BL小説に夢なんて無い

ちとせあき

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モブ、借りを返される

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噴水にダイブした翌日、俺は風邪を引いて寝込んでいた。事情は王子様が伝えてくれたらしいので有り難く休む。こういうとき、権力者が身近にいると楽だ。もちろん、それにかこつけて仕事をさぼったりはしない。王子様もそんな俺の性格を分かって職場に融通をきかしてくれるのだろう。多分。
1日寝込んで仕事復帰し、部署の皆に謝り倒してからデスクにつく。皆はまたかとか気を付けろよなんて心配のひとつもしてくれなかった。いや、してほしくはないが、もう少しだけ寄り添ってほしい。
少し不貞腐れながらの帰り道、俺は何故か週末でもないのにフォルロード家に呼び出された。なんでも、俺宛に手紙が届いているらしい。
なんで俺宛でフォルロードに?と不思議だったが、なんとクルド・バーガンディが送ってきたという。義理深い子だ。きっと家名を教えてないからフォルロードに届けたんだろう。
ついでに夕飯に茶と菓子をご馳走になって帰宅する。舌鼓を打つってやつをこの屋敷で何度も経験しているが、今だ慣れる気がしないな。
お土産に貰ったお菓子を早速食べながら手紙を開封する。
小綺麗な服を着ていたので良いところの坊っちゃんだと思っていたが、手紙も貴族らしい文言から始まる。
貧乏貴族の次男の俺はこの国の貴族の名前すらきちんと覚えられているか怪しいので隣国の貴族なんてさっぱりだ。
きっとクルド・バーガンディはちゃんとした貴族の服を着られるくらいには裕福なんだろう。
手紙の冒頭から真面目に読むと眠くなってしまうので、すぐに本文に目を通す。長ったらしい文が続くが、要約するとこうだ。
先日はありがとう。来週お礼をしたいからあの噴水の前に週末集合。
手紙を持つ手から力が抜け、カーペットに手紙が落ちた。と同時に手紙と同封されていた何かがひらひらと落ちていく。何かと思って拾い上げれば、彼にあげたお菓子屋の系列店のカフェへの招待状だ。
今週はリリーとのお茶会がないから一日中寝れると思っていたのに。
招待状なんて貰ったら断れないのが俺の悪い質だ。今日から家に帰ってきたらすぐ寝よう。元気を補給しておかなければ、仕事に影響がでてしまう。
早々にシャワーを浴び、招待状を机の上に置きベッドにはいる。
甘いものは嫌いじゃないが、また太ってしまうな。
週末の予定が埋まるのは憂鬱だったが、甘味を食べられると思うとワクワクしてなかなか寝付けなかった。


週末に噴水の前に12時集合、とクルド・バーガンディの手紙に書かれていたので10分前に広場につく。性格的にのんびりしている俺的には少し早めの集合な気もしないではないが、何もかもが早めに終いになるこの世界では遅い集合なのかもしれない。
ゆったり歩いていると、噴水の前で女性2人組に絡まれているクルド・バーガンディを見つけた。あいつは女性に絡まれやすいな。やっぱりイケメンだからか?
俺はすみませんすみません、と言いながら両者の間に割り込む。女性陣が文句を言ってきたけど、約束の時間に間に合わなくなるので。とかなんとかはぐらかしてクルド・バーガンディの手を引きそこを離れる。
「また女の子に絡まれるなんて、イケメンも大変だね。」
「ああ…」
クルド・バーガンディは俺と繋がれた手をじっと見ている。子供じゃあるまいし、手を引くことはなかったか。
「ごめんごめん、おじさん手を引っ張っちゃったよ。」
軽く両手を上げておちゃらけてみせる。
「別に!そんなの気にしてなんかない。」
明らかに気にしているような口ぶりで言われてもな。こんなおっさんに手を引かれたのが恥ずかしかったのか、耳が少し赤い。
どうも俺は人助けが苦手だ。
いつも少しずつ間違えた選択肢を選んでいる気がする。今だってきっと彼に恥をかかせないことができたはずなんだ。
皆は助かったと礼をくれるが、きっと主人公達ならもっと上手く立ち回れるだろう。
こういうところから所詮モブ臭がしてならない。
「行くぞ。」
「あ、うん。」
またナイーブな気持ちになっていると今度は彼に手を引かれる。まだ耳は赤いままだ。
きっと恥をかかされたから仕返しに手を繋がれたんだろう。
「君の手は大きいね。」
「うるさい。黙ってついてこい。」
久々に感じる誰かの体温に、俺はさっきの反省を忘れて嬉しさを感じていた。手を引かれて歩くなんて、成人してから初めての経験だ。
でも、彼のスタイルが良いからか歩幅が違いすぎて、俺は軽く走らされている。
端から見たら、連行されている罪人のように映るかもしれない。
人助け後にくるナイーブな時間はまだ続いているが、久々のジョギングにだんだんと思考が奪われていった。


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