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二 通小町

巡り合いて......(二)

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 転校生の深草くんは、俺の予想通り、入ってきて早々、毎日、休み時間ごとに女子に囲まれております。隣の教室からも越境してくる女子もチラホラ。

 物腰も柔らかく、紳士的に極めてにこやかに対応しておりますが、その様はさながら肉食獣に囲まれた草食獣。ちょいガクブルな眺めでございます。

 でも上手くあしらってるみたいで、男子とも気さくに喋ってるからクラスでの好感度は高め。
 俺はあんま喋ったことないけど。

 なんだろう。なんか近づきにくいっていうか、近づきたくないんだよね、気分的に。怖いんだ、なんとなく。
 それは水本もうっすら感じてるみたい。


「俺、あいつ好かない」

 ある日の昼休み。購買の焼きそばパンを頬張りながら、珍しく水本が眉根に皺を寄せて、ひそひそ俺に囁いた。
 人の好き嫌いを滅多に口にしない水本の発言に俺はお握りを落としそうになった。

「お前でも嫌いな奴いるの?」

 深草くんが女子にモテるからってらしくなくない?ファンは断然お前の方が多いと思うよ。 

「ちげーよ!」

  片手の牛乳パックを握り潰しながら、水本は一層俺に顔を寄せて囁いた。近い、近いよお前。

「あいつ、コマチのことずっと見てるんだぜ!?」

「はぁ?」
 
思わず変な声が出ちまった。しっ......っと唇に指をあてる水本。大丈夫、誰もこっちは見てないな。

「気のせいだろ?俺、なんもやってないぜ?」

「いや......絶対見てる。時々、俺と目が合うとすんげぇ睨まれるし、あいつ、コマチに気があるんじゃないか?」

「はあぁ?」

 コーヒー牛乳吹き出しそうになっちまったじゃないか。俺、男なんだけど。深草くんもそういう趣味はないと思うが?

「とにかく気をつけろよ」

 よく分からないけど、コクコク頷く俺。チラッと盗み見た深草くんは女子の間から俺じゃなくて水本を凍りつくような目で睨んでた。なんだろう?モテ男同士、なんか気に障るのかもな。

「まぁ何があっても、俺が守ってやる。コマチは俺の大事な.......だからな」

 うん、ありがとう。パンを口の中に入れたまんま喋るから、一部モゴモゴして聞こえなかったけど、まぁ夏休みの大冒険の秘密も共有してる、大事な相棒だもんな。頼りにしてるよ。
 
「そう言えば、日曜日、練習試合だろ?N高と」

「うん、応援きてくれるか?」

「もっちろん!」

 バスケ部のエース、S高の光源氏の活躍、楽しみにしてるよっ。

 で、後は午後の授業の間、まったりお昼寝をして、小野崎先生に小突かれました。
 お腹いっぱいになると眠くなるんだもん。先生がイケボ過ぎるのが悪い。


 どうせ、俺理系だから、ほどほどでいいの。牛頭さん達も教えてくれるし。
 牛頭さん、馬頭さんは相変わらずじいちゃん家に滞在中。
 帰りの遅いお袋の代わりに飯作ってくれて、加菜恵の家庭教師もしてくれるから、お袋も喜んでます。小野崎先生ごせんぞさまありがとう。

 ただね、#牛頭__赤__さん#馬頭さん達、なんか最近、過保護スイッチ入ってるみたいで、ひとりで帰るとすんごい心配そうに

『何もありませんでしたか?』

ってしつこく訊くんだよね。ウチの学校には不良とか特にいないし、俺、基本モブだから絡まれない。
 水本は目立つけど、礼儀正しいし、バスケ部の先輩にも可愛がられてるから、ワルは寄ってこない。実は喧嘩めっちゃ強いしね。



 そう言えば、この前、深草くんがヤバめな先輩達に囲まれてたけど、先生呼ぶ間もなく、あっさり教室に戻ってきてたな。

『部活に勧誘されてただけだよ』

って心配してた女子ににっこり答えてた。
 その後、例の先輩達の姿を見かけなくなったから、上手くかわせたんだろうな、うん。
 深草くんも見かけによらず喧嘩強いタイプかもしれない。

 


  
 
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