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10 さて、どういうことだったのでしょうか
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服を着たいと訴えるマルティナは「もちろんだ」と慌てるルーファスの許しを得て、ひとまず急いでドレスだけを被った。下着はこの際一旦諦める。裸でいるよりマシだろう。
それよりも突然迎えた第二王子との意識が飛びそうな初体験に加えて、第一王子まで登場してはとてもではないが平常心ではいられない。
マルティナがわたわたと衣服を整えたのを見計らって、ルーファスはため息を吐いた。
「今夜は指南役が体調を崩し取りやめになったようだが、それがリオネルへ伝わる前にあなたと会ってしまって、らしい」
「きちんと確認をしなかった私の責任です……雰囲気でてっきり……」
「し、指南役というのは……?」
足腰立たなくなったここにきてようやく、そもそもの疑問をやっとぶつけることができた。
「リオネルの家庭教師だ。夜伽の」
「夜伽……ああ、なるほど……」
おそらく生真面目なマルティナの見た目で、すっかり新しい家庭教師と思われたのだろう。
確かにピシッとまとめ上げた髪と首まで襟が詰められたドレス、厳格な厳しさを思わせるツリ目は婚約者からも「つまらない」と言われるほど地味で勤勉な性格を連想させた。――そして、現に見た目通りの性格であったのだ。
とはいえ、まさか夜伽の指南役と思われるとは予想外だったが。
「あなたがあまりに優秀で、未経験と気付かずに無体を強いてしまいました」
先ほどまで余裕綽々な顔でマルティナを何度となく絶頂へ追いやった男とは思えないほどに、リオネルはすっかり身体を縮こませていた。眉を八の字に下げた情けない顔を晒して、謝罪の言葉を重ねている。
「いえ私こそ……リオネル殿下があまりに、その、あー、素晴らしい技巧をお持ちで……ええと、初めてとは思えぬ経験をさせていただきました」
間違ってはいない。
リオネルの手はこの身体に快感しか与えなかったのだから。
ベッドの上で身体を起こしたマルティナが深々と頭を下げれば、慌ててその背中を支えたリオネルこそ「いえ、こちらこそ的確な言葉は大変参考になりました」などと丁寧に礼を返す。
二人でぺこぺこと律義に頭を下げ合っていたら、突然「そうなんだよ!」とルーファスから興奮した声があがった。
驚いたマルティナとリオネルが振り向いたと同時に、ルーファスは声高々に叫ぶ。
「リオネルは天才なんだ!」
あまりの勢いにマルティナは気圧され、目を丸くした。
その隙にもルーファスの勢いは止まらない。
「毎回相手がすっかり骨抜きにされてしまってね! 指南役探しにすっかり難航していたんだ。いや、当然もう一度相手を務めたいという申し入れは絶えずきているさ。だが、それではリオネルの学びにならなくて……! そんな中、初めてでありながら最後まで気を失うことなく相手を務めあげた女性がいるというじゃないか! これは一大事だと慌てて駆け付けた次第、というわけさ!」
高揚したまま怒涛の勢いで語る第一王子。
内容が内容だけに冗談かと思ったマルティナだったが、ルーファスの目が余りに真剣だったため、これは真面目な話なのだということが嫌というほど伝わった。
「あの、つまり天才というのは……」
「リオネルは夜の天才なんだよ!」
なんなら拳まで握って、彼は力強く言い切った。
マルティナの横で「それは言いすぎです」と顔を真っ赤にして抗議するリオネルの手を払いのけて。
「夜の天才……」
なかなかのインパクトを持った二つ名である。
しかしながら、言われてみればどうにもこうにも納得してしまうのも事実。
現に、リオネルの手は触れるだけで身体が熱を持ってしまうような心地良さであった。あれを才能といわずなんという。
そうだ。リオネルは夜の天才だったのだ……!
あの変貌ぶりを思い返せば反論などできようはずもなかった。
むしろそう言われればすべてが腑に落ちる。
「た、確かに……!」
なるほど、あれが天才か。と、雷に打たれたかのような衝撃に気を取られていたら、身を乗りだしたルーファスに力強く手を取られた。
「そこで提案なのだが!」
「はっ、はい!」
迫るルーファスの瞳は、期待に満ちて眩く輝いていた。
「もし、もし可能であれば、正式にリオネルの夜伽係を引き受けてもらえないだろうか!?」
「へぇっ!?」
「あ、ああ兄上!?」
突拍子もないことを言い出したルーファスに驚いたのはマルティナだけではなかった。
慌てたようにリオネルがマルティナから兄を引き剥がす。
「な、なにを言い出すのですか!? ただでさえ無体を働いてしまったというのに……!」
マルティナに対する申し訳なさを顔いっぱいに浮かべて、リオネルが兄をなだめるが、ルーファスは呆れたように弟を見た。
「相変わらずお前は、飛びぬけた夜のスキルに見合わず真面目なことを……」
この点はマルティナも同意してつい頷いてしまった。
「それに、彼女にはきっと婚約者が――」
「あ、そうでした婚約者」
ルーファスの登場で色々なことがすっかり頭から抜けていた。
「なんだ、いるのか」
「やっぱり、いるんだ……」
そういえばと思い出した様子のマルティナを見て、ルーファスは舌打ちでもしそうな顔で美形を歪ませ、リオネルは自分で言い出しておきながらショックを受けたように眉を下げた。
それよりも突然迎えた第二王子との意識が飛びそうな初体験に加えて、第一王子まで登場してはとてもではないが平常心ではいられない。
マルティナがわたわたと衣服を整えたのを見計らって、ルーファスはため息を吐いた。
「今夜は指南役が体調を崩し取りやめになったようだが、それがリオネルへ伝わる前にあなたと会ってしまって、らしい」
「きちんと確認をしなかった私の責任です……雰囲気でてっきり……」
「し、指南役というのは……?」
足腰立たなくなったここにきてようやく、そもそもの疑問をやっとぶつけることができた。
「リオネルの家庭教師だ。夜伽の」
「夜伽……ああ、なるほど……」
おそらく生真面目なマルティナの見た目で、すっかり新しい家庭教師と思われたのだろう。
確かにピシッとまとめ上げた髪と首まで襟が詰められたドレス、厳格な厳しさを思わせるツリ目は婚約者からも「つまらない」と言われるほど地味で勤勉な性格を連想させた。――そして、現に見た目通りの性格であったのだ。
とはいえ、まさか夜伽の指南役と思われるとは予想外だったが。
「あなたがあまりに優秀で、未経験と気付かずに無体を強いてしまいました」
先ほどまで余裕綽々な顔でマルティナを何度となく絶頂へ追いやった男とは思えないほどに、リオネルはすっかり身体を縮こませていた。眉を八の字に下げた情けない顔を晒して、謝罪の言葉を重ねている。
「いえ私こそ……リオネル殿下があまりに、その、あー、素晴らしい技巧をお持ちで……ええと、初めてとは思えぬ経験をさせていただきました」
間違ってはいない。
リオネルの手はこの身体に快感しか与えなかったのだから。
ベッドの上で身体を起こしたマルティナが深々と頭を下げれば、慌ててその背中を支えたリオネルこそ「いえ、こちらこそ的確な言葉は大変参考になりました」などと丁寧に礼を返す。
二人でぺこぺこと律義に頭を下げ合っていたら、突然「そうなんだよ!」とルーファスから興奮した声があがった。
驚いたマルティナとリオネルが振り向いたと同時に、ルーファスは声高々に叫ぶ。
「リオネルは天才なんだ!」
あまりの勢いにマルティナは気圧され、目を丸くした。
その隙にもルーファスの勢いは止まらない。
「毎回相手がすっかり骨抜きにされてしまってね! 指南役探しにすっかり難航していたんだ。いや、当然もう一度相手を務めたいという申し入れは絶えずきているさ。だが、それではリオネルの学びにならなくて……! そんな中、初めてでありながら最後まで気を失うことなく相手を務めあげた女性がいるというじゃないか! これは一大事だと慌てて駆け付けた次第、というわけさ!」
高揚したまま怒涛の勢いで語る第一王子。
内容が内容だけに冗談かと思ったマルティナだったが、ルーファスの目が余りに真剣だったため、これは真面目な話なのだということが嫌というほど伝わった。
「あの、つまり天才というのは……」
「リオネルは夜の天才なんだよ!」
なんなら拳まで握って、彼は力強く言い切った。
マルティナの横で「それは言いすぎです」と顔を真っ赤にして抗議するリオネルの手を払いのけて。
「夜の天才……」
なかなかのインパクトを持った二つ名である。
しかしながら、言われてみればどうにもこうにも納得してしまうのも事実。
現に、リオネルの手は触れるだけで身体が熱を持ってしまうような心地良さであった。あれを才能といわずなんという。
そうだ。リオネルは夜の天才だったのだ……!
あの変貌ぶりを思い返せば反論などできようはずもなかった。
むしろそう言われればすべてが腑に落ちる。
「た、確かに……!」
なるほど、あれが天才か。と、雷に打たれたかのような衝撃に気を取られていたら、身を乗りだしたルーファスに力強く手を取られた。
「そこで提案なのだが!」
「はっ、はい!」
迫るルーファスの瞳は、期待に満ちて眩く輝いていた。
「もし、もし可能であれば、正式にリオネルの夜伽係を引き受けてもらえないだろうか!?」
「へぇっ!?」
「あ、ああ兄上!?」
突拍子もないことを言い出したルーファスに驚いたのはマルティナだけではなかった。
慌てたようにリオネルがマルティナから兄を引き剥がす。
「な、なにを言い出すのですか!? ただでさえ無体を働いてしまったというのに……!」
マルティナに対する申し訳なさを顔いっぱいに浮かべて、リオネルが兄をなだめるが、ルーファスは呆れたように弟を見た。
「相変わらずお前は、飛びぬけた夜のスキルに見合わず真面目なことを……」
この点はマルティナも同意してつい頷いてしまった。
「それに、彼女にはきっと婚約者が――」
「あ、そうでした婚約者」
ルーファスの登場で色々なことがすっかり頭から抜けていた。
「なんだ、いるのか」
「やっぱり、いるんだ……」
そういえばと思い出した様子のマルティナを見て、ルーファスは舌打ちでもしそうな顔で美形を歪ませ、リオネルは自分で言い出しておきながらショックを受けたように眉を下げた。
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