当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき

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本編

幸福

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初めて学校を休んだ。
昨日のことがよっぽどショックだったのか、はたまたタイミングが重なったのか風邪を引いた。
あーあ。絶対絋に引かれたな。
まだ諦めてないのかよって、
しつこすぎるって、
男のくせに手作りバレンタインかよって、
手紙多すぎだろって。
全部捨ててきちゃったな。
頑張って作ったんだけどな。
最近は睨んだ顔ばかりしているから、ちょっとでも笑顔がみられたらと思ったんだけど。
そんなことを考えながらベットで横たわる。
諦めるって言ってるのに、絋のことばっか考えちゃう。でも絋怒ってた。気持ち悪いって。
どうすればいいかな。
嫌われたんだろうな。
じわじわ出てくる涙は熱のせいであって欲しい。
もうわからない。

結局1週間も休んでしまった。
学校に行きずらい。
教室で泣いてしまったし、皆と顔を合わせるの恥ずかしいな。教室に入りずらくて扉の前で狼狽えてしまう。弱いな、僕。
深呼吸して教室に入ってすぐ席に座った。
よかったよかった。
「三倉。」
顔があげられなかった。
「今日、放課後。話したい。校舎裏で待ってるから、来れたらきて。」
絋はそれだけ言って、席に帰っていった。


もう教室に夕陽が入ってきている。
僕は一歩も動けなかった。 
折角絋が話をしようって言ってくれたのに。
息がしづらくて肺に十分な酸素が送られてない気がする。足はすくむし、立とうとするとくらくらする。
もう一時間もたってる。絋、帰っちゃったかも。でも絋の荷物、まだ教室にある。
あ、スマホ。
震えながら絋に電話をかける。
「もしもし、三倉?」
出た、絋だ。
「絋、あの、寒い?」
「スッゴい寒い。風邪引きそう。」
「ごめん、行こうと思ってるんだけど、なんか
足動かなくて。ごめん。」
「んーん。そうだよな。俺のこと怖いよな。」
「そうじゃなくて!…嫌われるのが、怖い。」
「お前、まだ俺のこと好きなわけ?」
「うん、ごめん。」
そういえば、今日は24日だ。
「絋が好き。だから、もう忘れたい。」
「自分勝手だな。」
「自分でもそう思う。」
「なんで告白やめたわけ?」
「…クリスマス」
「…うん。」
「絋が誰かと過ごすかもって考えたら限界がきちゃって。」
目にハンカチを当てて涙を押さえる。
「絋が誰かと付き合うって考えたら怖かった。嫌だったから。もう、やめたかった。嫉妬しちゃいけないのに嫉妬するのも、皆に頑張れって応援されるのも、嫌だった。もう傷つきたくなかったから、好きじゃなくなったらいいのにって。」
「でも、まだ好きなの?」
「好き。もうどうしていいのか分からない。」
「三倉。」
スマホを取り上げられた。目の前から声がする。
「チョコ投げてごめん。手紙、破ってごめん。」
「ううん、いいんだ。僕もあげようか迷ってたものだから。」
「それでも、ごめんなさい。俺、子どもみたいに嫉妬した。三倉がもう俺のこと好きじゃなくて、恋人からのチョコもらって大切にしてるって思って。」
絋は僕の背中を撫でて話してくれる。
「手紙読んだ。あんなに一生懸命書いてくれたもの破くなんて、最低だ。」
「勝手に、書いたから、」
「ううん。本当にごめん。あと返事、書いてきた。」
返事?返事って、あのビリビリに破られた手紙の?
机の上に封筒がおかれた。
絋が前の椅子に座ったから、手紙を開けて読んでみる。
「…ほんと?」
「うん。」
「本当に?」
「本当に。」
「なんで…?」
手紙にはバレンタインの謝罪と絋の気持ちが書いてあった。
「三倉が俺のことを好きって言ってくれて自惚れてた。毎月24日には告白してくれるし、そのあとは遊びに行けると思ってた。でも、最後の告白だったって聞いて、早く返事しておけばよかったって、すごい後悔した。」
絋は手紙を読むのではなく、自分の言葉を伝えてくれる。
「イブに三倉が告白してくれて、クリスマスには二人でケーキ食べて、正月は神社とかいってとか考えてた。本当に浮かれてた。俺の気持ち伝えないで、三倉に辛い思いさせてたことに気がつかなかった。三倉の思いが変わらないなんて保証ないこと思いもつかなかった。」
絋は箱を差し出してきた。ハッピークリスマスって書かれている。
「いまさら、本当に遅いのは分かってるけど。…三倉が好きです。あんなことした俺がおかしいと思うかもしれないけど、好きです。もう一度、好きになって欲しい。2度とあんな、傷つけることしないから。好きってちゃんと言葉で伝えるから。」
「う、うわぁ…」
嘘だって叫びたい。だって2年も、振り向いて貰えなかった。
「いや、だって、嘘」
「嘘じゃない。本当。」
「2年も、片想いだから。実らない恋だから。」
「気がないやつにクリスマスにケーキ屋予約しない。」
本当に?
絋の指を握ってみる。
「嫌じゃない?」
「うん。むしろ嬉しい。」
「ハグも?キスも?それ以上もするんだよ?」
「ばっ!お前は!」
顔を赤くしている絋は真剣な目で僕を見つめている。
「好きだから、そういうこともしたい。」
「僕と?」
「三倉と。」
「好きっていってもいい?」
「嬉しいから勿論。」
「好き、好きです。付き合ってください。」
「俺から告白したかったんだけどな。」
絋の顔がいきなり近くなって僕の唇をふさいだ。
「俺でよければ、お願いします。」
2年間心の中に溜まっていた思いが、体に熱が籠ると共に吹き出した気がした。
19回もの告白の結果は見事砕けていたのに、20回目の告白でキスして貰えるなんて夢でも見ているようだ。
「…夢じゃないからな?」
「はい。」
何故か僕の心を読んだ紘の目尻は赤くなっていた。それが分かるくらい近くに紘の顔があることが嬉しくて僕が笑えば、紘も笑っていた。
当たって砕けていたのに、告白20回目で紘は僕の彼氏になった。
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