21 / 114
21.おねむ
しおりを挟む
夜十時。その日は満月の美しい夜でした。
食後、自室に戻って、妃教育の本に目を通した後、教育係のロイから届いた明日の予定表を確認していました。
明日の夜は六時から婚約披露パーティが開かれます。
その前に着替えるのは勿論ですが、王家一家と顔合わせがあります。
予定を確認し終えた頃、寝室側の扉から、ノックする音が聞こえて来ました。
「はい、どうぞ。」
侍女かと思ったら、殿下でした。
「セシル、明日は婚約披露パーティだ。それが終われば暫く毎日騎士棟へ通って貰う。今日も慣れない事の連続だっただろう。疲れを溜めないよう、休んだ方が良い。」
「お気遣い有り難うございます。もう休みます。」
サッと本を片付けて、殿下と寝室に入室しました。
「え!?」
昨日はサイドテーブルを挟んで配置されていた二台のベッドが、今日はピッタリとくっつけられて配置されています。
これではまるで、ダブルベッドです。
結婚前に寝室が同じなのも驚きましたが、ベッドまでくっつくなんて予想外でした。
「やむにやまれぬ事情が出来た。心配しなくても手は出さない。」
その、やむにやまれぬ事情とやらが気になりますが、深追いは痛い目を見ると経験から学んでいますので、聞かない方が安全でしょう。
殿下が何かするとは思っていませんが、気まずくて、安らげそうにありません。
「そう、ですか。事情があるのでしたら、仕方がありませんね。私は左側のベッドを使えばよろしいですか?」
見た目は同じですが、殿下専用のベッドが決まっている筈ですので、確認しておきます。
「ああ。そちらで。」
「では、お休みなさいませ。」
ガウンを脱いでベッドに入ると、殿下から距離を取る為、端に寄って、殿下に背を向ける形で横になりました。
気まずいですが、寝てしまえば何も気になりません。
幸い今日は昨日より体力も頭も使って疲れています。
寝付きは良い方なので、直ぐに眠れるでしょう。
眠りに集中するために目を閉じた時でした。
「セシル、もっとこちらへ。離れていては手が繋げない。」
手を繋ぐ?
起き上がって殿下を見ますと、私のベッド近くまで寄って寝転がっている殿下が、こちらに手を伸ばしています。
「寝ている時にも手を繋がなければならないのですか?」
「仕方ない。やむにやまれぬ事情だ。」
もう、なんなのですか。そのやむにやまれぬ事情とは!
思わず口から出そうになりましたが、堪えました。
睡眠中も存在を消せるよう警戒するなんて、詳しく聞くのは嫌な予感しかしません。
「分かりました。ベッドをくっつけたのは手を繋ぐ必要があったからですね。」
「そうだ。」
殿下がそう考えるならば従うべきなのでしょう。
殿下と距離を保ちつつ、渋々手を伸ばしたら、キュッと握られました。
こんな事をして眠れるのでしょうか?
「!?」
殿下の親指が手の甲を撫でています。
「セシルの手は小さくて柔らかい。」
殿下は、私の手をじっと見つめながら、求めてもいないのに感想を述べています。
殿下に比べれば、大抵の女性はそうですよ。
恥ずかしいので、変な触り方をしないで欲しいです。
なんて、殿下に言う勇気は持ち合わせていません。
「殿下、手の感想は良いので寝ましょう、ね。明日もお忙しいのでしょう?」
頑張って説得します。
せめて殿下に眠って貰わなければ、気が散って眠れそうにありません。
「それもそうだ。お休み、セシル。」
殿下はベッド近くにある明かりを消すと、ふわりと微笑んでから目を閉じました。
こちらに体を向けたまま……。
せめて仰向けで寝て欲しかったです。
カーテンの隙間から差し込む月光が、丁度、殿下の顔を照らしています。
美しい寝顔が見放題です。が、今は求めていないのです。
顔がこちらに向いているだけで、見られているような気がして、落ち着きません。
殿下に背を向けたいけれど、手を繋いでいるので無理そうです。
仕方なく仰向けになって目を閉じました。
全然眠れそうに無い……なんて思ったのは、その時だけで、いつの間にか眠りに落ちていました。
しっかりと熟睡出来たのか、思ったよりも爽やかな朝を迎えられました。
寝付きの良さに感謝です。
食後、自室に戻って、妃教育の本に目を通した後、教育係のロイから届いた明日の予定表を確認していました。
明日の夜は六時から婚約披露パーティが開かれます。
その前に着替えるのは勿論ですが、王家一家と顔合わせがあります。
予定を確認し終えた頃、寝室側の扉から、ノックする音が聞こえて来ました。
「はい、どうぞ。」
侍女かと思ったら、殿下でした。
「セシル、明日は婚約披露パーティだ。それが終われば暫く毎日騎士棟へ通って貰う。今日も慣れない事の連続だっただろう。疲れを溜めないよう、休んだ方が良い。」
「お気遣い有り難うございます。もう休みます。」
サッと本を片付けて、殿下と寝室に入室しました。
「え!?」
昨日はサイドテーブルを挟んで配置されていた二台のベッドが、今日はピッタリとくっつけられて配置されています。
これではまるで、ダブルベッドです。
結婚前に寝室が同じなのも驚きましたが、ベッドまでくっつくなんて予想外でした。
「やむにやまれぬ事情が出来た。心配しなくても手は出さない。」
その、やむにやまれぬ事情とやらが気になりますが、深追いは痛い目を見ると経験から学んでいますので、聞かない方が安全でしょう。
殿下が何かするとは思っていませんが、気まずくて、安らげそうにありません。
「そう、ですか。事情があるのでしたら、仕方がありませんね。私は左側のベッドを使えばよろしいですか?」
見た目は同じですが、殿下専用のベッドが決まっている筈ですので、確認しておきます。
「ああ。そちらで。」
「では、お休みなさいませ。」
ガウンを脱いでベッドに入ると、殿下から距離を取る為、端に寄って、殿下に背を向ける形で横になりました。
気まずいですが、寝てしまえば何も気になりません。
幸い今日は昨日より体力も頭も使って疲れています。
寝付きは良い方なので、直ぐに眠れるでしょう。
眠りに集中するために目を閉じた時でした。
「セシル、もっとこちらへ。離れていては手が繋げない。」
手を繋ぐ?
起き上がって殿下を見ますと、私のベッド近くまで寄って寝転がっている殿下が、こちらに手を伸ばしています。
「寝ている時にも手を繋がなければならないのですか?」
「仕方ない。やむにやまれぬ事情だ。」
もう、なんなのですか。そのやむにやまれぬ事情とは!
思わず口から出そうになりましたが、堪えました。
睡眠中も存在を消せるよう警戒するなんて、詳しく聞くのは嫌な予感しかしません。
「分かりました。ベッドをくっつけたのは手を繋ぐ必要があったからですね。」
「そうだ。」
殿下がそう考えるならば従うべきなのでしょう。
殿下と距離を保ちつつ、渋々手を伸ばしたら、キュッと握られました。
こんな事をして眠れるのでしょうか?
「!?」
殿下の親指が手の甲を撫でています。
「セシルの手は小さくて柔らかい。」
殿下は、私の手をじっと見つめながら、求めてもいないのに感想を述べています。
殿下に比べれば、大抵の女性はそうですよ。
恥ずかしいので、変な触り方をしないで欲しいです。
なんて、殿下に言う勇気は持ち合わせていません。
「殿下、手の感想は良いので寝ましょう、ね。明日もお忙しいのでしょう?」
頑張って説得します。
せめて殿下に眠って貰わなければ、気が散って眠れそうにありません。
「それもそうだ。お休み、セシル。」
殿下はベッド近くにある明かりを消すと、ふわりと微笑んでから目を閉じました。
こちらに体を向けたまま……。
せめて仰向けで寝て欲しかったです。
カーテンの隙間から差し込む月光が、丁度、殿下の顔を照らしています。
美しい寝顔が見放題です。が、今は求めていないのです。
顔がこちらに向いているだけで、見られているような気がして、落ち着きません。
殿下に背を向けたいけれど、手を繋いでいるので無理そうです。
仕方なく仰向けになって目を閉じました。
全然眠れそうに無い……なんて思ったのは、その時だけで、いつの間にか眠りに落ちていました。
しっかりと熟睡出来たのか、思ったよりも爽やかな朝を迎えられました。
寝付きの良さに感謝です。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
97
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる