転生・小野小町(♂)の受難~DK 冥官修行録~

葛城 惶

文字の大きさ
45 / 50
二 通小町

百夜通い(四)

しおりを挟む
 それから......

 前世の小野小町が死んだところで、俺は閻魔さまのところに戻った。
 閻魔さまが親指立てて、グッジョブってしてたから、俺の力技は成功したんだろう、きっと。
 
 それから、閻魔さまに現世直通エレベーターで、この世まで送ってもらったんだけど、着いたら何故か、六道珍皇寺の閻魔堂ではなく、太秦の木嶋神社というところの三つ鳥居の側だった。

 首を捻りながら、神社の入り口まで戻ってきたら、何故か清明さんがいて、車で映画村まで送ってもらった。

 スマホの時刻を確認したら、お寺の閻魔堂に入ってから神社に戻るまで、五分くらいしか経って無かった。もの凄い疲れたけど。

 深草くんは......俺たちが閻魔さまのところに行ったあたりの時間に急に倒れて、でも救急車呼ぼうとしたら意識が戻ったんだって。
 念のため検査を受けたけど、どこもなんともない、と言われて、俺たちが映画村に着いた頃には普通にクラスメイトと盛り上がっていた。

 前よりもスッキリした明るい表情で、俺たちに手を振って走り寄ってきて、なぜかーありがとうーって言ってた。

 ー終わったんだなー

 深草少将の魂は深草陸海から離れた。
 冥府にちゃんと辿り着いて、輪廻の輪に戻ったって、閻魔さまが言ってたから、きっともう大丈夫だ。




 太秦見学が終わって京都の街中に戻った。俺のクラスは午後からは自由行動。

 俺たちは土産物とか買いながら、街中を散歩することにした。
 水本は、あれやこれや悩みながら、親父さんに酒とツマミを買って......それから、うちのお袋や加菜恵のぶんも買っていいか?と俺に訊いた。

『伊津子さんや加菜恵ちゃんは、俺の家族みたいなもんだから.....』

って遠慮がちに言う水本。
だから俺は笑って答えた。

『今さら何言ってんだよ、水くさい』

 水本にとって俺の家族が自分の家族に思えるなら、それは嬉しい。水本は俺にとって家族と同じだから。


 買い物が終わったあと、俺たちは、鴨川の川辺に並んで八つ橋アイスを舐めていた。
 俺は水本に、閻魔堂で見た『夢』の話をした。

「結局、小野小町は自分が本当に求めていたものに気づけなくて、やっと気づいた時には自分の手でそれを失ってしまった。彼女の心に残った深い後悔は、何よりその事だったんだ」

ー本気の恋をするのが怖いー

 それが小野小町から俺が引き継いだ課題ーやり残しなのかもしれない。

「ふうん...」

 水本は、不思議そうに頷いて、それからポソリと言った。

「俺も......閻魔堂にいた時、不思議な夢を見た。......なんか昔の人になって......色んな人にモテて付き合うんだけど、そのたんびに『母上と違う』って失望するんだ」

「それって......」

 水本、たぶんそれは前世のお前だよ。

「その夢の中でも、俺はお袋を早く亡くしてさ。......なんか、『同じ間違いをするなよ』って言われたようでさ.....」

 ふうっ......と水本は大きくため息をついた。

「今の俺はそんなこと無いのにな......」

 何じっと俺の顔を見るんだよ。俺は答えは知らないよ。でも、それがわかったら、それでいいんじゃないのか?



「それにしても、あいつらはいいよな......」

 少し離れたところに山部と大江が二人で肩を寄せ合って座っていた。
 手を繋いで、笑い合って......。
 俺も彼女欲しいぜ、チクショウ。

「あ、あれ?」

 何気なく川のあちら側に目をやると、見たことのあるような人物が川縁に立っていた。

「あれ、ひらさんじゃないか?」

 俺の言葉に、水本も、ん?とそちらを見た。

「そうだな。N高も来てたのか」

「声かけたら、聞こえるかな?」

 立ち上がった俺の制服の裾を引っ張って、水本が首を振った。

「なんで?」

 水本が首を傾げる俺に顎で示した先には、在原さんの方に駆けてくる女子高生の姿があった。

「N高の制服じゃないね」

「あれ......たぶん、平さんの本命だよ」

「本命?」

「写真、見たことある。......東京にいた時の幼なじみだって言ってた」

 水本の言葉どおり......なのか、在原さんは彼女が近づくと大胆にもギュッと抱きしめて、たぶんキスしてた。

「マジか......」

 同じ年なのに、人前であんな大胆に......ウラヤマシイ。

「平さんさ......中学校ん時になんかあったらしくて、転校してきたんだ。お祖父さんとお祖母さんと住んでるって聞いてる」

 水本は、目を細めて、対岸でしんみり話し込むふたりを見つめていた。イケメンで遊び人の在原さんの周りにはあんまりいない、真面目そうな清楚な人だ。

「平さん、バスケ頑張って推薦もらって、どうしても東京の大学行くんだって言ってたな......」

 普段の在原さんは仮の姿で、本当は凄く真面目で切ない恋をしている.......のかもしれない。

「遠恋は辛いよな.....いや、恋なんて、みんな辛いもんかもしれないけど」

 水本の投げた石が、ポチャンと小さな音を立てた。川面にできた波紋は瞬く間に消えたけど、なんだか水本の心の中を見た気がした。

ー水本も誰かに恋をしてるんだ......ー

 ふいに胸の奥がチクリと痛んだ。






名にし負はば いざ言問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと

(在原業平 古今和歌集巻九 羇旅歌411 『伊勢物語』第九段 東下り)

 

 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

処理中です...