14 / 50
一 奥の細道
しずやしず......(一)
しおりを挟む
翌朝、俺は欠伸をしながら課題に取り組んでいた。
祭りから帰ってきてから、牛頭さん達にせがんで、地獄見学に連れていってもらった。
あの時はゆっくり見てる余裕なんて無かったからさ。
夜中の十二時きっかりに庭の奥の三つ鳥居の真ん中に立つ。と、いきなり光が足元から沸いてきて、俺は地面の中に吸い込まれた。
で、着いたのは、あの時転がっていた冥府の部屋。大王さまの執務室の控えの間なんだって。
あの鳥居はいわば冥府直行の期間限定エレベーター。
「お久しぶりです」
牛頭さん達に連れられていくと、いました、閻魔大王さま。強面のイケメンがゆっくりお茶らしきものを啜っております。
『おぅ、篁の孫か。役目に励んでいるようだな、結構、結構』
鷹揚に笑う強面イケメン。やっぱりお盆の間は、亡くなった人達が里帰りするんで暇なんだって。
でも、明けの日は忙しいらしい。
『迷子になる奴もいるし、そのまま脱走しようとする奴もいるからな』
まぁ一部の人にとっては刑務所みたいなもんだからな。でも、脱走すると脱獄犯よりもっときつい刑罰が待ってるらしい。
「あれ?小野崎先生は?」
『向こうで書類の整理をしとる。会って行くか?』
俺は首を振った。そう言えば、平野先生や菅原先生はいないのね。
『奴らは冥府には来ない。来れないんじゃ』
平野先生や菅原先生は死んだとき、周囲に陥れられて怨霊になった。けど、みんなが神様扱いして祀りあげたから、祟りとかすることは無くなったんだけど。
『普通の御霊のように成仏することが出来なくなってしもうたんじゃ』
神様に祀り上げることは、その『結界』に閉じ込めることなんだって。だからその『本体』はそこから動くことが出来ない。
初めは怒ってたんだけど、ずっと長い間、みんなが一生懸命、慕ってすがってくる間に魂がキレイになった。でも相変わらず魂の本体は縛られたままなんだって。
『でも、あっちこっちに分社ができて、分け御霊が宿るようになって、奴らはそれを良しと思うようになった』
元々が世の中のため、人のために尽くしたい人達だったから相当やりがいは感じてるらしい。
でお盆は、それぞれの故郷に里帰りしてるって。平野先生の平将門は板東に、菅原先生の菅原道真は京都に帰って、家族水入らずしているらしい。いいお父さんしてるのね、二人とも。
それにしても......
「ねぇ大王さま。なんで篁さんは俺にこだわるの?」
考えてみれば、篁さんはずっと昔の人だから、子孫だっていっぱいいるよね?
『お前が娘だからじゃ』
は?
『お前は自分の娘の転生だからな。昔してやれなかったことをしてやりたいんだろ』
えぇーっ?小野小町って小野篁の娘だったんですか?
大王さまいわく、小町は小野篁さんが、陸奥国に赴任してた時に生まれた娘なんだって。
お姉さんとふたり、都に引き取られたんだけど、父親の篁さんは色々政変とかあって淡路に流されたり、復帰して都に戻っても仕事が忙しくて、ほとんど娘にかまえなかったんだって。
そりゃ夜中も冥府で仕事してりゃあねぇ......いったいいつ寝てたんだろ?
『もっとちゃんと見ていてやれれば、前世のお前を不幸にすることも無かったって後悔があるらしくてな......』
え?前世の俺、不幸だったの?そんな記憶無いけど。
『ことに、お前達姉妹を母親から引き離したことを済まないと思っていたらしい』
あ、だから今世は親父が単身赴任なの?結構引き摺るのね、前世って。
「やっぱ、俺、篁さんの顔を見ていきます」
俺の言葉に大王さま、にっこり頷いた。
んで、顔を出したら篁さんに書類の整理を手伝わされたけど、そんなに嫌じゃなかったな。
なんか美味しいお菓子も食べさせてもらったし。なんかかんか話してたら、夜明け近くになって急いで帰ってきたんだけど。
牛頭さん、馬頭さんはみんなの手伝いがあるからって、俺をこの世に戻して、また忙しそうに帰っていった。
みんな大変だね。
てことで、今日は俺、独りです。水本もバスケ部の合宿だし。
じいちゃん家の居間でのんびり課題してたら眠くなった。
けど、なんか庭の奥に人の気配がする。木の陰に誰か立ってる?
ー見つけた......ー
って男の人......いや同年代くらいの男の子がこっちを見てる。
ん?なんだ?
そっちは山で、道なんか無いんだが?
立って追いかけようとしたら、姿が見えなくなった。
そのかわりに、表の玄関の方から、さくさく歩いてくる女子の姿が見えた。
「こんにちは、小野くん」
「え?菅生?」
コンビニの袋を抱きしめてやって来たのは、同級生の女子だった。
「小野君に相談があるの。急いでるんだ......」
祭りから帰ってきてから、牛頭さん達にせがんで、地獄見学に連れていってもらった。
あの時はゆっくり見てる余裕なんて無かったからさ。
夜中の十二時きっかりに庭の奥の三つ鳥居の真ん中に立つ。と、いきなり光が足元から沸いてきて、俺は地面の中に吸い込まれた。
で、着いたのは、あの時転がっていた冥府の部屋。大王さまの執務室の控えの間なんだって。
あの鳥居はいわば冥府直行の期間限定エレベーター。
「お久しぶりです」
牛頭さん達に連れられていくと、いました、閻魔大王さま。強面のイケメンがゆっくりお茶らしきものを啜っております。
『おぅ、篁の孫か。役目に励んでいるようだな、結構、結構』
鷹揚に笑う強面イケメン。やっぱりお盆の間は、亡くなった人達が里帰りするんで暇なんだって。
でも、明けの日は忙しいらしい。
『迷子になる奴もいるし、そのまま脱走しようとする奴もいるからな』
まぁ一部の人にとっては刑務所みたいなもんだからな。でも、脱走すると脱獄犯よりもっときつい刑罰が待ってるらしい。
「あれ?小野崎先生は?」
『向こうで書類の整理をしとる。会って行くか?』
俺は首を振った。そう言えば、平野先生や菅原先生はいないのね。
『奴らは冥府には来ない。来れないんじゃ』
平野先生や菅原先生は死んだとき、周囲に陥れられて怨霊になった。けど、みんなが神様扱いして祀りあげたから、祟りとかすることは無くなったんだけど。
『普通の御霊のように成仏することが出来なくなってしもうたんじゃ』
神様に祀り上げることは、その『結界』に閉じ込めることなんだって。だからその『本体』はそこから動くことが出来ない。
初めは怒ってたんだけど、ずっと長い間、みんなが一生懸命、慕ってすがってくる間に魂がキレイになった。でも相変わらず魂の本体は縛られたままなんだって。
『でも、あっちこっちに分社ができて、分け御霊が宿るようになって、奴らはそれを良しと思うようになった』
元々が世の中のため、人のために尽くしたい人達だったから相当やりがいは感じてるらしい。
でお盆は、それぞれの故郷に里帰りしてるって。平野先生の平将門は板東に、菅原先生の菅原道真は京都に帰って、家族水入らずしているらしい。いいお父さんしてるのね、二人とも。
それにしても......
「ねぇ大王さま。なんで篁さんは俺にこだわるの?」
考えてみれば、篁さんはずっと昔の人だから、子孫だっていっぱいいるよね?
『お前が娘だからじゃ』
は?
『お前は自分の娘の転生だからな。昔してやれなかったことをしてやりたいんだろ』
えぇーっ?小野小町って小野篁の娘だったんですか?
大王さまいわく、小町は小野篁さんが、陸奥国に赴任してた時に生まれた娘なんだって。
お姉さんとふたり、都に引き取られたんだけど、父親の篁さんは色々政変とかあって淡路に流されたり、復帰して都に戻っても仕事が忙しくて、ほとんど娘にかまえなかったんだって。
そりゃ夜中も冥府で仕事してりゃあねぇ......いったいいつ寝てたんだろ?
『もっとちゃんと見ていてやれれば、前世のお前を不幸にすることも無かったって後悔があるらしくてな......』
え?前世の俺、不幸だったの?そんな記憶無いけど。
『ことに、お前達姉妹を母親から引き離したことを済まないと思っていたらしい』
あ、だから今世は親父が単身赴任なの?結構引き摺るのね、前世って。
「やっぱ、俺、篁さんの顔を見ていきます」
俺の言葉に大王さま、にっこり頷いた。
んで、顔を出したら篁さんに書類の整理を手伝わされたけど、そんなに嫌じゃなかったな。
なんか美味しいお菓子も食べさせてもらったし。なんかかんか話してたら、夜明け近くになって急いで帰ってきたんだけど。
牛頭さん、馬頭さんはみんなの手伝いがあるからって、俺をこの世に戻して、また忙しそうに帰っていった。
みんな大変だね。
てことで、今日は俺、独りです。水本もバスケ部の合宿だし。
じいちゃん家の居間でのんびり課題してたら眠くなった。
けど、なんか庭の奥に人の気配がする。木の陰に誰か立ってる?
ー見つけた......ー
って男の人......いや同年代くらいの男の子がこっちを見てる。
ん?なんだ?
そっちは山で、道なんか無いんだが?
立って追いかけようとしたら、姿が見えなくなった。
そのかわりに、表の玄関の方から、さくさく歩いてくる女子の姿が見えた。
「こんにちは、小野くん」
「え?菅生?」
コンビニの袋を抱きしめてやって来たのは、同級生の女子だった。
「小野君に相談があるの。急いでるんだ......」
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる