解錠令嬢と魔法の箱

アシコシツヨシ

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21.おねむ

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 夜十時。その日は満月の美しい夜でした。

 食後、自室に戻って、妃教育の本に目を通した後、教育係のロイから届いた明日の予定表を確認していました。

 明日の夜は六時から婚約披露パーティが開かれます。
 その前に着替えるのは勿論ですが、王家一家と顔合わせがあります。
 予定を確認し終えた頃、寝室側の扉から、ノックする音が聞こえて来ました。

「はい、どうぞ。」

 侍女かと思ったら、殿下でした。

「セシル、明日は婚約披露パーティだ。それが終われば暫く毎日騎士棟へ通って貰う。今日も慣れない事の連続だっただろう。疲れを溜めないよう、休んだ方が良い。」

「お気遣い有り難うございます。もう休みます。」

 サッと本を片付けて、殿下と寝室に入室しました。

「え!?」

 昨日はサイドテーブルを挟んで配置されていた二台のベッドが、今日はピッタリとくっつけられて配置されています。
 これではまるで、ダブルベッドです。

 結婚前に寝室が同じなのも驚きましたが、ベッドまでくっつくなんて予想外でした。

「やむにやまれぬ事情が出来た。心配しなくても手は出さない。」

 その、やむにやまれぬ事情とやらが気になりますが、深追いは痛い目を見ると経験から学んでいますので、聞かない方が安全でしょう。

 殿下が何かするとは思っていませんが、気まずくて、安らげそうにありません。

「そう、ですか。事情があるのでしたら、仕方がありませんね。私は左側のベッドを使えばよろしいですか?」

 見た目は同じですが、殿下専用のベッドが決まっている筈ですので、確認しておきます。

「ああ。そちらで。」
「では、お休みなさいませ。」

 ガウンを脱いでベッドに入ると、殿下から距離を取る為、端に寄って、殿下に背を向ける形で横になりました。
 気まずいですが、寝てしまえば何も気になりません。

 幸い今日は昨日より体力も頭も使って疲れています。
 寝付きは良い方なので、直ぐに眠れるでしょう。
 眠りに集中するために目を閉じた時でした。

「セシル、もっとこちらへ。離れていては手が繋げない。」

 手を繋ぐ?
 起き上がって殿下を見ますと、私のベッド近くまで寄って寝転がっている殿下が、こちらに手を伸ばしています。

「寝ている時にも手を繋がなければならないのですか?」
「仕方ない。やむにやまれぬ事情だ。」

 もう、なんなのですか。そのやむにやまれぬ事情とは!
 思わず口から出そうになりましたが、堪えました。
 睡眠中も存在を消せるよう警戒するなんて、詳しく聞くのは嫌な予感しかしません。
 
「分かりました。ベッドをくっつけたのは手を繋ぐ必要があったからですね。」
「そうだ。」

 殿下がそう考えるならば従うべきなのでしょう。
 殿下と距離を保ちつつ、渋々手を伸ばしたら、キュッと握られました。
 こんな事をして眠れるのでしょうか?

「!?」

 殿下の親指が手の甲を撫でています。

「セシルの手は小さくて柔らかい。」

 殿下は、私の手をじっと見つめながら、求めてもいないのに感想を述べています。
 殿下に比べれば、大抵の女性はそうですよ。
 恥ずかしいので、変な触り方をしないで欲しいです。
 なんて、殿下に言う勇気は持ち合わせていません。

「殿下、手の感想は良いので寝ましょう、ね。明日もお忙しいのでしょう?」

 頑張って説得します。
 せめて殿下に眠って貰わなければ、気が散って眠れそうにありません。

「それもそうだ。お休み、セシル。」

 殿下はベッド近くにある明かりを消すと、ふわりと微笑んでから目を閉じました。
 こちらに体を向けたまま……。
 せめて仰向けで寝て欲しかったです。

 カーテンの隙間から差し込む月光が、丁度、殿下の顔を照らしています。
 美しい寝顔が見放題です。が、今は求めていないのです。

 顔がこちらに向いているだけで、見られているような気がして、落ち着きません。
 殿下に背を向けたいけれど、手を繋いでいるので無理そうです。
 仕方なく仰向けになって目を閉じました。

 全然眠れそうに無い……なんて思ったのは、その時だけで、いつの間にか眠りに落ちていました。
 しっかりと熟睡出来たのか、思ったよりも爽やかな朝を迎えられました。

 寝付きの良さに感謝です。
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