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第八夜
第49話 意外な助太刀
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埠頭には続々と警察が集まっている。
数台の救急車が次々とけが人を乗せていく。現場は騒然、すでに張られた規制線の外では埠頭スタッフや十数人の野次馬が首を伸ばして中のようすをさぐっていた。
森谷から連絡を受けて、山下朋子の夫を連れてきた三國と三橋が野次馬を見渡す。
「大変なことになってますねェ」
「ったく。スタッフはともかく、あのフリー記者みたいなやつらはいったいどこから嗅ぎつけてやってくるんだか。行きましょう」
と、苦々しげにつぶやく三橋を先頭に、三國と山下も森谷が待機する現場へ急ぎ足で向かう。が、その道中で三國の足が止まった。
──臭う。
すんすん、としきりに臭いを嗅ぐ。
「姐さん、ちょっと待った」
「なに」
「臭います。ちょっと山下さんと先行っててくだせえ」
言うなり、三國の足は倉庫の裏へと向けられた。背後で三橋が何言か文句をさけんでいるようだが、とりあえず森谷に任せようと聞かぬふりして先をゆく。裏手には別会社所有の倉庫群が並んでいるが、そのうちのひとつが妙に気になった。
刑事の勘というやつか。
いや、やはり臭いがする。きなくさいという意味である。
倉庫に駆け寄ってまもなく、自身の勘が役に立つことを知った。なぜならそこには、白いスーツと白の狐面をつけた男が数名倒れ伏していたからである。
「なんだ、こりゃ──」
膝をついて容態を確認する。いずれも息はある。気を失っているだけらしい。
森谷からの通信を聞くかぎりでは、たしかに白服の人間が六名負傷、救急手配をしたとのことだった。先ほど走っていった救急車にそれらが乗っていたのだろう。ならばこの男たちはいったい。
(いや、今は向こうと合流しよう)
まもなく駆けつけた数人の制服警官に後を託し、三國はふたたび三橋らのもとへと向かった。
──のを倉庫の陰から見送った存在がある。
白服たちの屍にドン引きする将臣と一花を背後に、パンパンと手を叩く本間と、もうひとり。
「いやはや。どなたか存じませんが、大変助かりました」
「いやなに。需要がおなじだったもんだからサ」
と、サングラスをかけた男がにんまりわらって襟元を正す。この男がいったい何者で、ここに至るまでになにが起きたのか──それを説明するためにはすこし時間を巻き戻す必要がある。
──時は、沢井と森谷が六名の白服負傷者を発見したころ。
本間が運転する車もほどなく裏手からこの埠頭へ立ち入った。一刻も早く恭太郎のもとへたどり着きたい将臣と一花に対し、藤宮家執事の本間はひと味ちがった。
早々に下車し、徒歩で埠頭内を散策。
沢井と森谷が駆けた道の一本裏を通って、恭太郎がいるであろう民間倉庫の一角へ向かう矢先、目前にこの白服たちが立ちはだかった。対人格闘など専門ではない将臣は、早々に諦念を抱いたが、そのときどこからともなく、このサングラスの男があらわれたのである。
「お困り?」
男は本間に問うた。
本間は目尻に皺を刻んで、ハイとうなずいた。
そこから始まったバトル映画は圧巻のひと言。一見枯れ木のような本間だが、ひとたび格闘が始まると相手の攻撃をいなして躱して、隙をついて攻撃するという、老兵らしいいなせな戦いぶりを見せた。こちらのサングラスの男も多少格闘技の心得があるのか、銃を構える白服たちを蹴り上げ、背負投げ、関節を外し──と、めちゃくちゃに暴れた。気が付けば、ものの五分も経たぬうちに四名いた白服は全員ダウン。本間と男は乱れた服を整えていたわけである。──
「あれエ」
と、一花は目を見開いてサングラスの男を見つめた。
「アンタ、リ、ラ。ル」
「ルポライター」
「それ! じゃん。こんなトコでなにしてんのオ」
「いい加減覚えてくれませんかねエ、オレの職業」
と、ルポライターを名乗る男は肩をすくめた。
そう、この男のことは知っている。これまで将臣ら三人組が幾度かの殺人事件に関わってきたが、そのたび事件後にこちらへ接触してきては、意味の分からぬことを言い置いていった人物。なかでも一花はよく絡まれるようで、ともにパフェを食した間柄だとか。
「ルポライターさんでしたか。そのわりに武芸も達者とは恐れ入ります。わたくし藤宮家執事の、本間と申します」
「ああこいつはどうも、ご丁寧に──つってもいまは藤宮の坊ンを保護するのが先じゃねえかい。この先にいるんだろ?」
「ええ。とはいえ刑事さん方がすでに向かわれましたから、わたくしめらに出来ることはそうありますまい。規制線の外側で待つと致しましょう」
「ずいぶん悠長だな。大丈夫かよ?」
「この時点で大丈夫でなければ、いまさらわたくしめらが向かったところでどうともならぬでしょうからね」
と、ニコニコ笑いながら言う本間に、一花はケラケラわらった。
「そオよね。きっと恭ちゃんならなんとかなってるわよ。あたしたちがここにたどり着いた音だって、ゼッタイ聞こえてっかんね。外から応援してあげなくちゃ」
「────」
呑気なものだ、と言いたげにルポライターは煙草に火をつけた。将臣が男に目を向ける。
「それより貴方はなぜここに?」
「ルポライターだぜ。わけは決まってんだろ」
「それにしてはずいぶん、動きが速いですね。到着が通報前に駆けつけた警察とそう変わらないなんて」
「まあそこはほら。ルポライターだから」
「ルポライターってひと言でなんでも誤魔化せると思ってません?」
「そんなことは。でも助かったろ? ならいいじゃんか」
「────貴方が、以前から追っかけている事案に、また今回も関係があるということですね」
「さて──」
どうかねえ、と彼はニヤケ顔で濁したが、その顔はほぼ肯定しているといってよかった。
さて、現場である。
「恭!」
と沢井が突入したときにはすでに恭太郎以外の全員が戦意喪失しており、黒須景一の出血がひどいこともあって早急に救急手配が行われた。岩壁はかすり傷程度だったため景一の付き添いというポジションで病院へ。が、しかし景一や岩壁を攻撃したと思われる人物の影はどこにもなく、保護した恭太郎や灯里も渋い顔をして口ごもる。
さらに問い詰められるとおもってか、首をすくめる恭太郎であったが、沢井は心底からの息を吐き、乱雑に彼の頭を撫で回した。
「ともあれ、なんだ。無事で良かった」
「アレ? 拳骨の一発も振ってくるかと」
「いまの今まで怖い思いしていたガキに、そこまで鬼じゃねえよ」
「うふふ」
恭太郎が頬を綻ばせる。
沢井は眉を吊り上げた。
「だが一連の事はあとでしっかり聞かせてもらうからな」
「うん。それより、奥」
「あ?」
「シゲさんたちが探してたものがあるそうだよ。なあ、あかり」
彼の声色がわずかに沈んだ。
数台の救急車が次々とけが人を乗せていく。現場は騒然、すでに張られた規制線の外では埠頭スタッフや十数人の野次馬が首を伸ばして中のようすをさぐっていた。
森谷から連絡を受けて、山下朋子の夫を連れてきた三國と三橋が野次馬を見渡す。
「大変なことになってますねェ」
「ったく。スタッフはともかく、あのフリー記者みたいなやつらはいったいどこから嗅ぎつけてやってくるんだか。行きましょう」
と、苦々しげにつぶやく三橋を先頭に、三國と山下も森谷が待機する現場へ急ぎ足で向かう。が、その道中で三國の足が止まった。
──臭う。
すんすん、としきりに臭いを嗅ぐ。
「姐さん、ちょっと待った」
「なに」
「臭います。ちょっと山下さんと先行っててくだせえ」
言うなり、三國の足は倉庫の裏へと向けられた。背後で三橋が何言か文句をさけんでいるようだが、とりあえず森谷に任せようと聞かぬふりして先をゆく。裏手には別会社所有の倉庫群が並んでいるが、そのうちのひとつが妙に気になった。
刑事の勘というやつか。
いや、やはり臭いがする。きなくさいという意味である。
倉庫に駆け寄ってまもなく、自身の勘が役に立つことを知った。なぜならそこには、白いスーツと白の狐面をつけた男が数名倒れ伏していたからである。
「なんだ、こりゃ──」
膝をついて容態を確認する。いずれも息はある。気を失っているだけらしい。
森谷からの通信を聞くかぎりでは、たしかに白服の人間が六名負傷、救急手配をしたとのことだった。先ほど走っていった救急車にそれらが乗っていたのだろう。ならばこの男たちはいったい。
(いや、今は向こうと合流しよう)
まもなく駆けつけた数人の制服警官に後を託し、三國はふたたび三橋らのもとへと向かった。
──のを倉庫の陰から見送った存在がある。
白服たちの屍にドン引きする将臣と一花を背後に、パンパンと手を叩く本間と、もうひとり。
「いやはや。どなたか存じませんが、大変助かりました」
「いやなに。需要がおなじだったもんだからサ」
と、サングラスをかけた男がにんまりわらって襟元を正す。この男がいったい何者で、ここに至るまでになにが起きたのか──それを説明するためにはすこし時間を巻き戻す必要がある。
──時は、沢井と森谷が六名の白服負傷者を発見したころ。
本間が運転する車もほどなく裏手からこの埠頭へ立ち入った。一刻も早く恭太郎のもとへたどり着きたい将臣と一花に対し、藤宮家執事の本間はひと味ちがった。
早々に下車し、徒歩で埠頭内を散策。
沢井と森谷が駆けた道の一本裏を通って、恭太郎がいるであろう民間倉庫の一角へ向かう矢先、目前にこの白服たちが立ちはだかった。対人格闘など専門ではない将臣は、早々に諦念を抱いたが、そのときどこからともなく、このサングラスの男があらわれたのである。
「お困り?」
男は本間に問うた。
本間は目尻に皺を刻んで、ハイとうなずいた。
そこから始まったバトル映画は圧巻のひと言。一見枯れ木のような本間だが、ひとたび格闘が始まると相手の攻撃をいなして躱して、隙をついて攻撃するという、老兵らしいいなせな戦いぶりを見せた。こちらのサングラスの男も多少格闘技の心得があるのか、銃を構える白服たちを蹴り上げ、背負投げ、関節を外し──と、めちゃくちゃに暴れた。気が付けば、ものの五分も経たぬうちに四名いた白服は全員ダウン。本間と男は乱れた服を整えていたわけである。──
「あれエ」
と、一花は目を見開いてサングラスの男を見つめた。
「アンタ、リ、ラ。ル」
「ルポライター」
「それ! じゃん。こんなトコでなにしてんのオ」
「いい加減覚えてくれませんかねエ、オレの職業」
と、ルポライターを名乗る男は肩をすくめた。
そう、この男のことは知っている。これまで将臣ら三人組が幾度かの殺人事件に関わってきたが、そのたび事件後にこちらへ接触してきては、意味の分からぬことを言い置いていった人物。なかでも一花はよく絡まれるようで、ともにパフェを食した間柄だとか。
「ルポライターさんでしたか。そのわりに武芸も達者とは恐れ入ります。わたくし藤宮家執事の、本間と申します」
「ああこいつはどうも、ご丁寧に──つってもいまは藤宮の坊ンを保護するのが先じゃねえかい。この先にいるんだろ?」
「ええ。とはいえ刑事さん方がすでに向かわれましたから、わたくしめらに出来ることはそうありますまい。規制線の外側で待つと致しましょう」
「ずいぶん悠長だな。大丈夫かよ?」
「この時点で大丈夫でなければ、いまさらわたくしめらが向かったところでどうともならぬでしょうからね」
と、ニコニコ笑いながら言う本間に、一花はケラケラわらった。
「そオよね。きっと恭ちゃんならなんとかなってるわよ。あたしたちがここにたどり着いた音だって、ゼッタイ聞こえてっかんね。外から応援してあげなくちゃ」
「────」
呑気なものだ、と言いたげにルポライターは煙草に火をつけた。将臣が男に目を向ける。
「それより貴方はなぜここに?」
「ルポライターだぜ。わけは決まってんだろ」
「それにしてはずいぶん、動きが速いですね。到着が通報前に駆けつけた警察とそう変わらないなんて」
「まあそこはほら。ルポライターだから」
「ルポライターってひと言でなんでも誤魔化せると思ってません?」
「そんなことは。でも助かったろ? ならいいじゃんか」
「────貴方が、以前から追っかけている事案に、また今回も関係があるということですね」
「さて──」
どうかねえ、と彼はニヤケ顔で濁したが、その顔はほぼ肯定しているといってよかった。
さて、現場である。
「恭!」
と沢井が突入したときにはすでに恭太郎以外の全員が戦意喪失しており、黒須景一の出血がひどいこともあって早急に救急手配が行われた。岩壁はかすり傷程度だったため景一の付き添いというポジションで病院へ。が、しかし景一や岩壁を攻撃したと思われる人物の影はどこにもなく、保護した恭太郎や灯里も渋い顔をして口ごもる。
さらに問い詰められるとおもってか、首をすくめる恭太郎であったが、沢井は心底からの息を吐き、乱雑に彼の頭を撫で回した。
「ともあれ、なんだ。無事で良かった」
「アレ? 拳骨の一発も振ってくるかと」
「いまの今まで怖い思いしていたガキに、そこまで鬼じゃねえよ」
「うふふ」
恭太郎が頬を綻ばせる。
沢井は眉を吊り上げた。
「だが一連の事はあとでしっかり聞かせてもらうからな」
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