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連載
ウェブ版鍛冶見習い99・『霧の森』のダンジョンでキャンプ
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前回のあらすじ・『暗闇のダンジョン』産のハチミツが王都で大人気だった。
「やー、思ったよりローヤルゼリーもハチミツも手に入ったし。
満足満足」
日が暮れてから、テリテおばさんのキャンプに戻ると、あたたかいご飯が待っていた。
マリル兄ちゃんの料理の腕前はオイラより格上だ。
色々な野草とグレートボアの肉が入った鍋物に、フキの煮物、肉の串焼きまである。
野草は、ヨモギにオオバコ、ナズナ、セリあたりか。
キノコも何種類か。
よそってもらったのを見ると、キク芋まで入っている。
ノビロはきれいに洗って、味噌が添えてフキの葉っぱに置いてある。
そこらの石で組んだかまどに、持参の鍋と調味料。
かまどは、ちゃんと風が抜けるように計算して作ってある。
ダンジョンでこんな食事が食べられるなんて、ここのキャンプだけだろう。
シロウトが採取すると、セリと毒ぜりを間違えたり、毒キノコが混ざっていたりして危険だけれど、農家はやたらな冒険者より野草に詳しい。
マリル兄ちゃんの作ったものなら安心して食べられる。
「豪勢だねー」
るんるんでお椀を受け取ったオイラに対して、ユーリはぶすっとしている。
「この僕に、そのへんに生えてた草を食べろっていうの!?」
なんだかこのやり取りもテンプレになってきたなぁ。
「別に食べなくてもいいさ。
一人で味気ない非常食をかじってるのも、マリルの作ったもんを食べるのも、あんたの自由だよ」
テリテおばさんの身もふたもない言いぐさに、ユーリは不貞腐れつつもお椀を受け取る。
冒険者ご用達の非常食は、とても不味いことで知られている。
出来ればオイラも食べたくない。
「まあ、そう言うなって。
そんへんの野草のほうが、普通の野菜より体に良かったりするんだぜ?
ヨモギやオオバコは腹痛治し、ナズナもオオバコも目にいいしな。
キク芋はカロリー低くて栄養があるし、セリも栄養がいっぱいだ。
野菜食わねーとふんづまりになるぞ」
「……
さいてー」
ユーリが鼻にしわを寄せて、マリル兄ちゃんにべーっと舌を出す。
農家にとっては、家畜のふんを観察するのは日常業務だ。
さらに人間の出した○○も、農家に肥やしとして結構な値で売れたりする。
まあ、テリテおばさんちは牛の堆肥があるから、人間のは使ってないけど。
王族の方々とは感覚が違う。
「マリルはサイテーだけど、マリルの作ったご飯はサイコーだよ?」
カウラが、フォローになっていないフォローをしつつ、よそってもらった鍋物をすする。
まあ、鍋に入れる前にちゃんとあく抜きしてあるとか、肉にも隠し包丁を入れてあるとか、さりげに入ってる野生のエノキとかシメジとか見つけるのムチャクチャ大変なんだとか、マリル兄ちゃんの人知れぬ気遣いは分かってないんだろうし。
カウラもユーリも、人に何かしてもらうのが当たり前の人種だ。
「……うん、まあ、確かに」
ユーリもしぶしぶと鍋物を食べ始めるころには、既にご隠居もブルさんもおかわりに手を出している。
テリテおばさんもいるし、グズグズしているとオイラのおかわりの分もなくなりそうだ。
「キク芋というのはうまいのぉ。
初めて食べるわい」
「ダンジョンじゃあ炭水化物は貴重ですからね。
折よくマリル君が見つけてくれて良かった」
「俺は鼻がいいからね。
って、まあ、母ちゃんには負けるんだけど。
何個かムカゴも見つけたから、たぶん、山芋もあると思うよ」
「ダンジョンのお供に、マリル君はかかせんのぉ」
「一家に一台マリル君、ですね」
ご隠居と満月先生に褒められて、マリル兄ちゃんが鼻を赤くしている。
ノビルを何個かまとめて噛み砕きながら、テリテおばさんが肉の串焼きに手をのばす。
ノビルは、玉ねぎ状の球根?を食べるものだけれど、生だと少し辛みがある。
オイラもマリル兄ちゃんも苦手だけれど、テリテおばさんの好物だ。
マリル兄ちゃんが用意したんだろう。
ってか、犬科の獣人は、基本的に生のネギ系が苦手だ。
普通の犬と違って、食べたからタマネギ病になる、ってもんでもないけど。
「そういえば、ノアちゃん。
収穫はどうだったんだい?」
「うん、ばっちり。
クイーンビーのとこまで、6往復は出来たかな。
クイーンビーのとこにはハチもいっぱいいるし、ローヤルゼリーが5壺と、ハチミツが……にの、しの、ろの……18?」
「そりゃあ大漁だねぇ」
「必ずドロップするわけじゃないからねぇ。
ハチを倒して、ハチミツをドロップするのは、1割以下じゃないかな」
「ってことは、なに?
180匹も倒して来たってこと!?」
「『くらやみハニー』が18壺!?
ねぇ、ちょっと味見してみようよー」
カウラとユーリが、また対照的な反応をしている。
「ちょっと、ユーリ。
ノアが手に入れて来たハチミツなんだから」
「えー、だって、18もあるんだよ?
ひとつくらいくれたってバチは当たんないよぉ」
二人のやり取りに苦笑する。
そういえば、ユーリは『くらやみハニー』を使ったお菓子が好物だと言っていた。
このぶんじゃ、オイラがいない間に、ハチの魔獣とは出会わなかったのかな?
「ユーリたちは、ハチミツ手に入んなかったの?」
「ぜーんぜんダメ。
この階にいるハチは、ぜーんぶ、入り口にいる冒険者たちに狩られちゃったんだよ、絶対。
明日、ノアがハチ狩ったとこ教えてよ。
ノアがくれないなら、自分でとりに行くからさ」
確かに、この階でハチは見なかった気がする。
「別にいいよ?」
「ほんと?
やったー!」
無邪気に喜ぶユーリに、ご隠居が苦言を呈する。
「こらこら、ちょっと待つんじゃ。
このハチミツは、『くらやみハニー』と言ったかの?
ローヤルゼリーを持っとるクイーンビーは、『暗闇のクイーンビー』。
ここは『暗闇のダンジョン』。
ここのハチたちは、ハチにしては珍しく、夜目がきく。
確かここのクイーンビーがいるのは、地下十階。
暗闇エリアじゃ。
四階までの、森・草原エリアにいるのは、たまたま迷い込んだはぐれハチだけじゃ。
地下六階からは、文字通りのハチの巣。
気軽に踏み込めば、あっという間にたかられてお陀仏じゃ」
「えーー」
ユーリが非難のまなざしでオイラを見る。
「いやだって、ここのハチってレベル40未満だよ?
ユーリたちには、いい鍛錬相手だと思ったんだけどなぁ」
「それって、一対一なら何とか戦える、ってレベルだからね。
一対多数で圧倒できるレベルじゃないから」
カウラの白い目に耐えていると、ものすっごい視線を感じた。
テリテおばさんが、よだれを垂らさんばかりにして、オイラの抱えているハチミツの壺を見つめている。
くれとは言わない。
そこはテリテおばさんだ。
でも、知ってる。
テリテおばさんが、ものすっごいハチミツ好きだってこと。
「……いる?」
「いいのかい!?」
テリテおばさんがものすっごい笑顔でハチミツの壺を受け取ると、手をつっこんで無心に食べ始めた。
まんま、本物の熊がミツバチの巣を食べてるとこに見える。
もちろん、テリテおばさんなら、ハチの魔獣を殲滅してハチミツを独り占めすることも出来る。
暗闇でもオイラ以上に鼻がきくし、不自由もないだろう。
でも、今回の旅には連れがいる以上、オイラに譲って自分は行かずに我慢してくれたんだろう。
進呈しないわけにはいかない。
「うわ、ずっるーい。
テリテさんだけー」
美少女のおねだりに勝てるものは、この世にない。
口をとがらすユーリに苦笑しつつ、オイラはマリル兄ちゃんに確認する。
「マリル兄ちゃんのことだから、デザートとかも用意してたりして?」
「おう、準備万端だぜ。
クマイチゴとアケビがあるけど、どっちがいい?」
クマイチゴは甘みもあるけど酸味がきつく、アケビは甘くて酸味が少ない。
ハチミツと合わせるなら、クマイチゴだろう。
「じゃあ、クマイチゴで。
アケビは明日の朝ごはんにね。
ハチミツかけてみんなに配るね」
お鍋を食べ終わったお椀を軽く洗い、マリル兄ちゃんが洗っておいてくれたクマイチゴを等分に分ける。
クマイチゴは木にトゲが多い。
マリル兄ちゃんの手の甲にあるひっかき傷は、そのせいだろう。
いいとこ見せたくて頑張ってるんだろうに、その地味な努力を、ユーリは理解してやっているのだろうか?
「やった、くらやみハニー!」
せっかくなので、ひとつ分の壺の中身も均等に分けて、たっぷりとクマイチゴにかける。
キラキラとした目で、ユーリが真っ先にお椀を受け取る。
普通、こーいうときはご隠居からだと思うんだけど。
「うーん!
この濃厚だけど、くどくない舌ざわり!
この野いちごの酸味との相性がばつぐんだね!
こんなにいっぱい『くらやみハニー』が食べられるなんて……
最初はどうなるかと思ったけど、ついてきて良かったよ」
満面の笑顔でクマイチゴを頬張るユーリを、マリル兄ちゃんが嬉しそうに見つめている。
……そう、やっぱりマリル兄ちゃんは、ユーリのこと気にいったわけね。
まあ、こんなけ美人なら、男でもいいか。
ちっちゃい頃からずっと一緒だったマリル兄ちゃんに好きな人が出来るのはさみしいけど、マリル兄ちゃんには幸せになってほしいし。
微妙に応援しようかな?
「ホントに美味しいね。
『くらやみハニー』のスイーツ、手に入ってもユーリがみーんな独り占めして食べちゃうんだから。
献上品でもらったときだって、最初の一口だけだったよ、私が食べられたの」
「だって、限定品なんだよ?
『くらやみハニー』が入荷しないときはお休みなんだよ?
お金を払ったからって手に入るものじゃないんだよ?」
「だったら自分でとればいいんだよ」
にっこり笑って言うオイラに、白い眼を向けるかと思いきや、ユーリは拳を握りしめる。
「そうだね。
僕も……この僕の天賦の才をもってすれば、攻撃魔法のひとつやふたつ!」
「そういえばさ、ルル婆に魔法教わったって言ってたけど?
魔法って、スキルを取得すれば使える、ってもんじゃないの?」
「何言ってるの?
魔法ってのは、魔法スキルが取得出来るのは最低条件。
知識に適性、センスに師匠。
その全てが合わさった、総合芸術なんだよ?」
魔法のスキルがないオイラにはよく分かんないけど、鍛冶も、スキルだけじゃまともな剣が打てなくて、父ちゃんに教わるようになってから格段にレベルアップしたし、それと同じようなもんかな?
その夜は、テリテおばさんが張ってくれたテントで皆休んだ。
テントは二張り。
テリテおばさんとマリル兄ちゃんとリリィとオイラ。
ご隠居と満月先生とブルさんとユーリにカウラ。
男女別に分けた方が、と思わなくもないけれど、テリテおばさんはイビキも豪快なので、この仕訳が最適だと思う。
寝つきの良いテリテおばさんが眠るより早く、そっこーで眠りに落ちるマリル兄ちゃんとオイラは、もはや職人芸と言っていい領域だ。
後書き
牛雑学・牛の鼻かんは、昔は金属製でねじで止めていたけれど、最近はプラスチック。青、緑、オレンジ、黄色、白、と色とりどり。何色を使うかは酪農家の気分次第。ただ、この前、白がちの子牛に青の鼻かんしたらものすっごい似合わなかった。ので、個人的には白か暖色系がオススメ。
「やー、思ったよりローヤルゼリーもハチミツも手に入ったし。
満足満足」
日が暮れてから、テリテおばさんのキャンプに戻ると、あたたかいご飯が待っていた。
マリル兄ちゃんの料理の腕前はオイラより格上だ。
色々な野草とグレートボアの肉が入った鍋物に、フキの煮物、肉の串焼きまである。
野草は、ヨモギにオオバコ、ナズナ、セリあたりか。
キノコも何種類か。
よそってもらったのを見ると、キク芋まで入っている。
ノビロはきれいに洗って、味噌が添えてフキの葉っぱに置いてある。
そこらの石で組んだかまどに、持参の鍋と調味料。
かまどは、ちゃんと風が抜けるように計算して作ってある。
ダンジョンでこんな食事が食べられるなんて、ここのキャンプだけだろう。
シロウトが採取すると、セリと毒ぜりを間違えたり、毒キノコが混ざっていたりして危険だけれど、農家はやたらな冒険者より野草に詳しい。
マリル兄ちゃんの作ったものなら安心して食べられる。
「豪勢だねー」
るんるんでお椀を受け取ったオイラに対して、ユーリはぶすっとしている。
「この僕に、そのへんに生えてた草を食べろっていうの!?」
なんだかこのやり取りもテンプレになってきたなぁ。
「別に食べなくてもいいさ。
一人で味気ない非常食をかじってるのも、マリルの作ったもんを食べるのも、あんたの自由だよ」
テリテおばさんの身もふたもない言いぐさに、ユーリは不貞腐れつつもお椀を受け取る。
冒険者ご用達の非常食は、とても不味いことで知られている。
出来ればオイラも食べたくない。
「まあ、そう言うなって。
そんへんの野草のほうが、普通の野菜より体に良かったりするんだぜ?
ヨモギやオオバコは腹痛治し、ナズナもオオバコも目にいいしな。
キク芋はカロリー低くて栄養があるし、セリも栄養がいっぱいだ。
野菜食わねーとふんづまりになるぞ」
「……
さいてー」
ユーリが鼻にしわを寄せて、マリル兄ちゃんにべーっと舌を出す。
農家にとっては、家畜のふんを観察するのは日常業務だ。
さらに人間の出した○○も、農家に肥やしとして結構な値で売れたりする。
まあ、テリテおばさんちは牛の堆肥があるから、人間のは使ってないけど。
王族の方々とは感覚が違う。
「マリルはサイテーだけど、マリルの作ったご飯はサイコーだよ?」
カウラが、フォローになっていないフォローをしつつ、よそってもらった鍋物をすする。
まあ、鍋に入れる前にちゃんとあく抜きしてあるとか、肉にも隠し包丁を入れてあるとか、さりげに入ってる野生のエノキとかシメジとか見つけるのムチャクチャ大変なんだとか、マリル兄ちゃんの人知れぬ気遣いは分かってないんだろうし。
カウラもユーリも、人に何かしてもらうのが当たり前の人種だ。
「……うん、まあ、確かに」
ユーリもしぶしぶと鍋物を食べ始めるころには、既にご隠居もブルさんもおかわりに手を出している。
テリテおばさんもいるし、グズグズしているとオイラのおかわりの分もなくなりそうだ。
「キク芋というのはうまいのぉ。
初めて食べるわい」
「ダンジョンじゃあ炭水化物は貴重ですからね。
折よくマリル君が見つけてくれて良かった」
「俺は鼻がいいからね。
って、まあ、母ちゃんには負けるんだけど。
何個かムカゴも見つけたから、たぶん、山芋もあると思うよ」
「ダンジョンのお供に、マリル君はかかせんのぉ」
「一家に一台マリル君、ですね」
ご隠居と満月先生に褒められて、マリル兄ちゃんが鼻を赤くしている。
ノビルを何個かまとめて噛み砕きながら、テリテおばさんが肉の串焼きに手をのばす。
ノビルは、玉ねぎ状の球根?を食べるものだけれど、生だと少し辛みがある。
オイラもマリル兄ちゃんも苦手だけれど、テリテおばさんの好物だ。
マリル兄ちゃんが用意したんだろう。
ってか、犬科の獣人は、基本的に生のネギ系が苦手だ。
普通の犬と違って、食べたからタマネギ病になる、ってもんでもないけど。
「そういえば、ノアちゃん。
収穫はどうだったんだい?」
「うん、ばっちり。
クイーンビーのとこまで、6往復は出来たかな。
クイーンビーのとこにはハチもいっぱいいるし、ローヤルゼリーが5壺と、ハチミツが……にの、しの、ろの……18?」
「そりゃあ大漁だねぇ」
「必ずドロップするわけじゃないからねぇ。
ハチを倒して、ハチミツをドロップするのは、1割以下じゃないかな」
「ってことは、なに?
180匹も倒して来たってこと!?」
「『くらやみハニー』が18壺!?
ねぇ、ちょっと味見してみようよー」
カウラとユーリが、また対照的な反応をしている。
「ちょっと、ユーリ。
ノアが手に入れて来たハチミツなんだから」
「えー、だって、18もあるんだよ?
ひとつくらいくれたってバチは当たんないよぉ」
二人のやり取りに苦笑する。
そういえば、ユーリは『くらやみハニー』を使ったお菓子が好物だと言っていた。
このぶんじゃ、オイラがいない間に、ハチの魔獣とは出会わなかったのかな?
「ユーリたちは、ハチミツ手に入んなかったの?」
「ぜーんぜんダメ。
この階にいるハチは、ぜーんぶ、入り口にいる冒険者たちに狩られちゃったんだよ、絶対。
明日、ノアがハチ狩ったとこ教えてよ。
ノアがくれないなら、自分でとりに行くからさ」
確かに、この階でハチは見なかった気がする。
「別にいいよ?」
「ほんと?
やったー!」
無邪気に喜ぶユーリに、ご隠居が苦言を呈する。
「こらこら、ちょっと待つんじゃ。
このハチミツは、『くらやみハニー』と言ったかの?
ローヤルゼリーを持っとるクイーンビーは、『暗闇のクイーンビー』。
ここは『暗闇のダンジョン』。
ここのハチたちは、ハチにしては珍しく、夜目がきく。
確かここのクイーンビーがいるのは、地下十階。
暗闇エリアじゃ。
四階までの、森・草原エリアにいるのは、たまたま迷い込んだはぐれハチだけじゃ。
地下六階からは、文字通りのハチの巣。
気軽に踏み込めば、あっという間にたかられてお陀仏じゃ」
「えーー」
ユーリが非難のまなざしでオイラを見る。
「いやだって、ここのハチってレベル40未満だよ?
ユーリたちには、いい鍛錬相手だと思ったんだけどなぁ」
「それって、一対一なら何とか戦える、ってレベルだからね。
一対多数で圧倒できるレベルじゃないから」
カウラの白い目に耐えていると、ものすっごい視線を感じた。
テリテおばさんが、よだれを垂らさんばかりにして、オイラの抱えているハチミツの壺を見つめている。
くれとは言わない。
そこはテリテおばさんだ。
でも、知ってる。
テリテおばさんが、ものすっごいハチミツ好きだってこと。
「……いる?」
「いいのかい!?」
テリテおばさんがものすっごい笑顔でハチミツの壺を受け取ると、手をつっこんで無心に食べ始めた。
まんま、本物の熊がミツバチの巣を食べてるとこに見える。
もちろん、テリテおばさんなら、ハチの魔獣を殲滅してハチミツを独り占めすることも出来る。
暗闇でもオイラ以上に鼻がきくし、不自由もないだろう。
でも、今回の旅には連れがいる以上、オイラに譲って自分は行かずに我慢してくれたんだろう。
進呈しないわけにはいかない。
「うわ、ずっるーい。
テリテさんだけー」
美少女のおねだりに勝てるものは、この世にない。
口をとがらすユーリに苦笑しつつ、オイラはマリル兄ちゃんに確認する。
「マリル兄ちゃんのことだから、デザートとかも用意してたりして?」
「おう、準備万端だぜ。
クマイチゴとアケビがあるけど、どっちがいい?」
クマイチゴは甘みもあるけど酸味がきつく、アケビは甘くて酸味が少ない。
ハチミツと合わせるなら、クマイチゴだろう。
「じゃあ、クマイチゴで。
アケビは明日の朝ごはんにね。
ハチミツかけてみんなに配るね」
お鍋を食べ終わったお椀を軽く洗い、マリル兄ちゃんが洗っておいてくれたクマイチゴを等分に分ける。
クマイチゴは木にトゲが多い。
マリル兄ちゃんの手の甲にあるひっかき傷は、そのせいだろう。
いいとこ見せたくて頑張ってるんだろうに、その地味な努力を、ユーリは理解してやっているのだろうか?
「やった、くらやみハニー!」
せっかくなので、ひとつ分の壺の中身も均等に分けて、たっぷりとクマイチゴにかける。
キラキラとした目で、ユーリが真っ先にお椀を受け取る。
普通、こーいうときはご隠居からだと思うんだけど。
「うーん!
この濃厚だけど、くどくない舌ざわり!
この野いちごの酸味との相性がばつぐんだね!
こんなにいっぱい『くらやみハニー』が食べられるなんて……
最初はどうなるかと思ったけど、ついてきて良かったよ」
満面の笑顔でクマイチゴを頬張るユーリを、マリル兄ちゃんが嬉しそうに見つめている。
……そう、やっぱりマリル兄ちゃんは、ユーリのこと気にいったわけね。
まあ、こんなけ美人なら、男でもいいか。
ちっちゃい頃からずっと一緒だったマリル兄ちゃんに好きな人が出来るのはさみしいけど、マリル兄ちゃんには幸せになってほしいし。
微妙に応援しようかな?
「ホントに美味しいね。
『くらやみハニー』のスイーツ、手に入ってもユーリがみーんな独り占めして食べちゃうんだから。
献上品でもらったときだって、最初の一口だけだったよ、私が食べられたの」
「だって、限定品なんだよ?
『くらやみハニー』が入荷しないときはお休みなんだよ?
お金を払ったからって手に入るものじゃないんだよ?」
「だったら自分でとればいいんだよ」
にっこり笑って言うオイラに、白い眼を向けるかと思いきや、ユーリは拳を握りしめる。
「そうだね。
僕も……この僕の天賦の才をもってすれば、攻撃魔法のひとつやふたつ!」
「そういえばさ、ルル婆に魔法教わったって言ってたけど?
魔法って、スキルを取得すれば使える、ってもんじゃないの?」
「何言ってるの?
魔法ってのは、魔法スキルが取得出来るのは最低条件。
知識に適性、センスに師匠。
その全てが合わさった、総合芸術なんだよ?」
魔法のスキルがないオイラにはよく分かんないけど、鍛冶も、スキルだけじゃまともな剣が打てなくて、父ちゃんに教わるようになってから格段にレベルアップしたし、それと同じようなもんかな?
その夜は、テリテおばさんが張ってくれたテントで皆休んだ。
テントは二張り。
テリテおばさんとマリル兄ちゃんとリリィとオイラ。
ご隠居と満月先生とブルさんとユーリにカウラ。
男女別に分けた方が、と思わなくもないけれど、テリテおばさんはイビキも豪快なので、この仕訳が最適だと思う。
寝つきの良いテリテおばさんが眠るより早く、そっこーで眠りに落ちるマリル兄ちゃんとオイラは、もはや職人芸と言っていい領域だ。
後書き
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健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
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