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エピローグ
しおりを挟む夢を、見ていた。海で祈る夢を。
リュートは身を起こして、そして、流れている涙に気が付いた。
「リュート様?」
弾かれるように顔を上げると、アイリスがそこにいた。可憐な花のように麗しく、舞う蝶のように鮮やかに。華奢な指が垂れ落ちた銀糸を耳にかける。そんな些細な仕草も気品に溢れていて、しばし時を忘れてアイリスに見入った。
背筋を真っ直ぐ伸ばしているアイリスとは違って、リュートはからだを丸め大きな息を吐いた。だらしなくソファーの背に寄りかからなければ、全身から力が抜けてしまいそうだった。
自分の手のひらを見つめる。今の、夢は一体。
海の湿気た空気が、まだ頬を撫ぜているようだった。
けれどここはリュートの自室で、夜にある会食までアイリスと共に過ごしていたはずだ。
どうやらいつの間にかソファーで眠ってしまっていたらしい。最近、働きすぎているのかもしれない。けれど王族が結婚式を挙げるとなると、夜も眠れないほど忙しくなるのは仕方ないだろう。
アイリスの手を取って、引き寄せる。ぽすんと、軽いからだがリュートの隣に座った。指を重ね合わせる。祈る手を作るように。
「なにか夢を見ていましたの?」
吸い込まれるような金色の瞳、輝く銀色の睫毛。リュートは目を細め、いや、と首を振った。そして涙を拭い、微笑む。
「なあ、アイリス、海を見に行こう」
突然の誘いに、きょとん、と黄金の目を丸くさせる。けれどリュートの瞳をそこに映して、まるで花が咲くようにわらった。
「ええ、喜んで」
眩しいアイリスを見つめる。ただ、一心に。そして祈る。その細く柔らかな手を取って、誇り高い笑みを浮かべるきみに捧げる。
愛を。
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