アイムキャット❕~異世界キャット驚く漫遊記~

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第十七章 日ノ本編其の三 関ケ原その後にゃ~

475 引き継ぎ式にゃ~

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 ヤマタノオロチを倒し、浜松復興作業に取り組んで三日……早くも瓦礫の除去は完了した。
 あとは建物の建築作業なのだが、大工がまったく足りない。いちおう木材の加工は始まって、あばら家のような家が避難所に建ち始めたが、これは被災者の一時的な仮設住宅なので、将来的に潰される。
 わし達の作った仮設住宅をあまり作りすぎると、壊す時に時間が掛かるらしいので、必要な建物だ。ちなみに仮設住宅は二十棟建ててやったので、一棟100人として二千人も入る計算になっている。

 瓦礫除去の仕事がなくなると、多国籍救助隊の仕事が無くなってしまう。なので、簡単な木材加工の仕事をウンチョウ達には任せ、わし達猫ファミリーは別の仕事。インフラ整備に着手した。
 といっても、浜松から関ヶ原までの線路を敷くだけ。穴を掘り、マーキングの効果のある魔法を付与して埋める。そこの地面は平らに整備し、揺れの軽減に努める。

 またしてもメイバイ以外の作業になってしまったので、メイバイには大事な仕事を任せる。道行く人が居たら、片言の日本語で道を開けてもらう。わし達の仕事はかなりスピーディーなので、本当に大事な仕事だ。
 コリスが牛鍬うしぐわのような器具を付けてダッシュで走り、わしも似たような器具を押しながら魔法の付与。その後ろからリータとオニヒメが穴を埋めて固める。

 特にコリスが速いから、先を走るメイバイの声が無いと、人を跳ねてしまいそうだ。
 もちろん、リータとオニヒメの作業は時間が掛かるので、一定の距離が開いたら全員参加。メイバイはわし達に近付く人の整理だ。その甲斐あって、次の日の昼過ぎには、関ヶ原までの線路が完成した。

 今日はオクタゴンで一泊。ドロドロの汚れと疲れを落とす予定だ。道中でお風呂に入って綺麗だったけど……


 オクタゴンに入ろうとしたらキツネ侍に止められたが、わしの顔を見て、すぐに中に通される。どうやらちびっこ天皇から、わしが来たら連れて来るように言われていたようだ。
 なので、多くの人が動き回るオクタゴン内を歩き、大食堂で面会する。

「待っておったぞ」

 ちびっこ天皇には、昨日顔を出すと連絡を入れていたので、首を長くして待っていたようだ。その顔を見たわしは、目にくまを作って働いていたようなので気遣う。

「忙しそうだにゃ~。ちゃんと寝てるにゃ?」
「他国の者が、身を粉にして働いてくれているんだ。ボクがサボるわけにはいくまい」

 さすがに、こんな子供が睡眠時間を削って働いているのは気が引けるな。わしも睡眠時間を削って働いているけど、お昼寝が減ったぐらいじゃ。

「もっとドーンと構えて、部下を信頼しろにゃ~」
「それでも……」
「陛下が倒れたら部下だけでなく、民が心配するにゃ。いま、一番必要にゃ事は、民を不安にさせない事にゃ。明日には浜松に行くんにゃから、元気にゃ姿を見せるんにゃよ?」
「……わかった」

 ちびっこ天皇が仕事のセーブを考えてくれたようなので、わしは本題を切り出す。

「まぁ浜松の現状は聞いているだろうから、報告は線路が出来た事だけだにゃ。明日、朝一で出発するから、連れて行く人員と食糧を集めておいてくれにゃ」
「もう準備は済んでおる」
「おお~。早いにゃ~」
「しかし、本当にきゃっととれいんをあんなに安価で譲ってもらっていいのか?」
「気にするにゃ。うちも少しは利益があるからにゃ」
「何から何までかたじけない」

 持って来ていたキャットトレインは、寄付しようかと考えたが、ここまでかなりの人的寄付をしているのでやめた。あまりやり過ぎると、他で同じ事があった場合、頼りにされ過ぎるのもその国の為にならないと思っての判断だ。
 ただし、猫の国で使っていた中古品なので、半額で売ってあげる事にした。玉藻と家康にはきっちり新品の価格も教えたのだが、ちびっこ天皇にまで話が通っていたようだ。

「そう言えば、そっちの線路は大丈夫だったにゃ?」
「ああ。一部破損があったらしいが、工夫の頑張りですぐに復旧した。浜松まではきゃっととれいんがあるし、これで続々と人を送り込めるぞ!」
「にゃはは。日ノ本の底力、全世界に見せ付けてやれにゃ~」
「ああ! 任せておれ!!」

 こうしてちびっこ天皇にはキャットトレインの領収書にサインしてもらい、明日の話を少ししてから、一度別れる。


 まだ寝るには早いので、猫ファミリーで宿場町見学。ほとんどの観客は電車が復旧して帰って行ったらしく、人は減っている。
 崩れている建物もあるが、祭りの来場者の為の宿屋だったので、現地の者への被害は少なく、通常運転に戻りつつあるようだ。
 本来の通常運転は小規模な経済活動ぐらいなので、現在、各地から集まる人の数があるから、いつもより賑わっているらしい。

 宿場町は、とっくに怪我人の処置は終わっており、家が無い者でも宿屋が百軒以上あるので寝泊まりには困らないようだ。
 宿場町の現状を確認しつつ出店でちょっと買い食いしたら、わし達の作った線路にキャットトレインを出しておく。
 ちびっこ天皇から派遣されていた侍にあとの事は任せたが、これだけデカければ、盗もうとする輩はいないだろう。

 これで、本日の仕事は完全に終了。オクタゴンの自室に戻って就寝になる。
 ちなみに、オクタゴンは被災者には使っていいとは言っていたが、初日以降、観客は電車で帰って行ったから、そこまで出番が無かったようだ。
 使っているのも、天皇家の者だけ。大食堂は机が多くあるので、天皇の滞在場所より作業がはかどるらしく、本部を移転したとのこと。
 緊急事態に、土足で作業の出来るオクタゴンはとても使いやすいので、似たような施設を建てようか検討中らしい。


 翌朝は、キャットトレインに揺られて浜松に向かう。先頭車両には、猫ファミリーとちびっこ天皇と公家達。玉藻の娘お玉は、ちびっこ天皇の名代としてオクタゴンに残った。
 二両目以降は、ほとんどが大工。電車の通っている京と江戸から掻き集めたようだ。これでも足りないだろうから、第二弾、第三弾は他の地方からやって来るらしい。

 キャットトレインを運転できる者が、わしとリータとメイバイしか居ないので、まずはわしが侍っぽい人に教えるのだが、ちびっこ天皇まで運転席に入って来てうるさい。

「うわ~! 線路も無いのに走ってる~」

 このガキは……ついて来るなと言ったのに、完璧に子供に戻っておる。どこの世界の子供も、電車の窓に張り付くのは一緒なんじゃな。

「ほれ、もういいにゃろ? 席に戻ってちょっとは寝るにゃ~」
「もうちょっと~」
「運転手の邪魔にゃ~。そんにゃ姿、玉藻に知られたらお仕置きされるんにゃよ?」
「うっ……」

 玉藻の名を出されると弱いちびっこ天皇。素直にわしの言う事を聞き……

「あと五分……」
「行くにゃ~!!」
「にゃ~~~」

 聞かないので、後ろから羽交い締めにして連れ去る。でも、叫び声が「にゃ~~~」なのが気になるわしであった。

 席に戻ると、ちびっこ天皇はコリスのモフモフロック。疲れているだろうから大サービスでコリスベッドを貸してやったが、嫁にはやらんからな? リスはいらないのですか、そうで……こんなにかわいいのに酷いな!!

 喧嘩になり掛けたが、ちびっこ天皇は本当に疲れていたらしく、コリスに抱かれた瞬間、眠ってしまった。コリスがさっちゃん2に変身できると知ったら、絶対欲しがるだろうから、永遠の秘密じゃ。
 とりあえずうるさい奴は眠ったので、運転訓練に戻る。しかし、この数日メイバイの出番が少なかったからか、自分から買って出てくれた。ならば仕方がない。わしもリータベッドでゴロゴロ言いながら眠った。


 キャットトレインはひた走り、昼時にはコリスに起こされて、食べたらまた眠る。そうしてグースカ言っていると車輪がゆっくり止まる。
 関ヶ原を出てから約五時間。初めての運転だったから少し時間は掛かったが、無事、浜松に到着した。

「天皇陛下の、おな~り~」

 わしを先頭にキャットトレインから降りたら、外に居た玉藻がそんな事を言い出したので、わし達はそそくさと出口を開けて横に移動する。

「玉藻、家康……出迎えはけっこうだと言っただろうに」
「だから二人だけで参ったのじゃ」

 どうやら、大人数で出迎えようとしていたので、ちびっこ天皇はいらないと言ったのに、二人が勝手にやっていたようだ。だからわし達も聞かされていなかったので、ズカズカと先陣切って降りてしまっただけで、空気は読めるほうだ。

「後部には、大工をいっぱい乗せて来てやったぞ。ただちに案内を頼む」
「「はっ!」」

 ちびっこ天皇の命令に、二人は手分けして案内を始める。食糧や工具を運ぶ大工達は家康がゾロゾロと案内し、ちびっこ天皇は玉藻が案内する。
 ちびっこ天皇を案内するほうが仕事的に偉そうだと思ったが、前もって決めていたようなので、揉める事もなかった。

 ちびっこ天皇が向かった先は、慰霊碑。真っ先に死者に祈りを捧げていた。その祈りは長く、一時間にも及んだらしく見ていた被災者は神々しく感じたそうだ。

 もちろんわしは見ていない。連れて来るまでが仕事だったので、玉藻に預けたら、さっさと別行動。ウンチョウに猫の国や他国の者を集めてもらって、その前に立っていた。

「過酷にゃ現場に急に駆り出されて、大変だったと思うにゃ。でも、よく、嫌にゃ顔ひとつせずに、被災者を助けてくれたにゃ。わしはそんにゃ君達を誇りに思うにゃ」

 王様であるわしのお褒めの言葉に、普通に立っていた皆の背筋が伸びた。

「今日で、緊急救助活動は終了にゃ。各自、撤収の準備に取り掛かってくれにゃ~」
「「「「「にゃっ!」」」」」

 全員敬礼するのはいいんじゃけど、その「にゃっ!」ってのはやめてくれんかのう……ひょっとして、猫軍全員、そんな敬礼してるんじゃなかろうな?

 わしが誰がやり始めたかを聞いてみたら、ウンチョウは撤収準備で忙しいと言って去って行った。なので、犯人に直接聞いてみたけど、撫でられて黙らされてしまった。絶対、リータとメイバイじゃもん!!


 夕暮れ近くになると、大規模な炊き出しと集会。ちびっこ天皇の有り難いお言葉から始まった。

ちんは、大変心を痛めておる……』

 壇上に備え付けられたマイクの前に立って、静かに語るちびっこ天皇。

『民の皆は、家族を失い、家を失い、朕より遥かに苦しんでいると思う……朕が代われるなら代わってやりたい。しかし出来ない……』

 ちびっこ天皇の苦しい言葉に、被災者からすすり泣く声が聞こえて来る。

『その代わり……その代わりだ! 朕は死者への祈りを欠かさない! 朕がそなた達を支える! そなた達の苦しみを受け止め、そなた達が元の暮らしに戻れるよう、力を尽くすと約束しよう!!』

 ちびっこ天皇が声を大きくして大御心おおみこころを伝えると、被災者は手を合わせて涙を流し続ける。盛り上がりには欠けるが、ちびっこ天皇の言葉は、それほど心に響いたのだろう。


 しばしこの場を悲しみが包み込み、時間だけが流れて行くのであった……


 それから玉藻と家康がちびっこ天皇と入れ替わり、食事を開始するのかと思えたが、何故かわしを呼び出して来た。もちろん無視していたのだが、リータとメイバイが背中を押すので、渋々わしは壇上に上がる。

「またそちは嫌そうに来たな……」
「もうわしの出番じゃないにゃろ~」
「そうはいかん。引き継ぎ式が残っておる。今日で最後なんじゃから、王らしい話のひとつでもして行け」
「え~~~」

 玉藻とコソコソと言い合っていても解放してもらえないので、わしはマイクの前に立って語り出す。

『え~。先ほど紹介にありにゃした猫の国の国王、シラタマにゃ。正直、天皇陛下の有り難いお言葉のあとに喋るのは気が引けるし、たいした話も用意していにゃかったので、手短に話すにゃ~』

 ツカミは大外し……被災者は黙って見つめるので、わしの脇から滝のような汗が流れる。

『ゴホンッ。浜松に着いた時、わしは驚いたにゃ。多くの瓦礫の山に……違うにゃ。大きなヤマタノオロチに……これも違うにゃ。わしが驚いたのは、あにゃた達、被災者のみにゃさんにゃ~』

 わしの驚きの理由に、誰もが首を傾げる。

『凄惨を極める現場……その中で、誰もが救助を行い、誰もが文句を言わず、誰もが助け合っていたにゃ。普通にゃら、奪い、盗み……自分を優先していてもおかしくないにゃ。みにゃさんは耐え忍び、力を合わせられる素晴らしい民族にゃ~』

 わしの褒め言葉に、ちびっこ天皇や玉藻、家康は目頭を押さえる。

『だからこそ多くの人が助かり、復興が早く進んだにゃ。わしのおかげだと言ってくれる人もいたけど、それは違うにゃ。みにゃさんが自分をかえりみず、他者を思い合っているからこそ、ここまで復興が進んだにゃ。だから大丈夫にゃ。みにゃさんの頑張りがあれば、近い将来、元の暮らしが戻って来るとわしは信じているにゃ~』

 これでわしの話は終わり。皆は感動しているように見えたので、恥ずかしいからさっさと撤退。玉藻と家康に握手、ちびっこ天皇とも握手を交わして壇上を下りた。
 しかし、引き継ぎ式が残っていたので、玉藻に首根っこを掴まれて壇上に戻る。

『えっと……天皇陛下から預かっていた家臣をお返ししにゃす……これでいいにゃ?』
「『これでいいにゃ』はいらん!!」

 玉藻の他心通でカンニングしていたわしであったが口に出てしまい、玉藻にツッコまれる。それで笑いが起こったので、夫婦漫才は上手くいったようだ。

『えっと……天皇陛下から預かっていた家臣をお返ししにゃす……』

 もちろんやり直しさせられて、引き継ぎ式は笑い声の中、つつがなく終わるのであった。
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