遺影

葛城 惶

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「お忙しいところすいません。あの.....」

 俺は、よしえさんの葬儀が終わるのを待って、ハツさんの娘さんに駆け寄った。

「あら......。先日はありがとうございました」

 娘さんは相変わらずおっとりと俺に会釈した。俺は型通りの悔やみを述べ、話を切り出した。

「この前の写真をお返ししようと思って.....。それで、ちょっとお話をしたいんですが.....」

「ええ.....」

 俺とハツさんの娘さんは斎場に併設された喫茶ルームへ向かった。
 アイスコーヒーをふたつ頼んで、向かい合って座った。




「まず、これをお返しします、お確かめください」

 俺は封筒に入れた、あの家族写真を娘さんに手渡し、ハツさんの葬儀のさい、遺影の写真の顔をよしえさんのそれと間違えたことを詫びた。

「いいえ。家にある母の遺影は、間違いなく母の顔をしていますよ。それに......」

 娘さんは如何にも不思議そうに言った。

「間違えるはずはありませんわ。......だって、あの写真にはよしえさんは写っていませんもの」

 俺は言葉を失った。

 その耳許で娘さんの柔らかな声がぽつりと言った。



「母は、よしえさんを許してませんでしたから.....」
 
 娘さんは家族写真を愛おしそうに撫でて、言った。

 
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