攻撃の出来ない勇者は誰が為に拳を振るう・・・

ma-no

文字の大きさ
179 / 187
24 破壊伸再び

179

しおりを挟む

「【身体強化】! テレッチ!!」
「うん! せえの!!」
「「……【癒しの風】」」

 端末を倒したサシャは、勇者を視界に入れるとすかさず強化魔法。続いてテレージアと共に勇者の体を治す。
 すると勇者は、一瞬サシャ達に視線を送り、空気を蹴ってキタシと殴り合う。数千、数万のぶつかり合いに、辺りは轟音が響き、数秒後、大きな衝撃と共に、二人は同時に吹き飛ばされて距離が開いた。

「くう~~~」

 勇者の両手はボロボロ。骨が折れ、突き破り、真っ赤になって、痛みに顔を歪める。そこに優しい光が包み込み、完全回復となった。

「兄貴、大丈夫だしぃ?」

 サシャとテレージアのおかげだ。キタシと距離ができたので、勇者の近くに降り立ったようだ。

「サシャが俺の心配を……」
「あ、そういうのいらないしぃ。まだ戦えるかどうか聞いてるしぃ」

 バッサリ切られた勇者は、やや肩を落として答える。

「二人のおかげでなんとか……ただ、かなり疲れるな」
「スタミナか……これ食えしぃ」
「こ、これは!?」

 サシャが取り出した物は、ただのおにぎり。箱に入った武骨な形で不揃いなおにぎりだ。

「ウチの手作りだしぃ……お兄ちゃんのために、愛情込めて作ったんだしぃ……」

 このおにぎりは、テレージアの策略。妹中毒の勇者ならば、これでドーピングできるのでないかと、適当に握らせたおにぎりだ。

「お……俺のために……サシャが……」
「初めてだから、美味しいかどうかわかんないしぃ」
「た、食べていいのか?」
「う、うん……」
「いただきます!!」

 泣いたり喜んだり忙しく変化する勇者の顔を見たサシャは、少し後退あとずさりながら、おにぎりの入った箱を手渡す。すると勇者はがっついて食べる。
 味はと言うと、実際のところ微妙。まったく塩味のしないおにぎりもあれば、塩辛いおにぎりもある。
 初めて作ったから上々といったところだが、ただ丸めただけのお米だから、料理と言うのもいささかか微妙だ。まぁ魔王が同じ物を作ったら毒玉になるので、大成功と言えよう。
 しかし勇者はおかまいなし。「うまいうまい」と言い、涙を流しながらあっと言う間に完食してしまった。

「ふお~~~! ふおおぉぉ! ふうおおおあああうう!!」

 勇者、テンション限界突破。

「まただよ……」
「まぁ体力戻ったみたいだし、いいんじゃね?」

 呆れるテレージアとサシャは、テンションさげさげだったが……

「ほい。お茶も飲むしぃ」
「ふ~……」
「時間がないんだから、そゆのはあとにしろしぃ」
「あ、ああ。ありがとうな。ありがとうな。うぅぅ」

 妹に、こんなに優しくされたことのない勇者は、お茶をがぶ飲みして気合いを入れ直す。

「よし! 準備万端だ!!」
「ちょい待つしぃ」

 勇者がキタシが居るであろう方向に向き直した瞬間、サシャは勇者の肩を掴む。すると勇者は、にへらとだらしない顔で振り向いた。

「この剣も持って行けしぃ」
「剣?? 俺は剣なんて使えないぞ」
「ずっとウチの後ろで戦うところを見てたっしょ? 見よう見まねでいいからやってみろしぃ」
「でも……」

 勇者の剣を受け取った勇者が不安な顔をすると、サシャは両手を握って最高の笑顔を見せる。

「大丈夫だしぃ。大好きなお兄ちゃんなら、必ずできるしぃ!」
「も……」
「「も??」」

 勇者の言葉が止まったので、サシャとテレージアは首を傾げる。

「もえ~~~! もえもえもえもえ~~~!!」

 そうして、勇者は謎の奇声をあげながら、キタシに突撃して行ったのであった。

「え? なに? 『もえ』って、なんて意味??」
「ウチに聞かれてもわっかんないしぃ……」

 もちろんテレージアとサシャは呆れているのであった。


「もえ~~~! もえもえもえもえ~~~!!」

 奇声を発する勇者を視界に収めたキタシは声を掛ける。

「もえ? なんですかそれ?」

 どうやらキタシも意味がわからず困惑しているようだ。そこに勇者は、サシャから渡された剣を大振り。まだ距離もあり、キタシも勇者も、試し振りしただけだと思った。

「はい?」「もえ?」

 しかし、二人同時に惚けた声をあげた。それは何故か……

 キタシは視界がズレ落ちて行く事に気付いて疑問の声。勇者は、キタシの体が胸辺りから斜めに真っ二つに斬られ、滑り落ちて行くのが見えたので疑問の声をあげたのだ。

「うっわ……なに、あの剣……」
「ウチも欲しいしぃ! なんでウチに使えないんだしぃ!!」

 テレージアとサシャも、飛ぶ斬撃を目の当たりにして驚いている。

 これこそが勇者の剣の実力。
 パリングラ山を斬り裂いた力。
 正当な勇者が持つ事で力を発揮する剣。
 その昔、異世界の勇者が神から与えられた最強の神剣。

 これこそが、勇者の剣の真骨頂だ。

「軽く振っただけなのに……俺に力を貸してくれているのか?」

 勇者が驚きながら呟くと、勇者の剣は「ブンッ」と揺れて応えてくれる。

「ふふ。戦い方も教えてくれているのか」

 それどころか勇者の脳内に、歴戦の勇者の記憶が流れ込み、体もそれに応えられるように最適化された。

「大丈夫だ。俺には妹の技がある」

 しかし勇者はそれを拒否。その答えに勇者の剣は「ブンッ」と震えるが、勇者には力強い肯定の声に聞こえた。

「さあ! 行くぞ! もえ~~~!!」

 やや変な気合いの入れ方だが、勇者は地を蹴り、空気を蹴り、キタシに向かう。

「アレは……勇者の剣ですか。興味深い。二人の勇者を殺したあとの暇潰しにするとしましょう」

 キタシはすでに完全回復。ズレた体も元に戻っている。勇者の剣の性能に少し驚いたが、この程度では驚異にも感じないようだ。

 キタシは大きな拳を振りかぶり、凄まじい速度で迫る勇者に向けて放つ。

「もえ~~~! 【つるぎの舞い】!!」

 おそらく「喰らえ」と叫びながら空で踊る勇者。地面でステップを踏むように、蝶が優雅に舞うように、勇者は空気を蹴りながら踊り続ける。
 その剣の軌跡は、サシャの【剣の舞い】とまったく同じ。いや、【剣の舞い舞い】の速度を超え、広範囲の空間が大きな黒い球体に閉じ込められた。

「くっそ~……あんなに上手くパクリやがって~……」

 サシャは悔しそうな言葉を呟くが、テレージアには、言葉と意味が違って聞こえるようだ。

「喜んでない? 顔も笑ってるし……」
「ん……んなわきゃないしぃ!」

 サシャは焦りながら顔をムニムニして整えると、大声を出す。

「お兄ちゃ~ん! そんなヤツ、早くやっちゃえしぃ!!」

 サシャの嬉しそうな声援に、勇者の【剣の舞い】は加速する。


 こうして勇者とキタシの戦いは、最終局面に向かうのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

処理中です...