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09 渾身の「ええ、そうですが」
しおりを挟むことが終わって。
マルティナはベッドの上に転がり呆然と天井を見つめていた。
いったいなぜ、なにがどうなってこうなったのか。
なぜ自分は、第二王子と熱すぎるひとときを過ごしたのだろう。
散々喘いでよがり狂っておきながらあれだが、いまだにこの状況がわからない。
しかしながら、不感症と罵られ婚約破棄までされた自分が、これほど乱れた初体験を迎えられるとは思っていなかった。
よくわからない達成感に包まれていたら、天井しか映っていなかった視界に紫紺の髪と金色の瞳がひょっこりと現れた。
その顔は眉尻が気弱そうにへにょりと下がっている。
先ほどまで圧倒的色気を放ちマルティナを翻弄しっぱなしだった姿がすっかり消え失せた第二王子がいた。
不安そうにマルティナの様子を窺っている。
「あの、身体はいかがですか?」
いかがもなにも、全身がギシギシと軋むほど疲労困憊だ。
それもこれもリオネルの激しい行為のせいだというのに、マルティナを気遣う今の彼と、容赦なく責め立ててくる行為中の彼が違いすぎて戸惑う。
そんなマルティナの心情をよそに、リオネルは感極まったように瞳を潤ませた。
「最後まで潰れなかったのは、あなたが初めてです……!」
「つ、潰れる……」
そういえば行為の途中もそんなことを言っていた気がする。
「あの、それは一体……どういう?」
「誰もかれも、最後までもたずに気を失ってしまうのです」
「ああ……」
しょぼんと肩を落とし困り切ったような顔をして言うが、そんなの理由はひとつだろう。
どう考えてもイキすぎでだ。
「なのにあなたは最後までしっかりと指南してくださいました。さすが手練れであると評されるだけのお方です」
そんなことはない。
現にマルティナも何度となく絶頂を迎えた。
そのたびに気を失いかけたが、持ちこたえたのはたまたま群を抜いて真面目で我慢耐性が高かっただけといえる。だが、どうやらそれをいい様に勘違いされているようだ。
なんといっても婚約者との行為など霞んで塵になって消えてしまうほど、とんでもなく気持ちが良かった。
加えて、人が変わったように雄々しい色気をまき散らし、情欲的に鋭く射抜いてくるリオネルの目つきを思い出すだけで身体はまた疼いてしまう。
思い返してもじもじしていると、リオネルは力なく横たわるマルティナの傍に腰かけた。
「あの、できればあなたには引き続き指南を……」
喜色を浮かべ頬を赤くするリオネルだったが、ふとマルティナの身体に視線を移して言葉を止める。
彼の視線はマルティナの下半身――正確にはその下のシーツを染める朱色に釘付けとなっていた。
とたんに、彼の顔からサァーッと血の気が引いていく。
「……もしや、あなたは……いえ、マルティナ嬢はその……まさかですが――はじめて、だったの……ですか?」
「ええ、そうですが」
当然の顔で頷いたら、リオネルは驚愕の顔で固まった。
*****
「愚弟の勘違いで、大変申し訳ないことをした」
目の前に、綺麗なプラチナブロンドのつむじが見える。
「あの……っ」
「落ち度は完全にこちらにある」
「いえ……っ」
「許してもらえるかはわからないが、のちほどきちんと話し合わせていただきたい」
「――ですからっ!」
たまらずマルティナは叫んだ。
「頭を上げてくださいっ。そして、お、お願いですから、服を着させていただいてもよろしいでしょうか!?」
全裸にシーツ一枚を巻きつけた状態での第一王子と対面は、いくらなんでも心の負担がとんでもなかった。
このままではいたたまれなさが天井を突き破る。
そう。
現在マルティナの前で頭を下げている眩いプラチナブロンドにリオネルと同じく金色の瞳をした美丈夫は、見間違うはずもない我が国の第一王子、ルーファス殿下であった。
誰もが認めるほどに優秀な人物である彼は、こうして間近で見ると確かに聡明な顔つきをしていた。加えて、登場したとたんに場が華やぐような風格もある。
そんな第一王子が申し訳なさそうに頭を下げているのだ。
マルティナの全身から冷や汗が止まらない。
先ほどマルティナの処女を知ったリオネルはとんでもない驚愕顔を晒して、慌てて上着を羽織ると部屋を飛び出した。
そして連れ立って戻ってきたのがルーファスだったのだ。
そこで先のやりとりに戻る。
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