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連載
ウェブ版鍛冶見習い98・『霧の森』のくらやみハニー
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前回のあらすじ・ダンジョンの中に入ったら、なぜかテントが乱立していた。
「ちょっとお前さんがた、ご新規さんか?
ここらはわてらが仕切っとるんや、おあし次第じゃ、仲間に入れてやらんでもないで」
ダンジョンに入ってすぐ、中年の商人風の男が声かけてきた。
小柄なネズミの獣人。
って商人?
ここダンジョンだよね?
前に来たときには、たまに冒険者がいるくらいだったんだけど。
「仲間って?」
「ここは今はにぎわっとるが、れっきとしたダンジョンや。
こうやってみんなで集まって、魔獣を警戒しとるわけやな。
わいはここに買取専門の店ぇ出しとる、ベッジいうもんや。
ここのダンジョンにゃギルドの出張所もないさかいに」
なるほど、ダンジョンの魔獣のドロップ品を買い取ってるのか。
「前に来たときには、こんなに冒険者とかいなかったと思うんだけどねぇ」
テリテおばさんが首をかしげる。
やっぱり、テリテおばさんは以前に来たことがあるようだ。
「なんだい、お前さんがたぁ常連か?
今、王都でここのハチミツを使った高級スイーツの店が大繁盛でな、ベテラン冒険者をつのって大規模な依頼が組まれた、っちゅーわけや。
ゆうても、冒険者一人が持てるハチミツの量なんてたかが知れとるやろ?
だから、わいみたいなもんも一緒になって、このダンジョンの入り口で品ぁ買い取って、護衛をつけたズー馬車で王都とここを往復させとるわけやな。
こんなけ冒険者に囲まれとったら、戦闘力のないわいでも、ようよう魔獣になんぞ襲われやせぇへんし」
「ハチミツを使った高級スイーツって……
まさか、『くらやみハニー』!?
『くらやみハニー』の産地って、まさかここなのっ?」
背後からにゅっと顔を出したユーリが、目を丸くする。
「こりゃあ、ものごっついべっぴんさんやな。
『くらやみハニー』知っとんのか。
えらい高い菓子やけど、ものごっつぅうもぉてなぁ、頬っぺたが落っこちるで」
「おいしいよねぇ」
ユーリがうっとりとした顔をしている。
どうやらユーリは甘党なようだ。
「て、その話を知らんゆーことは、王都のギルドで依頼を受けた、追加の冒険者やない、ゆうこっちゃな。
まあ、どこの依頼を受けた冒険者やったとしても、ここでドロップしたアイテムは喜んで買い取らせてもらうで。
あんたらがどの程度の腕かは知らんけど。
そもそも冒険者らしゅうないメンツやし……」
ベッジはオイラたちを無遠慮に値踏みするように眺めまわし……マリル兄ちゃんを見て目を見張った。
「ちょっ、あんた、それまさか……
グレートボアの毛皮ちゃうん?
滅多に市場に出回らない幻の。
売って、売ってんか!
値段は、そや、これくらいまでなら勉強できまっせ」
懐から取り出した小ぶりなそろばんをはじいて見せるベッジさんに、マリル兄ちゃんは困惑顔だ。
「いや、ちょっと、おじさん。
この毛皮を売っちまうわけにはいかないんだよ。
そうだなぁ、少なくても明日の朝までは」
「明日の朝?
どういうこっちゃ?」
顔をハテナマークにするベッジさんに、テリテおばさんが代わりに説明する。
「その毛皮は、グレートボアの肉を包んであるんだよ。
『ラッピング』は使ってるけど、グレートボアの肉を保存するにゃあ、グレートボアの毛皮で包んどくのが一番だからね。
その中の肉を食べ終わるまで、毛皮を外すわけにゃいかないのさ」
「グレートボアの肉の保存に、グレートボアの毛皮!?
そんな話ぁ聞いたこともないでっせ?」
目を真ん丸にするベッジに、テリテおばさんは不思議そうに首をひねる。
「そうかい?
アタシらのとこじゃあ、常識なんだけどねぇ。
ほら、ジャガイモだってリンゴだって、皮のあるうちは劣化しないけど、皮を剥いちまうと一気に黒ずんじまうだろ?」
「確……かに?」
「テリテおばさん、それ、おばあちゃんの知恵袋系だから。
主婦の常識ではあっも、万人の常識じゃないから」
「そうかい?」
「いや、そもそも普通の主婦は、グレートボアの肉とか扱わねぇから。
テリテさんち以外では、幻の高級肉だから」
思わずといった感じでブルさんがつっこむ。
「じゃ、じゃあ、明日、明日になったら売ってもらう方向で!」
あきらめずに食い下がるベッジさんが、途中でハッとした顔になる。
「ちょう待ってんか。
ちゅうことは何か、グレートボアの肉まで持っとる、ゆうことか?」
「あるけど?」
「しかも、それを自分らで食いよる予定や、と?」
「そうだよ」
「……なんちゅうもったいない!
わいに、わいに売ってんか!
王都まで運べば一儲け……あかん、ダメや、ズー馬車は昨日出発したばっかりや。
日持ちのするハチミツならともかく、生肉じゃあかんわ……
王都に着くまでに腐ってまう」
一人で興奮しては一人で落ち込むベッジさんに、マリル兄ちゃんは呆れた顔を向けている。
「わざわざこんなとこで買わなくても、うちに来ればいつでもグレートボアでもエルダーボアでもあるからよ。
春んなったら来てみなよ」
「グレートボアに、エルダーボア!?
いつでも!?」
ベッジさんが驚愕に凍り付く。
「王都の北東の外れで、テリテんち、って聞けば大抵わかるよ。
ただ、うちの本業は農家だから、商売になるほど売れるかは分かんないけど」
「農家?」
脳ミソの処理範囲を越えたのか、フリーズしたベッジさんをその場に残して、オイラたちはダンジョンの奥に進み、冒険者たちのテントが見えなくなってしばらくした辺りにキャンプを張ることにした。
ここのダンジョンは広い。
特に四階までの草原・森林エリアはだだっ広い。
その中でも比較的水場が近く、乾いた場所を選んで、テリテおばさんがテントを張り始めた。
その隙に、こっそりとマリル兄ちゃんが消えていく。
きっと、マーキングしに行くんだろうけど、さずかにその場を見られるのは恥ずかしいんだろう。
「じゃあ、テリテおばさん。
ここはまかせちゃっていい?
ちょっとオイラ、今日の内に何回かクイーンビーのとこに行ってきたいから」
「ああ、いいよ。
夕飯はマリルが作るだろうしね」
テリテおばさんは気軽に頷いてくれたけれど、ご隠居が聞きとがめた。
「一人でエリアボスのとこに行くと言うのかい、ノアちゃん?
そんな危ない……とは、ノアちゃんの場合、言えんかの。
それより、何回か?
というのは、どういうことなんじゃ?」
「ここのエリアボス、暗闇のクイーンビーは、ローヤルゼリーをドロップするんだよ。
つくしが来たときに、お土産に持たせた、アレね。
ハチの獣人は蓄えを失ってるみたいだから、ローヤルゼリーとハチミツは、交渉に使えるかな、と思って」
「それは分かるんじゃが、エリアボスには一度しか挑めんもんじゃろ?
わしもマーシャルも、過去に一度倒しておるから、エリアボスの部屋は素通りできる。
ノアちゃんも、ローヤルゼリーを持っておったということは、もう既にクイーンビーを倒しておるんじゃろ?」
「あー、そっか。
ご隠居には説明してなかったか」
オイラは改めて、ダンジョンの魔獣は、倒さなくても何百回も攻撃するとアイテムをドロップすること、倒さない限りエリアボスにも何回も挑戦出来ること、を説明した。
どうやらテリテおばさんにも説明してなかったようで、感心しながら聞いていた。
「へえ、そうなのかい。
アタシはもうたいていのエリアボスを倒しちまってるからねぇ。
そう考えると、もったいないことをしたね」
「いや、母ちゃんの場合、どんな魔獣でも一撃だろ。
殺さないように何百回も攻撃を当て続けるなんて、どんなスピードとスタミナだよ」
説明している内に戻ってきたマリル兄ちゃんが、呆れたように首を振る。
マーキングだけでなく、食べられる野草も採取してきたようで、腕の中にはどっさりと緑色の葉っぱが抱えられている。
ダンジョンの外は、もう秋も終わりで、木の実やキノコがせいぜいだけれど、ダンジョンの中は四季ごちゃまぜの色々な草花が咲き茂っている。
気温も安定しているし、水場も食料もあるし、肉をドロップする魔獣もいるし……ダンジョンというのは、魔獣に勝てる強ささえあれば、意外と暮らしやすい。
なんてご都合主義な、と思わなくもなかったけれど、ノッカーが人間を招くために作っているんだから、ある程度の居心地の良さは必然なのかも知れない。
そういえば、テリテおばさんが出稼ぎに出る理由。
さっきのベッジさんとの会話でふと思ったんだけど、本来なら、テリテおばさんは出稼ぎに出る必要はない。
なぜなら、裏の荒野でエルダーボアや他の魔獣を狩って、肉や素材を売るだけで、結構な稼ぎになるからだ。
まして、ほとんど自給自足なテリテおばさんち。
物凄くお金が必要だとも思えない。
ひょっとして、冬の出稼ぎって、テリテおばさんの避寒を兼ねてるんじゃないだろうか?
ダンジョンの中なら暖かいし、テリテおばさんくらい強かったら、魔獣におびえる必要もなく、無理をしなくてもそこそこの稼ぎになる。
テリテおばさんにとって、一石二鳥、三鳥くらいの。
マークスおじさんと離れなきゃならないのが、唯一のデメリットかな?
「なんと、エリアボスとはそんな仕組みじゃったのか」
「まあ、そんな真似が出来るのは、ノア君くらいでしょうが」
「えー?
僕もやってみようと思ったのに」
「ゼッタイやめてくだせぇ、ユーリ様。
死にます。
ゼッタイ死にます」
ブルさんが涙目で必死にユーリを止めている。
「まあ、ユーリたちはここで魔獣でも狩っててよ」
そう言ってオイラは身をひるがえして走り出した。
何やら叫んでいるユーリの声が、瞬く間に後ろへと消えていく。
ユーリには言ってなかったけれど、黒モフはテリテおばさんにユーリたちもパーティとして認識していたようだ。
Sランク魔獣を立て続けに倒したわけだから、相当レベルがあがっていていいはずたけれど、黒モフの経験値アップには落とし穴?がある。
つまり、戦った人間が戦った魔獣よりレベルが上だった場合、同じパーティ内にレベルの低い人間がいても、ほとんど経験値が入らない、ということだ。
エスティとオイラとの戦いの場合、エスティのほうがかなりレベルが上だったから、婆ちゃんたちもレベルアップ出来たわけだけれど、テリテおばさんとニーズホッグの戦いとかじゃ、ユーリたちに経験値は入ってないだろう。
『暗闇のダンジョン』にいる魔獣だと、オイラとかテリテおばさんが戦って、経験値を得られることはないだろうし。
まあ、自力でレベルアップしてもらうしかないわけで。
いくら補助魔法、魔道具の方面が得意だからって、まったく戦えなくていいってことはないだろうし。
マリル兄ちゃんの夕飯を楽しみにしつつ、オイラはダンジョンの下層へ向けて走り出した。
後書き
牛雑学・女性に話題のプラセンタ。馬や豚の胎盤だけれど、牛のはなぜかあまり活用されていない。(最近少し使われ始めたらしい)自然の牛はお産の後、外敵に狙われないよう&栄養補給に食べるらしいけど、うちの牛は食べたためしがない。てなわけで堆肥に。自分で食べる勇気もないし。もったいないなー、と思うので、奥さん、おひとついかがでしょう?
「ちょっとお前さんがた、ご新規さんか?
ここらはわてらが仕切っとるんや、おあし次第じゃ、仲間に入れてやらんでもないで」
ダンジョンに入ってすぐ、中年の商人風の男が声かけてきた。
小柄なネズミの獣人。
って商人?
ここダンジョンだよね?
前に来たときには、たまに冒険者がいるくらいだったんだけど。
「仲間って?」
「ここは今はにぎわっとるが、れっきとしたダンジョンや。
こうやってみんなで集まって、魔獣を警戒しとるわけやな。
わいはここに買取専門の店ぇ出しとる、ベッジいうもんや。
ここのダンジョンにゃギルドの出張所もないさかいに」
なるほど、ダンジョンの魔獣のドロップ品を買い取ってるのか。
「前に来たときには、こんなに冒険者とかいなかったと思うんだけどねぇ」
テリテおばさんが首をかしげる。
やっぱり、テリテおばさんは以前に来たことがあるようだ。
「なんだい、お前さんがたぁ常連か?
今、王都でここのハチミツを使った高級スイーツの店が大繁盛でな、ベテラン冒険者をつのって大規模な依頼が組まれた、っちゅーわけや。
ゆうても、冒険者一人が持てるハチミツの量なんてたかが知れとるやろ?
だから、わいみたいなもんも一緒になって、このダンジョンの入り口で品ぁ買い取って、護衛をつけたズー馬車で王都とここを往復させとるわけやな。
こんなけ冒険者に囲まれとったら、戦闘力のないわいでも、ようよう魔獣になんぞ襲われやせぇへんし」
「ハチミツを使った高級スイーツって……
まさか、『くらやみハニー』!?
『くらやみハニー』の産地って、まさかここなのっ?」
背後からにゅっと顔を出したユーリが、目を丸くする。
「こりゃあ、ものごっついべっぴんさんやな。
『くらやみハニー』知っとんのか。
えらい高い菓子やけど、ものごっつぅうもぉてなぁ、頬っぺたが落っこちるで」
「おいしいよねぇ」
ユーリがうっとりとした顔をしている。
どうやらユーリは甘党なようだ。
「て、その話を知らんゆーことは、王都のギルドで依頼を受けた、追加の冒険者やない、ゆうこっちゃな。
まあ、どこの依頼を受けた冒険者やったとしても、ここでドロップしたアイテムは喜んで買い取らせてもらうで。
あんたらがどの程度の腕かは知らんけど。
そもそも冒険者らしゅうないメンツやし……」
ベッジはオイラたちを無遠慮に値踏みするように眺めまわし……マリル兄ちゃんを見て目を見張った。
「ちょっ、あんた、それまさか……
グレートボアの毛皮ちゃうん?
滅多に市場に出回らない幻の。
売って、売ってんか!
値段は、そや、これくらいまでなら勉強できまっせ」
懐から取り出した小ぶりなそろばんをはじいて見せるベッジさんに、マリル兄ちゃんは困惑顔だ。
「いや、ちょっと、おじさん。
この毛皮を売っちまうわけにはいかないんだよ。
そうだなぁ、少なくても明日の朝までは」
「明日の朝?
どういうこっちゃ?」
顔をハテナマークにするベッジさんに、テリテおばさんが代わりに説明する。
「その毛皮は、グレートボアの肉を包んであるんだよ。
『ラッピング』は使ってるけど、グレートボアの肉を保存するにゃあ、グレートボアの毛皮で包んどくのが一番だからね。
その中の肉を食べ終わるまで、毛皮を外すわけにゃいかないのさ」
「グレートボアの肉の保存に、グレートボアの毛皮!?
そんな話ぁ聞いたこともないでっせ?」
目を真ん丸にするベッジに、テリテおばさんは不思議そうに首をひねる。
「そうかい?
アタシらのとこじゃあ、常識なんだけどねぇ。
ほら、ジャガイモだってリンゴだって、皮のあるうちは劣化しないけど、皮を剥いちまうと一気に黒ずんじまうだろ?」
「確……かに?」
「テリテおばさん、それ、おばあちゃんの知恵袋系だから。
主婦の常識ではあっも、万人の常識じゃないから」
「そうかい?」
「いや、そもそも普通の主婦は、グレートボアの肉とか扱わねぇから。
テリテさんち以外では、幻の高級肉だから」
思わずといった感じでブルさんがつっこむ。
「じゃ、じゃあ、明日、明日になったら売ってもらう方向で!」
あきらめずに食い下がるベッジさんが、途中でハッとした顔になる。
「ちょう待ってんか。
ちゅうことは何か、グレートボアの肉まで持っとる、ゆうことか?」
「あるけど?」
「しかも、それを自分らで食いよる予定や、と?」
「そうだよ」
「……なんちゅうもったいない!
わいに、わいに売ってんか!
王都まで運べば一儲け……あかん、ダメや、ズー馬車は昨日出発したばっかりや。
日持ちのするハチミツならともかく、生肉じゃあかんわ……
王都に着くまでに腐ってまう」
一人で興奮しては一人で落ち込むベッジさんに、マリル兄ちゃんは呆れた顔を向けている。
「わざわざこんなとこで買わなくても、うちに来ればいつでもグレートボアでもエルダーボアでもあるからよ。
春んなったら来てみなよ」
「グレートボアに、エルダーボア!?
いつでも!?」
ベッジさんが驚愕に凍り付く。
「王都の北東の外れで、テリテんち、って聞けば大抵わかるよ。
ただ、うちの本業は農家だから、商売になるほど売れるかは分かんないけど」
「農家?」
脳ミソの処理範囲を越えたのか、フリーズしたベッジさんをその場に残して、オイラたちはダンジョンの奥に進み、冒険者たちのテントが見えなくなってしばらくした辺りにキャンプを張ることにした。
ここのダンジョンは広い。
特に四階までの草原・森林エリアはだだっ広い。
その中でも比較的水場が近く、乾いた場所を選んで、テリテおばさんがテントを張り始めた。
その隙に、こっそりとマリル兄ちゃんが消えていく。
きっと、マーキングしに行くんだろうけど、さずかにその場を見られるのは恥ずかしいんだろう。
「じゃあ、テリテおばさん。
ここはまかせちゃっていい?
ちょっとオイラ、今日の内に何回かクイーンビーのとこに行ってきたいから」
「ああ、いいよ。
夕飯はマリルが作るだろうしね」
テリテおばさんは気軽に頷いてくれたけれど、ご隠居が聞きとがめた。
「一人でエリアボスのとこに行くと言うのかい、ノアちゃん?
そんな危ない……とは、ノアちゃんの場合、言えんかの。
それより、何回か?
というのは、どういうことなんじゃ?」
「ここのエリアボス、暗闇のクイーンビーは、ローヤルゼリーをドロップするんだよ。
つくしが来たときに、お土産に持たせた、アレね。
ハチの獣人は蓄えを失ってるみたいだから、ローヤルゼリーとハチミツは、交渉に使えるかな、と思って」
「それは分かるんじゃが、エリアボスには一度しか挑めんもんじゃろ?
わしもマーシャルも、過去に一度倒しておるから、エリアボスの部屋は素通りできる。
ノアちゃんも、ローヤルゼリーを持っておったということは、もう既にクイーンビーを倒しておるんじゃろ?」
「あー、そっか。
ご隠居には説明してなかったか」
オイラは改めて、ダンジョンの魔獣は、倒さなくても何百回も攻撃するとアイテムをドロップすること、倒さない限りエリアボスにも何回も挑戦出来ること、を説明した。
どうやらテリテおばさんにも説明してなかったようで、感心しながら聞いていた。
「へえ、そうなのかい。
アタシはもうたいていのエリアボスを倒しちまってるからねぇ。
そう考えると、もったいないことをしたね」
「いや、母ちゃんの場合、どんな魔獣でも一撃だろ。
殺さないように何百回も攻撃を当て続けるなんて、どんなスピードとスタミナだよ」
説明している内に戻ってきたマリル兄ちゃんが、呆れたように首を振る。
マーキングだけでなく、食べられる野草も採取してきたようで、腕の中にはどっさりと緑色の葉っぱが抱えられている。
ダンジョンの外は、もう秋も終わりで、木の実やキノコがせいぜいだけれど、ダンジョンの中は四季ごちゃまぜの色々な草花が咲き茂っている。
気温も安定しているし、水場も食料もあるし、肉をドロップする魔獣もいるし……ダンジョンというのは、魔獣に勝てる強ささえあれば、意外と暮らしやすい。
なんてご都合主義な、と思わなくもなかったけれど、ノッカーが人間を招くために作っているんだから、ある程度の居心地の良さは必然なのかも知れない。
そういえば、テリテおばさんが出稼ぎに出る理由。
さっきのベッジさんとの会話でふと思ったんだけど、本来なら、テリテおばさんは出稼ぎに出る必要はない。
なぜなら、裏の荒野でエルダーボアや他の魔獣を狩って、肉や素材を売るだけで、結構な稼ぎになるからだ。
まして、ほとんど自給自足なテリテおばさんち。
物凄くお金が必要だとも思えない。
ひょっとして、冬の出稼ぎって、テリテおばさんの避寒を兼ねてるんじゃないだろうか?
ダンジョンの中なら暖かいし、テリテおばさんくらい強かったら、魔獣におびえる必要もなく、無理をしなくてもそこそこの稼ぎになる。
テリテおばさんにとって、一石二鳥、三鳥くらいの。
マークスおじさんと離れなきゃならないのが、唯一のデメリットかな?
「なんと、エリアボスとはそんな仕組みじゃったのか」
「まあ、そんな真似が出来るのは、ノア君くらいでしょうが」
「えー?
僕もやってみようと思ったのに」
「ゼッタイやめてくだせぇ、ユーリ様。
死にます。
ゼッタイ死にます」
ブルさんが涙目で必死にユーリを止めている。
「まあ、ユーリたちはここで魔獣でも狩っててよ」
そう言ってオイラは身をひるがえして走り出した。
何やら叫んでいるユーリの声が、瞬く間に後ろへと消えていく。
ユーリには言ってなかったけれど、黒モフはテリテおばさんにユーリたちもパーティとして認識していたようだ。
Sランク魔獣を立て続けに倒したわけだから、相当レベルがあがっていていいはずたけれど、黒モフの経験値アップには落とし穴?がある。
つまり、戦った人間が戦った魔獣よりレベルが上だった場合、同じパーティ内にレベルの低い人間がいても、ほとんど経験値が入らない、ということだ。
エスティとオイラとの戦いの場合、エスティのほうがかなりレベルが上だったから、婆ちゃんたちもレベルアップ出来たわけだけれど、テリテおばさんとニーズホッグの戦いとかじゃ、ユーリたちに経験値は入ってないだろう。
『暗闇のダンジョン』にいる魔獣だと、オイラとかテリテおばさんが戦って、経験値を得られることはないだろうし。
まあ、自力でレベルアップしてもらうしかないわけで。
いくら補助魔法、魔道具の方面が得意だからって、まったく戦えなくていいってことはないだろうし。
マリル兄ちゃんの夕飯を楽しみにしつつ、オイラはダンジョンの下層へ向けて走り出した。
後書き
牛雑学・女性に話題のプラセンタ。馬や豚の胎盤だけれど、牛のはなぜかあまり活用されていない。(最近少し使われ始めたらしい)自然の牛はお産の後、外敵に狙われないよう&栄養補給に食べるらしいけど、うちの牛は食べたためしがない。てなわけで堆肥に。自分で食べる勇気もないし。もったいないなー、と思うので、奥さん、おひとついかがでしょう?
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