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二 通小町
世の中に......
しおりを挟む小テストも無事に終わりました。
で、お約束どおりドーナツ奢るため、清原と色部、アンド水本付きの異様な四人組が座る某ドーナツ店の片隅。
端から見たらダブルデートなの?な感じですが、色気も素っ気もありません。念のため。
最近、ホント仲いいわ、こいつら。
『何も考えてない子達じゃ話しててもつまんないしさ』
ねーって、意気投合しすぎだもんな、才女同士。辛辣過ぎて他の女子からドン引かれてるんだけどさ。
「コマチ、砂糖ついてる」
って、水本、ナプキンで拭いてくれなくていいから、自分で拭けるから。色部、メモ取るな。
ひとしきりによによ眺めていた清原がおもむろに口を開く。
「で、コマチ君、変な夢とか見たりしない?」
「しないけど......?」
「変な人影とか見ない?」
ないない。俺、寝つきいいし、熟睡すると朝まで何も覚えてない人なの。それに隣に牛頭さん馬頭さんが住んでるから、妙な奴は近寄ってきません。ありがたい。
「ならいいけど......」
ずずっとメロンソーダを啜る清原の眉がひくりと動いた。
「出た......」
色部も眼鏡の縁に指をかけて、ウィンドウの外に目を向ける。
「出たって、熊か?」
水本、それ洒落になんねぇぞ。この前、警報出てるんだからな。
「深草少将よ......」
は?なんだそりゃ。
つい......っとこっそり指を指す先を見ると、深草がじっとこっちを見てた。
「なんだ、あいつ」
水本が思いっきり眉根に皺を寄せる。
「そう言えば、この前の日曜日も見掛けたわ」
色部が思い出したわ、と言わんばかりに顔を上げた。
「この前の日曜日ってN高との練習試合の日か?」
水本の言葉に、うん、と頷く色部。
「コマチ君、水本君の応援来てたよね」
「お、おぅ」
水本、強豪のN高チーム相手にバンバン、スリーポイント決めて、めっちゃ格好良かったんだよね。応援に来てた女子もキャーキャー黄色い声援あげてさ。すげぇウルサかった。正直。
もっとも半分はN高のキャプテン、在原平のファンらしいんだけどさ。金持ちのお坊ちゃんでアイドル系イケメン。プレイボーイで有名な人でいっつも親衛隊連れて歩ってるって噂。
「あの日さ、原稿印刷するのに、学校に来ててさ......」
色部、お前またこっそり同人誌の印刷してたのね。学校の備品を私用に使っちゃいけませんてば。菅原に見つかったら大目玉くらうぞ。『青少年の健全育成』に命掛けてるんだから、あいつ。
「なんか体育館が賑やかだから、覗いてみたのよ。そしたら、バスケ部の練習試合やっててさ。コマチ君が女子に混じって、一生懸命、水本君を応援してて、微笑ましいなぁって見てたんだけど......」
微笑ましいって、他にも男子いたよ。俺だけじゃないよ。誤解招くような発言、止めてね。
「あれっと思ったら、反対側のドアんとこから、深草くんが、コマチ君のことじっと見てたんだよね」
え?それ勘違いじゃね?試合見に来てたんだろ。
「でさ、水本君のシュート決まってつい、そっちに目を奪われてたら、もういなかった。そっちのドアの方に回ってみたけど、いなかった」
「飽きて帰ったんだろ」
とコーラの氷をガリガリ噛み砕く水本。俺もそう思う。
「でもさ、今日はまだいるわよ」
清原がなにげに顎で指した先、ガラスの端に隠れるように深草くんらしき人影はまだ佇んでいた。
「完全にコマチ君のストーカーだよね」
ふたりして、ウンウンと頷きあう腐才女達。
「気に食わねぇ」
椅子を蹴立てて、水本がドアの方に歩み寄ろうとした時、団体さまが入店してきた。
「よっ!光源氏」
噂の在原サン、噂どおりにN高美人を複数連れてご来店。無視して店の外に駆け出した水本に一瞬へんな顔をしたけど、構わず俺たちとは反対側の席で美女達と談笑。
「見失っちまった」
すぐに水本は戻ってきたけど、今度はN高グループに眉を寄せる。
「平サン、相変わらずだな」
「モテるからね、僕は」
水本と在原さんは県のジュニア選抜チームで一緒だったんだって。こっちもなんか天敵みたい。
「君だってモテてるだろ?S 高の光源氏って有名だぜ」
「俺は一途なもんで」
うわ、火花バチバチ散ってるよ。こえぇ......。
「う~ん、光源氏VS 頭中将、いや薫大将と匂宮かしら」
平然とドリンクを啜る女子ふたり。こら、さりげなく写メ撮るんじゃありません。
「もう出ようぜ。水本、帰ろう」
ドーナツをとっくに平らげ終わった女子ふたりを促し、水本の鞄を片手に腕を引っ張って外に出た。背中越しに在原さんが含み笑いで声をかけてきた。
「あれ、コマチ君も一緒だったんだ。またね~恋女房のコマチ君」
俺は、コ・マ・ハ・ル!
なんだよ、恋女房って。ウチの女子ふたりが、またによによしてるじゃんか。
興を削がれた俺たちは駅のファーストフードで仕切り直しにフライドポテトをしこたま食って帰った。さすがに胸やけて夕飯入らなかったわ、チクショウ。
世の中に 絶えて桜のなかりせば
春の心は のどけからまし(在原業平 伊勢物語)
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