3 / 10
03 女たらしの事情
しおりを挟む
王太子の婚約者は派閥など諸々を考慮した結果選ばれた伯爵令嬢なのだが、政略で結ばれた間柄とはいえ二人は大層仲良く相思相愛であるらしい。
それは良いことであるとアルビナが頷けば、そうだろう!? と興奮したテオバルトに二人がどれほどお似合いであるかを力説された。なかなかお熱いカップルのようであるし、瞳をキラキラさせるテオバルトはとても……いや、だいぶ兄想いのようだ。
だが、容姿・内面ともに優れた第一王子は弟だけでなく令嬢たちにも大変人気がある。
すでに婚約をした今でも。だ。
特にひとりの侯爵令嬢が傾倒しており、王立学園時代も付きまとい、婚約者である伯爵令嬢にもきつくあたっていたらしい。
しまいにはその侯爵令嬢の振る舞いに同調した者まで出てきて、在学中はなかなか荒れたのだとか。
このままでは大切な婚約者である伯爵令嬢の心身が参り、婚約解消になってしまうのでは……と王太子は危惧し、王家としてもかなり頼み込んで婚約した手前、解消は避けたい事態。
ここで兄のために立ち上がったのが、第二王子であるテオバルト。らしい。
なんとか学園内の令嬢の興味だけでも惹かねばと奮闘したようだ。
「兄上が無事に婚約者と結ばれるまで、この私が二人に近づくすべての令嬢を引き受ける……! 学園を卒業した今、次は社交界の令嬢すべてをだ……!」
彼の次なる目標は、王太子の周囲に集まる令嬢すべてなのだそうだ。これはなかなか大規模である。
「それで女たらしなのですね」
「ああ。だからあなたには兄上の件が落ち着くまで迷惑をかけるが――」
「いいえ、かまいませんわ。むしろそのような時期に、国が大変なご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」
継承問題にも関わる微妙なときに、隣国からのちょっかいなど煩わしいことこの上なかっただろう。
(ああ、だからこそあそこまで大胆な攻めで叩きのめしてくれたのかしら)
聞いた話では、それは苛烈なまでの勢いで父王は返り討ちにされたらしい。その話の裏にあっただろうテオバルトの苛立ちを感じて、改めて申し訳なくなる。兄想いの彼にとっては、まさにそれどころじゃねぇ。な、心境だったに違いない。
なのに、テオバルトこそ痛ましそうな目でアルビナを見やる。
「なにを言う。我が国にはほぼ被害などなかったのだ。上に立つものがあのようでは、そちらの国こそ苦労するだろうに。あなただって、この戦のせいで私などに輿入れすることになったのだろう? ひとり他国で肩身の狭い立場に立たせることとなってしまい、本当にすまない」
母国ですらかけてもらえなかった優しい言葉に、鼻の奥がツンとした。
アルビナも抱いていた父への黒い感情を、テオバルトが忌憚なくはっきりと口にしてくれてなんだか胸がスッとする。同時に、真摯な彼の人柄に触れて、なんの目的もなく輿入れしてきたアルビナの中で、わずかながらやる気の炎が灯った気がした。
居住まいを正すと、しっかりとテオバルトと目を合わす。
「とんでもございませんわ。その計画、わたくしにもどうか協力させてくださいませ!」
「なんと……え、いいのか!?」
ドンと胸を叩いて宣言したアルビナの姿に、テオバルトは目を丸くして驚いた。
言っておきながら、簡単に受け入れられるとは思っていなかったのだろう。確かに和平のためにと輿入れしてきた相手に向かって、「愛することはない」のひとことはなかなか酷い。
しかし、アルビナにしてみれば良い方向に予想外。
「むしろありがたいお言葉に感動しております。わたくしはもっとこう……見向きをされることもなく放置され、忘れ去られるのだろうと思っておりましたので」
「そんなことをするわけがないだろう!?」
驚愕するテオバルトにアルビナこそ驚き、思わず笑う。
「ならば、よろしくお願いいたしますね」
どのみち、他にやることもないのだ。ならば誠実に向き合ってくれた婚約者の力になろうではないか。
すっかり肩の力が抜けてしまったアルビナを、テオバルトは呆けたように見つめていた。
そして後日、王太子とその婚約者を紹介してもらった。
王太子は、まさにこれぞテオバルトの兄であると納得できる人物であった。それでいて優しさだけではない、将来国を背負う者としての威厳に圧倒された。婚約者である伯爵令嬢も、少し会話をすればその聡明さは明らかである。
二人は愚かな国の王女であるはずのアルビナをにこやかに迎えてくれ、気遣い、今回アルビナが協力することに感謝の言葉を惜しまない大変な人格者であったのだ。
テオバルトが絶賛するのもわかる似合いの二人であり、その日の夜は王太子カップルの素晴らしさについて二人で遅くまで熱く語り合ほどに陶酔した。
彼らを無事に夫婦にするため、アルビナとテオバルトの『女たらし計画』は始まったのである。
それは良いことであるとアルビナが頷けば、そうだろう!? と興奮したテオバルトに二人がどれほどお似合いであるかを力説された。なかなかお熱いカップルのようであるし、瞳をキラキラさせるテオバルトはとても……いや、だいぶ兄想いのようだ。
だが、容姿・内面ともに優れた第一王子は弟だけでなく令嬢たちにも大変人気がある。
すでに婚約をした今でも。だ。
特にひとりの侯爵令嬢が傾倒しており、王立学園時代も付きまとい、婚約者である伯爵令嬢にもきつくあたっていたらしい。
しまいにはその侯爵令嬢の振る舞いに同調した者まで出てきて、在学中はなかなか荒れたのだとか。
このままでは大切な婚約者である伯爵令嬢の心身が参り、婚約解消になってしまうのでは……と王太子は危惧し、王家としてもかなり頼み込んで婚約した手前、解消は避けたい事態。
ここで兄のために立ち上がったのが、第二王子であるテオバルト。らしい。
なんとか学園内の令嬢の興味だけでも惹かねばと奮闘したようだ。
「兄上が無事に婚約者と結ばれるまで、この私が二人に近づくすべての令嬢を引き受ける……! 学園を卒業した今、次は社交界の令嬢すべてをだ……!」
彼の次なる目標は、王太子の周囲に集まる令嬢すべてなのだそうだ。これはなかなか大規模である。
「それで女たらしなのですね」
「ああ。だからあなたには兄上の件が落ち着くまで迷惑をかけるが――」
「いいえ、かまいませんわ。むしろそのような時期に、国が大変なご迷惑をおかけしてしまい申し訳ございません」
継承問題にも関わる微妙なときに、隣国からのちょっかいなど煩わしいことこの上なかっただろう。
(ああ、だからこそあそこまで大胆な攻めで叩きのめしてくれたのかしら)
聞いた話では、それは苛烈なまでの勢いで父王は返り討ちにされたらしい。その話の裏にあっただろうテオバルトの苛立ちを感じて、改めて申し訳なくなる。兄想いの彼にとっては、まさにそれどころじゃねぇ。な、心境だったに違いない。
なのに、テオバルトこそ痛ましそうな目でアルビナを見やる。
「なにを言う。我が国にはほぼ被害などなかったのだ。上に立つものがあのようでは、そちらの国こそ苦労するだろうに。あなただって、この戦のせいで私などに輿入れすることになったのだろう? ひとり他国で肩身の狭い立場に立たせることとなってしまい、本当にすまない」
母国ですらかけてもらえなかった優しい言葉に、鼻の奥がツンとした。
アルビナも抱いていた父への黒い感情を、テオバルトが忌憚なくはっきりと口にしてくれてなんだか胸がスッとする。同時に、真摯な彼の人柄に触れて、なんの目的もなく輿入れしてきたアルビナの中で、わずかながらやる気の炎が灯った気がした。
居住まいを正すと、しっかりとテオバルトと目を合わす。
「とんでもございませんわ。その計画、わたくしにもどうか協力させてくださいませ!」
「なんと……え、いいのか!?」
ドンと胸を叩いて宣言したアルビナの姿に、テオバルトは目を丸くして驚いた。
言っておきながら、簡単に受け入れられるとは思っていなかったのだろう。確かに和平のためにと輿入れしてきた相手に向かって、「愛することはない」のひとことはなかなか酷い。
しかし、アルビナにしてみれば良い方向に予想外。
「むしろありがたいお言葉に感動しております。わたくしはもっとこう……見向きをされることもなく放置され、忘れ去られるのだろうと思っておりましたので」
「そんなことをするわけがないだろう!?」
驚愕するテオバルトにアルビナこそ驚き、思わず笑う。
「ならば、よろしくお願いいたしますね」
どのみち、他にやることもないのだ。ならば誠実に向き合ってくれた婚約者の力になろうではないか。
すっかり肩の力が抜けてしまったアルビナを、テオバルトは呆けたように見つめていた。
そして後日、王太子とその婚約者を紹介してもらった。
王太子は、まさにこれぞテオバルトの兄であると納得できる人物であった。それでいて優しさだけではない、将来国を背負う者としての威厳に圧倒された。婚約者である伯爵令嬢も、少し会話をすればその聡明さは明らかである。
二人は愚かな国の王女であるはずのアルビナをにこやかに迎えてくれ、気遣い、今回アルビナが協力することに感謝の言葉を惜しまない大変な人格者であったのだ。
テオバルトが絶賛するのもわかる似合いの二人であり、その日の夜は王太子カップルの素晴らしさについて二人で遅くまで熱く語り合ほどに陶酔した。
彼らを無事に夫婦にするため、アルビナとテオバルトの『女たらし計画』は始まったのである。
2
あなたにおすすめの小説
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!
さら
恋愛
王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。
――でも、リリアナは泣き崩れなかった。
「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」
庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。
「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」
絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。
「俺は、君を守るために剣を振るう」
寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。
灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!
朱音ゆうひ@11/5受賞作が発売されます
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」
伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。
ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。
「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」
推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい!
特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした!
※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。
サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします
他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
顔も知らない旦那様に間違えて手紙を送ったら、溺愛が返ってきました
ラム猫
恋愛
セシリアは、政略結婚でアシュレイ・ハンベルク侯爵に嫁いで三年になる。しかし夫であるアシュレイは稀代の軍略家として戦争で前線に立ち続けており、二人は一度も顔を合わせたことがなかった。セシリアは孤独な日々を送り、周囲からは「忘れられた花嫁」として扱われていた。
ある日、セシリアは親友宛てに夫への不満と愚痴を書き連ねた手紙を、誤ってアシュレイ侯爵本人宛てで送ってしまう。とんでもない過ちを犯したと震えるセシリアの元へ、数週間後、夫から返信が届いた。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
※全部で四話になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる