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拾捌の抄 恋の行方
其の壱
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十月三週目、木曜日。
白泉高等部二年生は今日から三泊四日の修学旅行である。
「八郎、忘れものない?」
「気をつけて行けよ」
「うん!」
「はっちゃんおみやげ買ってきてねっ」
「はいはい。あ、かんちゃん。あしたから光さん来るから!」
「はいはーい」
集合場所は京都駅の新幹線改札前。
すでに多くの生徒が集まるなか、八郎と柊介は集合時間ギリギリに到着した。
「っはーあぶねえ。なんでこういう日にかぎって電車が遅延すんねや」
「ホンマやな、あそこで乗り換えたんは正解やった」
と八郎は首を巡らせる。
こういう人込みでは、背が高く、派手なTシャツを着ている武晴を目印に探すのが一番手っ取り早い方法なのである。
「あ、おった」
「タケのヤツ、またあの絞り染めのTシャツかよ」
「前にアメリカ村で買うてから、ずいぶん気に入りらしいよ」
「アメ村ァ? なに、アイツ服買うとき心斎橋まで出てんの?」
「わはは、さすがに毎回はないやろ」
トランクをガラガラと引きずって集合場所へと赴く。
どうやら高村学級最後の生徒だったらしい。ふたりに気づいた学級委員の京子が、到着の旨を高村に進言した。
「さすがは華の学級委員、滝沢さんや。気がきくゥ」
「お前も学級委員やろ。仕事しろ」
と八郎の頭をはたく。
すると原色の絞り染めTシャツをワイシャツの下に着た武晴が、うしろから柊介の肩にもたれてきた。
「よッ。遅かったな」
「ぎりぎり時間内やっちゅーねん」
しかしお前──と柊介は武晴の赤いヘアバンドを一瞥し、
「あいもかわらずド派手なナリやな。おかげですぐわかったけど」
と、ペットボトルのお茶をぐいとひと口。
「さっき高村学級の誘導灯に任命された」
「ぶッ」
そして口に含んだお茶を思いきり噴き出した。
「きったねーなアホ!」
「ゲホッ、ゲホ! 人が飲みもん飲んどるときに笑かすなボケ!」
と小突きあうふたりのうしろで、いまにも背景に溶けていきそうなほど存在感の薄い男がひとり──。
八郎は苦笑した。
「タケが目立つんは、お前がモノクロすぎて色が映えるってのもあるんかもわからんな」
「……うるせえ」
明夫である。
銀縁眼鏡以外は真っ黒な学ランと白いスニーカー、灰色のトランクケースという見事に色のない様相を見ていると、なぜ明夫と武晴の気が合うのかがつくづくわからなくなる。
「ほら三組、ここに二列に並べ。邪魔にならんようにな」
という高村の合図をきっかけに、白泉高等部二年生はようやく改札前の端に整列した。
旅行の詳細は、学年主任であり一組担任でもある井上という老齢の女性教師から述べられた。
日程初日の今日。
新幹線で京都駅から向かうは、博多駅。そこからローカル線を乗り継いで大宰府駅へ。そう、最初の目的地は『太宰府天満宮』である。
「みなさんチケットは持ってますね。くれぐれもはぐれんように、勝手にいなくなっても探さへんからしっかりついてきてください。頼みますよ」
各クラスの学級委員。
──といった井上教諭の言葉に、八郎と京子はこわごわと互いに顔を見合わせた。
※
高村学級悪たれ三人衆──。
「シュウはどこに座んのォ」
その一、仲宗根春菜。
おのれの欲望のままに行動を起こし、なにかというと柊介のそばでなければ満足しない。口から生まれたと言われるほどによく喋るので、馬鹿なのに人の話は聞かないという姦しいぶりっこ生徒である。
「俺そっち。おいそこ、窓側変われ」
その二、有沢柊介。
学力においては馬鹿を極め、なにかというとすぐにエスケープ。おかげで人の話は聞いていないうえに自分の権利は一丁前に主張する。発言や行動の端々がいちいちガキ大将という利かん気な生徒である。
「誰やねんいま屁ェこいたんは。あ、オレか? くっせー!」
その三、尾白武晴。
派手。とにかく派手。行動、言動、存在すべてがド派手で周囲の集中をたちまち切らせる天才。学力上位者ゆえに悪賢く、よせばいいのにいつもひと言多いので人の気を逆なでする規格外な生徒である。
「こんなん三人も抱えて学級委員がつとまるか。おれ無理やで」
新幹線の座席を見わたして、八郎がうなだれた。
とりあえずは、この悪たれ三人衆を一緒にすることなく、されど近くに集めよう──と、向かい合う四人席のうち柊介のとなりに明夫、春菜のとなりに恵子という監視役を配置。通路を挟んだとなりの席には、武晴のとなりに松子を据えて、その向かいに八郎と京子が座ることとなった。はたして、これが吉と出るか凶と出るか──。
図らずも恵子とおなじボックス席に座ることとなった明夫は、「えっ」と小さく声を出し、ハンカチで額の汗をぬぐった。
「おお、なかなかええ布陣やないか。考えたな八郎」
高村である。
先日のひどく疲れたようすはどこにもなく、晴れ晴れとした顔で車内を歩いている。どうやら自クラスの生徒たちひとりひとりに声をかけて回っているらしい。
「気分わるくなったらすぐに言いなさいよ。先生は前に座っとるからな」
「…………」
はーい、と良い返事をする生徒たちのなか、高村を見つめる柊介の顔色がわずかにくもる。
そしてすぐに車窓へと目線をうつした。
車窓から見える景色が、いつの間にか田園風景に変わっている。
白泉高等部二年生は今日から三泊四日の修学旅行である。
「八郎、忘れものない?」
「気をつけて行けよ」
「うん!」
「はっちゃんおみやげ買ってきてねっ」
「はいはい。あ、かんちゃん。あしたから光さん来るから!」
「はいはーい」
集合場所は京都駅の新幹線改札前。
すでに多くの生徒が集まるなか、八郎と柊介は集合時間ギリギリに到着した。
「っはーあぶねえ。なんでこういう日にかぎって電車が遅延すんねや」
「ホンマやな、あそこで乗り換えたんは正解やった」
と八郎は首を巡らせる。
こういう人込みでは、背が高く、派手なTシャツを着ている武晴を目印に探すのが一番手っ取り早い方法なのである。
「あ、おった」
「タケのヤツ、またあの絞り染めのTシャツかよ」
「前にアメリカ村で買うてから、ずいぶん気に入りらしいよ」
「アメ村ァ? なに、アイツ服買うとき心斎橋まで出てんの?」
「わはは、さすがに毎回はないやろ」
トランクをガラガラと引きずって集合場所へと赴く。
どうやら高村学級最後の生徒だったらしい。ふたりに気づいた学級委員の京子が、到着の旨を高村に進言した。
「さすがは華の学級委員、滝沢さんや。気がきくゥ」
「お前も学級委員やろ。仕事しろ」
と八郎の頭をはたく。
すると原色の絞り染めTシャツをワイシャツの下に着た武晴が、うしろから柊介の肩にもたれてきた。
「よッ。遅かったな」
「ぎりぎり時間内やっちゅーねん」
しかしお前──と柊介は武晴の赤いヘアバンドを一瞥し、
「あいもかわらずド派手なナリやな。おかげですぐわかったけど」
と、ペットボトルのお茶をぐいとひと口。
「さっき高村学級の誘導灯に任命された」
「ぶッ」
そして口に含んだお茶を思いきり噴き出した。
「きったねーなアホ!」
「ゲホッ、ゲホ! 人が飲みもん飲んどるときに笑かすなボケ!」
と小突きあうふたりのうしろで、いまにも背景に溶けていきそうなほど存在感の薄い男がひとり──。
八郎は苦笑した。
「タケが目立つんは、お前がモノクロすぎて色が映えるってのもあるんかもわからんな」
「……うるせえ」
明夫である。
銀縁眼鏡以外は真っ黒な学ランと白いスニーカー、灰色のトランクケースという見事に色のない様相を見ていると、なぜ明夫と武晴の気が合うのかがつくづくわからなくなる。
「ほら三組、ここに二列に並べ。邪魔にならんようにな」
という高村の合図をきっかけに、白泉高等部二年生はようやく改札前の端に整列した。
旅行の詳細は、学年主任であり一組担任でもある井上という老齢の女性教師から述べられた。
日程初日の今日。
新幹線で京都駅から向かうは、博多駅。そこからローカル線を乗り継いで大宰府駅へ。そう、最初の目的地は『太宰府天満宮』である。
「みなさんチケットは持ってますね。くれぐれもはぐれんように、勝手にいなくなっても探さへんからしっかりついてきてください。頼みますよ」
各クラスの学級委員。
──といった井上教諭の言葉に、八郎と京子はこわごわと互いに顔を見合わせた。
※
高村学級悪たれ三人衆──。
「シュウはどこに座んのォ」
その一、仲宗根春菜。
おのれの欲望のままに行動を起こし、なにかというと柊介のそばでなければ満足しない。口から生まれたと言われるほどによく喋るので、馬鹿なのに人の話は聞かないという姦しいぶりっこ生徒である。
「俺そっち。おいそこ、窓側変われ」
その二、有沢柊介。
学力においては馬鹿を極め、なにかというとすぐにエスケープ。おかげで人の話は聞いていないうえに自分の権利は一丁前に主張する。発言や行動の端々がいちいちガキ大将という利かん気な生徒である。
「誰やねんいま屁ェこいたんは。あ、オレか? くっせー!」
その三、尾白武晴。
派手。とにかく派手。行動、言動、存在すべてがド派手で周囲の集中をたちまち切らせる天才。学力上位者ゆえに悪賢く、よせばいいのにいつもひと言多いので人の気を逆なでする規格外な生徒である。
「こんなん三人も抱えて学級委員がつとまるか。おれ無理やで」
新幹線の座席を見わたして、八郎がうなだれた。
とりあえずは、この悪たれ三人衆を一緒にすることなく、されど近くに集めよう──と、向かい合う四人席のうち柊介のとなりに明夫、春菜のとなりに恵子という監視役を配置。通路を挟んだとなりの席には、武晴のとなりに松子を据えて、その向かいに八郎と京子が座ることとなった。はたして、これが吉と出るか凶と出るか──。
図らずも恵子とおなじボックス席に座ることとなった明夫は、「えっ」と小さく声を出し、ハンカチで額の汗をぬぐった。
「おお、なかなかええ布陣やないか。考えたな八郎」
高村である。
先日のひどく疲れたようすはどこにもなく、晴れ晴れとした顔で車内を歩いている。どうやら自クラスの生徒たちひとりひとりに声をかけて回っているらしい。
「気分わるくなったらすぐに言いなさいよ。先生は前に座っとるからな」
「…………」
はーい、と良い返事をする生徒たちのなか、高村を見つめる柊介の顔色がわずかにくもる。
そしてすぐに車窓へと目線をうつした。
車窓から見える景色が、いつの間にか田園風景に変わっている。
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