BL小説に夢なんて無い

ちとせあき

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モブ、お節介を焼く

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週末、休日にわざわざインドアな俺が町にでて、リリーが食べたいと言っていたお菓子を買いにいく。
リリーは俺が紛れ込んだこの小説の主人公だ。彼は結ばれた王子様に外出を渋られているから、俺が代わりにお茶菓子の買い出しにいかなければならない。これがデフォルトだから、申し訳なく思った王子様も気を遣って高級茶とたまのプレゼントをくれる。
このプレゼントというのがカタログの中から好きなものを選べという方式だから、遠慮がちな俺も有り難く贈り物を頂けるスタイル。しかも高級なものばかりなので、町に菓子を買いにいくくらいお茶の子さいさいだ。
なんて、お茶の子さいさいは死語か?と考えていたら目の前に困っていそうな人を見つけた。
どうやら女の子に言い寄られて躱していたらその女の子の彼氏を名乗る男かでてきて金銭を要求するという詐欺にあっているらしい。基本町の人はスルーするので、観光客を狙った質の悪い詐欺だ。
助けようか迷っていると彼はどんどん中心部に追いたてられていく。このままじゃ噴水にどぼんだ。
「お兄さん危ない!」
詐欺にあっている彼を横に押し出し、俺は噴水にダイブする。周りに人が集まってきているので、詐欺グループもどこかに散っていくだろう。お兄さんもお金をだましとられぬうちに助けられて良かった。
…でも、俺はなんで噴水にダイブしているんだ?
それこそ攻略対象ならもっとスマートに助けられたはずなのに、モブの俺はみっともない姿をさらさないと人助けも出来やしない。いやそもそも、これは人助けできたと言えるのか?
なんてナイーブになりながら目をつぶる。良いことをした後は嫌なことを思い出す。
だから今日も俺は目を閉じて、人生を振り返った。

「起き上がれ!風邪引くぞ!」
少年の手が伸ばされるまでは。



「やあ、ありがとうね。タオル買って貰っちゃって。」
少年が買ってくれたタオルで顔や頭を拭く。
俺を中心にあれだけ集まった人はもう散り散りで、ベンチに寄り付く人はいなかった。
「当たり前だ。お前があそこに倒れなかったら、俺が代わりに倒れていたんだからな。」
偉そうな態度に友人のかつての姿を思い出して和む。彼も将来、この思春期ならではの横柄な態度を後悔するのだろうか。
「それでも、タオルまで買って話し相手になってくれたから。」
「貸しを作りたく無いだけだ。」
目も合わそうとしない少年は立ちながら貧乏ゆすりをしている。時間がない中相手をしてくれているのだろうか。見れば少し上等な服を着ているから、仕事関係、もしくはデートでここにいるのかもしれない。流石に長く引き留めるのは悪いので、粗方服の水気も絞るとってベンチを立つ。
「タオルありがとう。私はもう帰るよ。」
歩き出す俺の濡れた服を捕まれ止められた。
「待て。送る。」 
ぶっきらぼうに言う彼はやっぱりそっぽを向いたまま。一応俺に恩を感じているらしかった。
「いいよ。お仕事頑張って。」
「仕事はまだ余裕がある。いいから家を教えろ。」
「知らない人には教えられないので…」
根がいい子なんだろう。引き留められるが、別に濡れることなんて大したことじゃない。学生の頃なんてリリーの親衛隊?かなにかに水をぶっかけられるのがデフォだったし、大切なものが傷つけられずにすんだんだから、濡れるくらい軽傷だ。
「隣国のクルド・バーガンディだ。いいから、馬車でも捕まえよう。」
「いやいや、そんないいよ。馬車が濡れちゃうし。」
名を教えてきた彼は本気で俺を送り届けたいそうで、思わずため息が出る。
「…カーリーだ。フォルロード家に頼むよ。」
そこからの彼の行動は素早く的確で、仕事が出来るんだろうななんて考えていたらもう屋敷についていた。
「ありがとう。送ってくれたお礼に。」
リリーに頼まれたお菓子を少し多めに買っていたので一包みあげる。
「これじゃあ貸しを」
「いいから。おじさんからのプレゼント。気をつけてね。お仕事頑張れ。」
俺はすぐ背を向けて屋敷に向かう。
寒いのでリリーに風呂を貸して貰おう。
「カーリー!」
「ん?」
振り返ると少年はさっき俺があげた袋を掲げていた。
「借りは返す主義だ!忘れるな!」
「はいはい。また詐欺にあうなよ~」
俺は少し手を振って歩き出す。
最後に可愛らしい少年だったので、笑みがこぼれた。
俺の姿を見て慌てるであろうリリーに、彼のことを話してみよう。
久々の人助けは、なんだか妙に心が暖まるものだった。


    
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