攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
120 / 187
13 死の山の調査

119

しおりを挟む

 勇者サシャの究極魔法の余波を受け、姫騎士軍に大量の魔獣が押し寄せる中、姫騎士は大声を張り上げる。

「直ちに防御陣形! 戦闘態勢がとれていない者は準備を急がせろ! 魔王殿も勇者殿を起こしてくれ!!」

 姫騎士は焦りながらも的確な指示を出し、魔王も死の危険が迫っているので、勇者から渋々離れ、水魔法をぶっかけて起こす。
 勇者は何が起こっているのかわからないが、魔王から魔獣が迫っていると聞き、「焦るサシャもかわいいな~」とか言って気持ち悪い顔で見る。
 魔王も照れている場合ではないので事情を説明し、勇者に前線に立つようにお願いする。魔王のお願いに、勇者はふたつ返事で駆け出すが、姫騎士に止められた。
 最強の盾と矛で戦った方が効率がいいんだとか。

 そうして勇者は、お姫様抱っこで姫騎士を運ぶのであった。


 現在、姫騎士軍は森の中に作った道を進軍しているので、隊列は長く延びている。先頭に居た姫騎士と勇者は、どちらでも対応できるように、ひとまず中央に移動した。
 そこで各種報告を聞いて、軍隊では手に負えない、または手こずりそうな魔獣が出た場合、姫騎士と勇者の出番となる。

 そうして待機していると、姫騎士軍の数ヵ所で戦闘が始まったようだ。

「姫殿下。いまのところ、小さい魔獣との戦闘が起きていますが、対応できているようです」
「うむ。感知魔法ではどうだ?」
「まだ大型の反応は無いようです」
「引き続き、魔法使いには注意を促すように伝えてくれ」
「はっ! ……?」

 伝令兵から情報を得た姫騎士は、安堵の表情を浮かべる。それとは違い、伝令兵は困惑の表情を浮かべて下がって行く。
 困惑の表情を浮かべている者は、もう一人いる。勇者だ。

「なあ?」
「どうした?」
「いつまでこの体勢でいるんだ?」
「えっと……このままのほうが、移動に適しているだろ!」

 どうやら姫騎士は、お姫様抱っこのまま、真面目な顔で指示を出していたようだ。そりゃ、ポンコツ勇者でも、疑問に思うわけだ。
 姫騎士は姫騎士で、先ほど魔王が勇者に抱きついていたのに触発されて、降りたくないようだ。でも、そんな言い訳では、勇者も納得しないだろう。

「いや、おんぶのほうが良くないか?」

 ほら、勇者も気付いた。お姫様抱っこは微妙に走りにくいのだからな。

「そ、それは……」
「姫殿下~! 来ました! 大型魔獣です!!」
「なに!? どちらの方向だ!」
「後方です! 数は一匹です!」
「わかった。すぐに向かう! と言う訳で、勇者殿?」
「あ、ああ」

 姫騎士に天の助け。兵士から救援の報せが届いた。勇者もいちいち降ろすよりも早いかと、そのままお姫様抱っこで走り出す。
 そうして大型魔獣の到達位置に着くと、ようやく姫騎士は勇者から降りる。若干、残念そうな顔で……

 それからしばらく経ち、木を掻き分けて、人を簡単に丸呑みできるほどの巨大な蛇が姿を現した。

「キングコブラか……」
「とりあえず、俺が行って来るよ。あとは任せた」
「おう!」

 勇者は「シャーシャー」と舌を出しているキングコブラに無防備に近付き、姫騎士は、騎士や兵士に指示を出す。
 そうして勇者がキングコブラの攻撃範囲にまで近付くと、キングコブラは勇者に噛み付こうとする。
 姫騎士はその様子を見て、兵士達に遠距離攻撃の合図をしようと手を上げる。

 だが、勇者は牙をひょいっと避けてしまった。姫騎士は焦って合図を止めて、勇者の動向を見守る。
 そして次の瞬間、勇者はキングコブラに巻き付かれてしまった。

「よし! 放て~~~!!」
「「「「「ええぇぇ!?」」」」」

 姫騎士が命令を下すが、兵士達はポカンとする。勇者のでたらめな頑丈さを知らない者では仕方の無い反応だ。

「いいから放て! 撃って撃って、撃ちまくれ~!!」
「「「「「は、はい!!」」」」」

 姫騎士の、二度目の命令で兵士達は我に返り、魔法や弓矢を放つ。すると、全てキングコブラに着弾。キングコブラは苦しそうな声を出し、標的を兵士に移す。
 凄い速度で動くキングコブラは兵士の前まで行くと、大口を開ける。

「お前の相手は俺だろ? よいしょ~!」

 当然、勇者はあの程度の巻き付きではびくともせず、胴体を引っ張られたキングコブラはすんでの所で止まる事となった。

「いまだ! 私に続け~!!」
「「「「「おおおお~!」」」」」

 キングコブラが勇者に引っ張られて体が伸びた瞬間を狙い、姫騎士たち近接戦闘部隊が、次々とキングコブラに剣を突き刺す。
 トドメは姫騎士。頭に飛び乗り、奥義を放ってキングコブラの命を刈り取った。

「ふぅ~」

 姫騎士が一息ついていると、兵士達から歓喜の声があがる。
 本来ならば、怪我人大多数、死者も覚悟させる程の魔獣を、誰ひとり怪我人を出さずに倒したのだから、姫騎士の手腕を褒め立てずにはいられないのだろう。
 しかし、浮かれている場合ではない。伝令兵から新たな大型魔獣の接近を聞いた姫騎士は、戦闘区域に急ぐのであった。

 勇者のお姫様抱っこで……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...