母上のような関係を言うんですよね?......王子殿下は男の子なんですよね?僕も男の子なんですけど......」

 俺の質問に母上がコロコロと笑って答えた。

「そんなことは気にしなくていいのよ、リューディス。貴方は可愛いからきっと殿下のお気に召されるわ。......いずれ立派な王子妃になれるわ」

 いや、そういう問題じゃないだろ。男と男だぞ。男が男と結婚するなんてあり得ないだろ。
 目をパチクリするばかりの俺に、兄上が半ば溜め息混じりに言った。

「リューディス、この国では同性婚も認められているんだよ。特に貴族階級にはよくある話だ」

 はいぃ?

「でも男同士じゃ赤ちゃん出来ないでしょ?」

 俺の言葉に父上がいきなり咳き込む。俺何か変なこと言った?

「リューディス、貴方はまだそんなことを気にしなくていいのよ。大人になったらちゃんと教えるから.......。王子殿下から婚約のお申し出があったら、有り難くお受けすればいいの」

 母上、ちっとも良くないだろう。父上、うんうん頷いて、ふたりとも頭沸いてんのか?

 女性がいない世界ならともかく、何が悲しくて男の俺が同じ男の嫁にならなきゃいかんのよ。

 俺は、そんなに美人でもとびきり可愛く無くてもいいから、気立ての良い優しい女の子と暖かい家庭を作りたい。ー前世からの夢だ。
 前世は忙し過ぎて、なおかつ男ばっかの世界にいたから、女の子と縁が無かった。だから今度こそ幸せな結婚がしたいんだ、女の子と。

「まぁ、そんなに深く考え込まなくてもいいよ、リューディス。今日は王子殿下と仲良くなってくれればいい。後は私たちに任せておきなさい」

 任せらんねぇよ、父上。何を考えてるんだよ。俺は男だっつーの。


「まあ必ずしも婚約のお申し出があるとは限らないから。初対面なのだし、今日はアマーティア公爵家の子息らしく、皆さんにきちんとご挨拶出来ればいいよ」

 馬車を降りる時、こっそり兄上が耳打ちしてくれたけど、俺はものすごく不安だった。


 

 そうして初めてお会いした第二王子殿下は.....やはり王子様だった。

 王宮の庭園に設えられたお茶の席はとても立派で、でも何故か他の貴族の家の人はあまりいなかった。

『本当に懇意な方だけを呼んでいるから......』

 王子殿下はそれは素敵な笑みで仰った。平たく言えば側近候補の顔見せだから、他の関係無い家は呼ばれていなかっただけなのだけれど。

 紹介されたマクシミリアン王子様は蜂蜜色の金髪に澄んだ海の色の瞳をした、とても凛々しい美男子だった。
 
「私はマクシミリアン、第二王子だよ。君は?」

 差し出された手のすんなりと伸びた指に思わず見惚れて、言葉を忘れそうになった俺に微笑みかける笑顔はまんま太陽のようだった。

「初めまして。ぼ......いえ私は
アマーティア公爵家の次男で、リューディスと申します。本日はお招きありがとうございます」

 兄上と練習したとおり、右手を胸にあてて、お辞儀をして......そして、思いきって申し上げようとした。

「それであの.......父から伺ったんですが、婚約とかその......そういうことは......」

「こら、リューディス!」

 窘めようとする父上をそのしなやかな手で軽く制して、マクシミリアン様はふふっと小さく笑った。

「私たちはまだ子どもだし、初対面なんだから、そんなことを考えなくていいよ。.......まずは友達になろう」

「とも......だち?」

「そう、友達だ」

 すっと差し出された手も俺に向けられた笑顔もとても自然で、俺は嬉しくなって、にっこり笑って頷いた。

「はい、友達からお願いします!」

 そしてマクシミリアン王子のエスコートで庭園のあちこちの美しい花々を観賞させていただいた。
 
 ただ......美男子過ぎる相手を目の前にすると、やはり尋常でなく緊張するらしい。お茶や焼き菓子もいただいたけれど、あまり味がわからなかった。

 まあさすがに恋愛対象には見れなかったけどな。むしろ王子の凛々しさが羨ましかった。
 






「友達......か」

 ニコルが俺の脱ぎ捨てた服をぶつぶつ言いながら拾うのを目の端に見ながら、俺はちょっと嬉しくなった。






 まあ、俺の期待は後日、完璧に打ち砕かれたけどね。
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