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連載
ウェブ版鍛冶見習い105・ダンジョンへ
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前回のあらすじ・睦月からプロポリスを受け取った。
テリテおばさんの作ってくれた夕ご飯は、ゆでた山芋に、山菜の天ぷら(精進揚げ)、からし菜の酢味噌和え、グレートボアの肉の残りで焼き豚だった。
ダンジョンでは、山菜は豊富に見つかるものの、油の持ち合わせは普通少ない。
天ぷらはごちそうだ。
いったいどうしたのかと思ったら、花のオバケのような魔獣を倒したら、油をドロップしたんだそうだ。
ベニバナ系なのか、アブラナ系なのか、ツバキ系なのか。
まあともかく、食用油には違いないようで、せっかくだからと持ってきた鍋で天ぷらにしたようだ。
コシアブラに、タラの芽、アカシアの花、フキに、コゴミ。
アカシアの花だけ微かに甘く、他はかすかな苦みがある。
オイラが一番好きなのはコシアブラだ。
フキノトウはさすがになかったようで、フキの若い茎が天ぷらになっている。
「わお、この天ぷら甘いね」
ユーリがアカシアばっかりぱくついている。
からし菜は自生してるにしても、酢味噌はどこから出したのかと思ったら、やっぱり自生している、スイハという酸っぱい葉っぱを使っていた。
さらに持参した味噌と、ハチミツを少々。
マリル兄ちゃんとテリテおばさんの料理を見てると勉強になる。
いかに今あるもので美味しいものを作るか。
主婦の知恵っていうか。
「普段は大根おろしで食べるけど、塩っていうのもおいしいね」
キャンプに戻ってくる前、魔女のおばあさんに話が聞けた。
『そんな昔の、強い魔女の呪いは、わしにゃあ解けんよ。
その話を聞くに、その妖精は、呪いで他の生き物とごちゃまぜにされたんじゃろう。
小麦粉とバターと砂糖を混ぜてクッキーを作るのは誰にでも出来る。
じゃが、出来上がったクッキーから、小麦粉だけを取り出すのは、神さまにだって難しかろう。
仮に、小麦粉だけを抜き出せたとしても、残されたものはクッキーのままではおられんし、バターと砂糖にも戻れんじゃろうな』
要するに。
スキュラを元に戻すのはとても難しいし、もし仮に戻せたとしても、スキュラとくっついている犬たちは、全員死ぬ。
スキュラとは何度か話す機会があったけれど、犬たちにもけっこう愛着があるようだった。
っていうか、なんだか聞き覚えのある例えな気がする。
なんだっけ?
……そうか。
『合金還元』のスキルを取得したとき。
ってことは、オイラは無理でも、どっかのだれかに、『生物還元』とかのスキルがあるかも知れない。
でも、オイラの『合金還元』でも、鍛冶素材は元に戻らない。
スキュラと犬を分離して、両方助ける道は、難しいのかも知れない。
さて、翌日。
オイラたちは改めて『暗闇のダンジョン』の転送の魔方陣を目指す。
とは言っても、昨日の夕ご飯の後と出発前の時間を利用して、クイーンビーのところと外を何往復かしたオイラは、さらにローヤルゼリーを4壺とハチミツを20壺増やしていた。
プロポリスはレアアイテムだけあってドロップしなかった。
オイラのリュックは既に睦月のとこから引き取ったローヤルゼリー&プロポリスでいっぱい。
ということは……
「マリル兄ちゃん、よろしくねー♪」
「お前なぁ」
当然、グレートボアの肉を食べ終わって身軽になったマリル兄ちゃんのとこに行く。
そういえば、普通の人よりよっぽど力持ちのマリル兄ちゃんがやっとかつげるほどの重さの肉が、一朝一夕で食べ終わるものなのか?と疑問もあると思う。
けれど、うちのパーティには肉食獣がいる。
まあ、犬も狼もタヌキも肉食っちゃあ肉食なんだけど。
ひたすら強く、ひたすら燃費の悪い人が、一人……
「なんだい、それくらいの荷物でごちゃごちゃ言うんじゃないよ。
アタシの背中を見てみな」
覚えておいでだろうか。
テリテおばさんは道々、ハチを薙ぎ払っていた。
テリテおばさんの背嚢には、ぎっちりとハチミツの壺がつまっていた。
50はある。
って、ちょっと待て。
確率がおかしい。
オイラが6往復して18壺だったのに。
テリテおばさんの食い意地が引き寄せた確率?
……それともテリテおばさん、ひょっとして。
オイラたちが寝てる間に、ハチ狩りに行ってた?
テリテおばさんのイビキに慣れたオイラたちは、夜中に起きることなんてないし。
「……」
無言でじーっと見つめると、テリテおばさんが目線をそらして苦笑いする。
やっぱり。
まあ、兵隊蜂はクイーンビーと一緒にしか現れないし、プロポリスは手に入ってないだろう。
「しょうがねぇなぁ。
ラウルってやつのダンジョンまでだからな」
「やったあ!
マリル兄ちゃんありがと!
大好きっ」
満面の笑みで言うと、マリル兄ちゃんのしっぽの毛が一瞬ぶわっと逆立った。
そのまま所在なさげに辺りを見回すと、そのままぷいっと行ってしまった。
いっくら無理に持たせたからってさぁ、その態度はないと思うんだ。
「ノっア~、今日はこれからどこ行くの?」
朝ごはんに自分で獲った『くらやみハニー』を食べてご機嫌なユーリが、オイラの腕に自分の腕をからませて抱きついてくる。
今日はラズベリーと合わせていた。
朝っぱらから夜なダンジョンの中でさえ、天上の美貌が輝かんばかりだ。
はい、復唱。
ユーリは男、ユーリは男。
分かっていても、脳ミソが錯覚を起こす。
「ここの転移の魔方陣は、十二階にあるんだよ」
「十二!?
昨日行った村より手前じゃないか」
「ただし、普通じゃ絶対気づかない隠し部屋になっててね。
オイラは、その辺からアダマンタイトの臭いがしてたんで、なんとか鉱石を採取できないかとツルハシで突っつきまくってたら、たまたま隠し部屋の扉を開ける魔方陣を触っちゃって」
「たまたま!?」
「ツルハシで!?」
「巨大な岩山に、岩と同じ色で書いてあるから、普通は気付かないよね」
「いやむしろ、ノアの力でどついてよく壊れなかったな、それ」
マリル兄ちゃんが変なことに感心している。
十二階までは難なく進み、目的の岩山に到達する。
とある昔話のように、『開けゴマ』とか言えば開いてくれるなら楽なんだけど……
皆を待たせて、エスティの竜体よりも巨大なそれによじ登っていく。
目印があるわけでなし、記憶とカンと臭いが頼りだ。
左上、地上から十五メートルほど登った場所に、かすかなくぼみがある。
もっとも、他の場所にもくぼみなんて腐るほどあるし、魔方陣だって、普段は光ってるわけでも色が違うわけでもない。
オイラがそこを触ると、くぼみの中が魔方陣の形に淡く光る。
ごごごごっ
重い音を立てて、テリテおばさんたちがいる前の岩壁が、ぽっかりと開く。
「こんななんでもない場所を、執拗にいじくりまわすのなんか、ノアくらいのもんだよな」
「なんでノアに限って、こんなにも転移の魔方陣に出くわすんだかね」
「いやだから、アダマンタイトの臭いがね」
「金属の臭いなんか、普通分かんねぇって」
「そうかな?
興味の問題だと思うんだけど」
ぱっきゃあああんっ
マリル兄ちゃんたちとしゃべっていると、隠し部屋の中から今まで聞いたことのない音がした。
あれ、テリテおばさんがいない。
ここの魔方陣の守りは、パズズ。
獅子の顔に四枚の羽、魔獣と悪霊の中間に位置する魔物だ。
直接攻撃は通り辛く、魔法による攻撃を得意とする。
テリテおばさんとは相性が悪いと思っていたけれど……関係なかったようだ。
隠し部屋の中に入ってみると、案の定、パズズが壁際にへばりついて目を回していた。
獅子の顔には、くっきりとテリテおばさんの拳の形が残っている。
半分実体のない悪霊を殴り飛ばすとか……
さすがと言うか何と言うか。
「あんまり食いでのなさそうな魔獣だな」
マリル兄ちゃんがツンツンパズズを突っついている。
「殴った感じ、中身がなさそうだったからね。
確かに食いではないだろうねぇ」
普段なら、魔方陣の守りを食うんじゃないよ、とマリル兄ちゃんを諭すテリテおばさんが、今回ばかりはマリル兄ちゃんに同意している。
確かに半分幽霊みたいなもんだから、食べるところは少ないだろうけど……
「これっ、パズズだよっ!
Aランク!
悪霊を殴り倒すとかっ!」
「……なんだか、Sランクばっかり見て来たせいか、Aランクくらいだったら私でも倒せそうな気がしてくるね」
「やめてくだせぇって、殿下。
死にます。
ぜってぇ死にます」
ブルさんに涙目で止められるのを分かっていて、カウラはわざと言ってる節がある。
ひょっとして、カウラはブルさんラブとか?
なんか一人だけ、疎外感感じるなぁ。
マリル兄ちゃんはユーリが気に入ってて。
カウラはブルさんが気に入ってて。
残るはテリテおばさんとご隠居と満月先生にリリィ?
……。
なんだかちょっと落ち込んだオイラの頬を、なぐさめるように黒モフがすりすりしてくれる。
「黒モフー」
首からひっぺがしてガシッと抱きしめ頬ずりしていると、黒モフがびっくりして一瞬暴れ、それからしょうがないなー、といった感じにされるがままになっている。
あーもふもふ。
転移の魔方陣を踏んだ先にいたのは、アングルボザという女性の巨人だった。
Sランク(土地神ランク)で、セルケトと同様にしゃべることも出来るんだけど、セルケトと違ってそこまでおしゃべりではないし、好戦的でもない。
なぜかテリテおばさんと腕相撲で勝負することになって、テリテおばさんが圧勝した。
テリテおばさんいわく、シャリテ姉ちゃんより大きい女の人を初めて見たそうだ。
そこからさらに転移の魔方陣をひとつくぐり、オイラたちはソイミールの北、徒歩で二日ほどの場所に出た。
ソイミールに一泊して、さらに南のラウルのダンジョンまで、二日の予定。
期限よりだいぶ早く、都合七日ほどで目的地のダンジョンに着く計算だ。
もちろん、オイラが全力で突っ走って来ればもっと早く着いたけれど、今回は道連れも多いし、色々と道草も食った割には、まずまずといったところだろう。
ソイミールで、ラウルのダンジョンについて少し情報を集めてみたものの、出来て間もないダンジョンなせいか、知っている人はいなかった。
目的地がはっきり分かっていれば直線で突っ切ることもできるけれど、近所の人に話を聞きながら、場所を探り探りの道行きではあんまり距離も稼げない。
ラウルの話を聞いた時点では、徒歩で二日くらいのはずが、実際はだいぶ東に迂回してしまったらしく、到着したのはソイミールを出て三日後だった。
後書き
牛雑学・牛小屋には、余った粉ミルク、牛のエサ、出荷出来ない牛乳、ネズミ、機械の熱であったかい場所、などがあるので、野良猫がよく居つく。不思議なもので、廃業すると、ぎゅうしゃは残っていも、いつの間にか猫もいなくなる場合が多い。
テリテおばさんの作ってくれた夕ご飯は、ゆでた山芋に、山菜の天ぷら(精進揚げ)、からし菜の酢味噌和え、グレートボアの肉の残りで焼き豚だった。
ダンジョンでは、山菜は豊富に見つかるものの、油の持ち合わせは普通少ない。
天ぷらはごちそうだ。
いったいどうしたのかと思ったら、花のオバケのような魔獣を倒したら、油をドロップしたんだそうだ。
ベニバナ系なのか、アブラナ系なのか、ツバキ系なのか。
まあともかく、食用油には違いないようで、せっかくだからと持ってきた鍋で天ぷらにしたようだ。
コシアブラに、タラの芽、アカシアの花、フキに、コゴミ。
アカシアの花だけ微かに甘く、他はかすかな苦みがある。
オイラが一番好きなのはコシアブラだ。
フキノトウはさすがになかったようで、フキの若い茎が天ぷらになっている。
「わお、この天ぷら甘いね」
ユーリがアカシアばっかりぱくついている。
からし菜は自生してるにしても、酢味噌はどこから出したのかと思ったら、やっぱり自生している、スイハという酸っぱい葉っぱを使っていた。
さらに持参した味噌と、ハチミツを少々。
マリル兄ちゃんとテリテおばさんの料理を見てると勉強になる。
いかに今あるもので美味しいものを作るか。
主婦の知恵っていうか。
「普段は大根おろしで食べるけど、塩っていうのもおいしいね」
キャンプに戻ってくる前、魔女のおばあさんに話が聞けた。
『そんな昔の、強い魔女の呪いは、わしにゃあ解けんよ。
その話を聞くに、その妖精は、呪いで他の生き物とごちゃまぜにされたんじゃろう。
小麦粉とバターと砂糖を混ぜてクッキーを作るのは誰にでも出来る。
じゃが、出来上がったクッキーから、小麦粉だけを取り出すのは、神さまにだって難しかろう。
仮に、小麦粉だけを抜き出せたとしても、残されたものはクッキーのままではおられんし、バターと砂糖にも戻れんじゃろうな』
要するに。
スキュラを元に戻すのはとても難しいし、もし仮に戻せたとしても、スキュラとくっついている犬たちは、全員死ぬ。
スキュラとは何度か話す機会があったけれど、犬たちにもけっこう愛着があるようだった。
っていうか、なんだか聞き覚えのある例えな気がする。
なんだっけ?
……そうか。
『合金還元』のスキルを取得したとき。
ってことは、オイラは無理でも、どっかのだれかに、『生物還元』とかのスキルがあるかも知れない。
でも、オイラの『合金還元』でも、鍛冶素材は元に戻らない。
スキュラと犬を分離して、両方助ける道は、難しいのかも知れない。
さて、翌日。
オイラたちは改めて『暗闇のダンジョン』の転送の魔方陣を目指す。
とは言っても、昨日の夕ご飯の後と出発前の時間を利用して、クイーンビーのところと外を何往復かしたオイラは、さらにローヤルゼリーを4壺とハチミツを20壺増やしていた。
プロポリスはレアアイテムだけあってドロップしなかった。
オイラのリュックは既に睦月のとこから引き取ったローヤルゼリー&プロポリスでいっぱい。
ということは……
「マリル兄ちゃん、よろしくねー♪」
「お前なぁ」
当然、グレートボアの肉を食べ終わって身軽になったマリル兄ちゃんのとこに行く。
そういえば、普通の人よりよっぽど力持ちのマリル兄ちゃんがやっとかつげるほどの重さの肉が、一朝一夕で食べ終わるものなのか?と疑問もあると思う。
けれど、うちのパーティには肉食獣がいる。
まあ、犬も狼もタヌキも肉食っちゃあ肉食なんだけど。
ひたすら強く、ひたすら燃費の悪い人が、一人……
「なんだい、それくらいの荷物でごちゃごちゃ言うんじゃないよ。
アタシの背中を見てみな」
覚えておいでだろうか。
テリテおばさんは道々、ハチを薙ぎ払っていた。
テリテおばさんの背嚢には、ぎっちりとハチミツの壺がつまっていた。
50はある。
って、ちょっと待て。
確率がおかしい。
オイラが6往復して18壺だったのに。
テリテおばさんの食い意地が引き寄せた確率?
……それともテリテおばさん、ひょっとして。
オイラたちが寝てる間に、ハチ狩りに行ってた?
テリテおばさんのイビキに慣れたオイラたちは、夜中に起きることなんてないし。
「……」
無言でじーっと見つめると、テリテおばさんが目線をそらして苦笑いする。
やっぱり。
まあ、兵隊蜂はクイーンビーと一緒にしか現れないし、プロポリスは手に入ってないだろう。
「しょうがねぇなぁ。
ラウルってやつのダンジョンまでだからな」
「やったあ!
マリル兄ちゃんありがと!
大好きっ」
満面の笑みで言うと、マリル兄ちゃんのしっぽの毛が一瞬ぶわっと逆立った。
そのまま所在なさげに辺りを見回すと、そのままぷいっと行ってしまった。
いっくら無理に持たせたからってさぁ、その態度はないと思うんだ。
「ノっア~、今日はこれからどこ行くの?」
朝ごはんに自分で獲った『くらやみハニー』を食べてご機嫌なユーリが、オイラの腕に自分の腕をからませて抱きついてくる。
今日はラズベリーと合わせていた。
朝っぱらから夜なダンジョンの中でさえ、天上の美貌が輝かんばかりだ。
はい、復唱。
ユーリは男、ユーリは男。
分かっていても、脳ミソが錯覚を起こす。
「ここの転移の魔方陣は、十二階にあるんだよ」
「十二!?
昨日行った村より手前じゃないか」
「ただし、普通じゃ絶対気づかない隠し部屋になっててね。
オイラは、その辺からアダマンタイトの臭いがしてたんで、なんとか鉱石を採取できないかとツルハシで突っつきまくってたら、たまたま隠し部屋の扉を開ける魔方陣を触っちゃって」
「たまたま!?」
「ツルハシで!?」
「巨大な岩山に、岩と同じ色で書いてあるから、普通は気付かないよね」
「いやむしろ、ノアの力でどついてよく壊れなかったな、それ」
マリル兄ちゃんが変なことに感心している。
十二階までは難なく進み、目的の岩山に到達する。
とある昔話のように、『開けゴマ』とか言えば開いてくれるなら楽なんだけど……
皆を待たせて、エスティの竜体よりも巨大なそれによじ登っていく。
目印があるわけでなし、記憶とカンと臭いが頼りだ。
左上、地上から十五メートルほど登った場所に、かすかなくぼみがある。
もっとも、他の場所にもくぼみなんて腐るほどあるし、魔方陣だって、普段は光ってるわけでも色が違うわけでもない。
オイラがそこを触ると、くぼみの中が魔方陣の形に淡く光る。
ごごごごっ
重い音を立てて、テリテおばさんたちがいる前の岩壁が、ぽっかりと開く。
「こんななんでもない場所を、執拗にいじくりまわすのなんか、ノアくらいのもんだよな」
「なんでノアに限って、こんなにも転移の魔方陣に出くわすんだかね」
「いやだから、アダマンタイトの臭いがね」
「金属の臭いなんか、普通分かんねぇって」
「そうかな?
興味の問題だと思うんだけど」
ぱっきゃあああんっ
マリル兄ちゃんたちとしゃべっていると、隠し部屋の中から今まで聞いたことのない音がした。
あれ、テリテおばさんがいない。
ここの魔方陣の守りは、パズズ。
獅子の顔に四枚の羽、魔獣と悪霊の中間に位置する魔物だ。
直接攻撃は通り辛く、魔法による攻撃を得意とする。
テリテおばさんとは相性が悪いと思っていたけれど……関係なかったようだ。
隠し部屋の中に入ってみると、案の定、パズズが壁際にへばりついて目を回していた。
獅子の顔には、くっきりとテリテおばさんの拳の形が残っている。
半分実体のない悪霊を殴り飛ばすとか……
さすがと言うか何と言うか。
「あんまり食いでのなさそうな魔獣だな」
マリル兄ちゃんがツンツンパズズを突っついている。
「殴った感じ、中身がなさそうだったからね。
確かに食いではないだろうねぇ」
普段なら、魔方陣の守りを食うんじゃないよ、とマリル兄ちゃんを諭すテリテおばさんが、今回ばかりはマリル兄ちゃんに同意している。
確かに半分幽霊みたいなもんだから、食べるところは少ないだろうけど……
「これっ、パズズだよっ!
Aランク!
悪霊を殴り倒すとかっ!」
「……なんだか、Sランクばっかり見て来たせいか、Aランクくらいだったら私でも倒せそうな気がしてくるね」
「やめてくだせぇって、殿下。
死にます。
ぜってぇ死にます」
ブルさんに涙目で止められるのを分かっていて、カウラはわざと言ってる節がある。
ひょっとして、カウラはブルさんラブとか?
なんか一人だけ、疎外感感じるなぁ。
マリル兄ちゃんはユーリが気に入ってて。
カウラはブルさんが気に入ってて。
残るはテリテおばさんとご隠居と満月先生にリリィ?
……。
なんだかちょっと落ち込んだオイラの頬を、なぐさめるように黒モフがすりすりしてくれる。
「黒モフー」
首からひっぺがしてガシッと抱きしめ頬ずりしていると、黒モフがびっくりして一瞬暴れ、それからしょうがないなー、といった感じにされるがままになっている。
あーもふもふ。
転移の魔方陣を踏んだ先にいたのは、アングルボザという女性の巨人だった。
Sランク(土地神ランク)で、セルケトと同様にしゃべることも出来るんだけど、セルケトと違ってそこまでおしゃべりではないし、好戦的でもない。
なぜかテリテおばさんと腕相撲で勝負することになって、テリテおばさんが圧勝した。
テリテおばさんいわく、シャリテ姉ちゃんより大きい女の人を初めて見たそうだ。
そこからさらに転移の魔方陣をひとつくぐり、オイラたちはソイミールの北、徒歩で二日ほどの場所に出た。
ソイミールに一泊して、さらに南のラウルのダンジョンまで、二日の予定。
期限よりだいぶ早く、都合七日ほどで目的地のダンジョンに着く計算だ。
もちろん、オイラが全力で突っ走って来ればもっと早く着いたけれど、今回は道連れも多いし、色々と道草も食った割には、まずまずといったところだろう。
ソイミールで、ラウルのダンジョンについて少し情報を集めてみたものの、出来て間もないダンジョンなせいか、知っている人はいなかった。
目的地がはっきり分かっていれば直線で突っ切ることもできるけれど、近所の人に話を聞きながら、場所を探り探りの道行きではあんまり距離も稼げない。
ラウルの話を聞いた時点では、徒歩で二日くらいのはずが、実際はだいぶ東に迂回してしまったらしく、到着したのはソイミールを出て三日後だった。
後書き
牛雑学・牛小屋には、余った粉ミルク、牛のエサ、出荷出来ない牛乳、ネズミ、機械の熱であったかい場所、などがあるので、野良猫がよく居つく。不思議なもので、廃業すると、ぎゅうしゃは残っていも、いつの間にか猫もいなくなる場合が多い。
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